奴隷ができました
ボクは今、月明かりに照らされた夜空を、飛んでいます。腕には、女の子を抱いて、です。
「ひゃああああぁぁぁぁぁぁ!」
「わひゃああぁぁぁぁぁぁぁ!」
抱いているのは勿論、ユウリちゃん。ボクが空高く飛び上がる度に、悲鳴を上げてボクに強く抱きついてくる。その度に、ユウリちゃんのおっぱいがボクの顔面に強く押し付けられて、ボクも声を上げてしまう。二人の声は、シンクロして、まるで音楽のよう。
ボクが、急いで町へ向かっている理由は、ユウリちゃんを助けるため。ユウリちゃんのHPは、もう半分を切っている。先ほどからちょっと息を切らして、苦しそうにし始めているから、更に急がないといけない。
道なんて、ボクには関係ない。ただ真っ直ぐ最短の距離を走り、とにかく町へ行くんだ。
そうして町へと辿り着くが、中に入るための城壁の門には、見張りがいる。もしも通行許可とかがいるのなら、話が長引くだけ。本音を言えば、知らない人と会話したくない。という事で、ボクは城壁を飛び越え、町の中へと侵入する。
もう夜も遅いため、辺りに人はいない。
どうしようどうしよう。奴隷商館がどこなのか、聞ける人がいないんだけど!あ、でも人がいても、聞けないや。良かった、いなくて。
「……ネモさん」
ユウリちゃんの元気は、更になくなって、何も喋らなくなっていた。その上、ボクに抱きつく力も弱弱しく、苦しげだ。
ボクはそんなユウリちゃんの手を握り締める。どうにかして、助けてあげないと……!
すると、願いが通じたのか、ボクの目の前に、地図の画面が開かれた。どうやら、地図機能もあったみたい。洞窟の時は開かなかったのに、何故。まぁいいや。ボクは奴隷商館の場所を地図で検索すると、目的地にセット。一っ飛びで、その前に着地した。
しかし、その扉は閉じられていて、どうやら営業時間外みたい?ボクはノックしてみるけど、反応はない。
「す、すみませーん……」
精一杯の声を出してみても、ダメ。よし、帰ろう。
と思ったけど、この腕には苦しげな、ユウリちゃん。HPバーはもう、残り僅かだ。
ダメだ。ボクは、いつも逃げてきた。でも今は、今だけは、逃げちゃダメな時だと、思う。だから、勇気を振り絞って、その扉のノブに、手をかけた。鍵がかかっていたけど、少し力をいれて鍵を破壊。中へと入る。
お店の中に、灯りはない。
「すみませーん……」
声を掛けるけど、やっぱり誰も居ない。うう……暗くて、怖いよ。お化けが出そう。
なんて思っていると、大きな音がして、ボクは腰を抜かしてしまった。
「ひゃふぅ!」
「っ~~~~~!!」
音をたてたのは、檻の中に閉じ込められた、女の子だった。その子が檻に体当たりをして、大きな音を立てたのだ。口枷を付けた、裸の女の子。全身鞭で打たれたような、ミミズ腫れの跡があって、痛々しい。その両手は後ろ手に拘束されていて、檻の中でも自由がない。まだ子供だというのに、可愛そうに。でも、その目は必死の形相で、ちょと怖いよ。それでも、金髪でキレイな子だ。耳が尖っているけど、エルフ族の子かな?なんとなく、誰かに似ているような気もするけど、気のせいだよね。
それをきっかけに、他の人たちも騒ぎだし、大きな音で包まれる。どうやら、皆眠っていただけで、いっぱいある檻の中には、奴隷さん達がわんさかいたみたい。助けて、出して、と訴えられるが、ボクにはどうする事もできないよ。というか、こっちを見ないで、お願いだから。
「うるさーい!何を騒いでるんだ、奴隷どもー!」
突然、部屋に灯りが灯された。それをしたのは、下着姿の、セクシーな女の人。しかも、透ける下着だから、色々見えちゃってる。髪の毛がボサボサなのは、たぶん寝てたからなのかな。
「んぅ?」
その人は、ユウリちゃんを腕に抱くボクを見て、首を傾げる。
ボクはその人のステータス画面を見て、ステータスを確認。名前は、ラメダ。職業は、奴隷商館の主。この人なら、きっとユウリちゃんの奴隷紋を消して、助けてくれるはずだ。
「こ、この子を助けてください……!」
「コレは……奴隷決壊だね。あんた、この子の持ち主を殺したのかい?」
女の人──ラメダさんは、ユウリちゃんのお腹に手をかざすや否や、そう言った。正にその通り。ボクはコクコクと縦に頷いて、肯定。
「コレ、ゲットル奴隷商会の紋章じゃないか。私はまだ、死にたくないんだよ。他をあたっておくれ」
ユウリちゃんのお腹の紋章は、円の中に、上にいくほど短くなる三本線に、丸い点が二つ、真ん中の線のやや上に描かれた物だ。
それを確認すると、ラメダさんは顔をしかめ、断られてしまう。
早くしないといけないのに、それはないだろう!ボクは怒りのあまり、そのラメダさんの頬を片手で握り、目で威嚇する。このまま、握りつぶすこともできるんだぞ。ボクにとって、造作もない事だ。ギリギリと力を篭めていくと、その顔が徐々に、恐怖に歪んでいき、涙があふれ出てくる。じたばたと暴れ、ボクの腕をひっかいてくるが、全く痛くないし、拘束もとけない。分かったら、すぐにユウリちゃんを助けるんだ。
ボクは、目でそう訴えて、ラメダさんから手を離す。
「あ、あぁぁぁぁ……」
解放されたラメダさんは、涎を垂らしながら、痛がる素振りを見せるが、やはり分かっていないらしい。今、ユウリちゃんは死にそうなんだよ。そんな事をしてる場合じゃない。
「わ、分かった、分かったから、睨まないで!こっち、こっちに来て。早くしないと、その子が死ぬよ」
ラメダさんが慌ててそう言い出して、ボクも慌ててユウリちゃんを連れて、付いていく。店の奥へと行くと、そこは拘束台のある、怪しげな薬やら道具やらが並ぶ、部屋だった。
「そこに寝かせて」
ボクは言われたとおり、ユウリちゃんを拘束台の上にのせる。と、早速道具を棚から見繕ったラメダさんが、作業に入る。まず、服を胸の上までめくり上げ、お腹から胸までが露にさせた。その光景を、ボクは目を覆いながらも、しっかりと指の間から拝見。
「大丈夫、間に合うよ。ゲットル商会の奴隷紋は、単純な構築なんだ。主が死んでるのなら、上書きは簡単だよ」
ラメダさんはそう言って、奴隷紋に手をかざすと、その紋章が光り輝き始める。それに呼応して、ユウリちゃんが苦しげな声を上げるので、ボクはその手を握った。
続いて、ラメダさんは怪しげな液体を、ユウリちゃんの紋章の上に、一滴垂らす。と、その紋章が光を急速に失っていき、完全に消失。それを見て、ボクは安心した。
「私の手の上に、手をのせて」
ラメダさんの指示に、ボクはすぐに従う。ボクの手が、ラメダさんの手と重なると、ボクの中から何かが、ラメダさんの手を伝って流れていった気がした。
すると、次の瞬間に、新たな紋章が浮かび上がってくる。それは、ハートマークに翼の生えた、奴隷紋。それが完全に定着し、ラメダさんはユウリちゃんから手をどけた。
「これで、この子は貴女の奴隷よ。好きにするといいわ」
「へ?」
それは、予想外でした。