冒涜です
「落ち着きなよ、ネル」
「……あの町は、モンスター不可侵の町。常に、大聖堂の聖女様が、結界を張っているのに、モンスターを連れて行ってみなさい。入ろうとした瞬間に、モルモルガーダーが消し飛ぶわよ」
メルテさんに咎められたネルエルさんは、落ち着きを取り戻し、静かにそう語った。ネルエルさんは、決してぎゅーちゃんを嫌って怒鳴った訳ではなくて、その身を案じて、大きな声を出してしまったみたい。
「そういや、そんなのもあったねぇ。忘れてたわ」
「聖女様にお願いして、一時的に結界を解いてもらう、とか」
「ダメよ。結界は一度解いたら、張りなおすのに莫大な魔力が必要になる。大体にして、モンスターを中に入れたいから、結界を解いてくれなんて言った所で、解いてくれないし、モンスターを町にいれて、何をするつもりだという話になる。下手をすれば、身柄を拘束されて拷問物よ」
「そういうわけだ。モルモルガーダー。元気でな!」
「ぎゅう!?」
拷問と聞いた瞬間、メルテさんは元気良く手を振り上げて、ぎゅーちゃんにそう挨拶。
「ぎゅーちゃんさん……どうかお元気で」
「さようなら、ぎゅーちゃん。貴方なら、一人でも生きていけるでしょ」
レンファエルさんと、ユウリちゃんも、ぎゅーちゃんにお別れのご挨拶。
でも、連れて行ったら拷問されちゃうかもしれないのなら、仕方ない。最初から、ぎゅーちゃんを連れて行くなんて、無理な話だったんだよ。
そんな訳で、ボクもぎゅーちゃんに向かって、手を上げてお別れのご挨拶……と思ったんだけど、さすがに可愛そう。ぎゅーちゃんなんて、ショックでユウリちゃんの掌の上で、溶けて液体のようになってしまっている。
1人の寂しさを、ボクはよく知っている。あの寂しさを、ぎゅーちゃんはずっと、何年も味わって、過ごしてきたのだ。ここでボクが突き放したら、ぎゅーちゃんはもしかしたら、この先ずっと1人なのかもしれない。そう思うと、ぎゅーちゃんにお別れの挨拶ができなかった。
「連れて行こう」
気づけばボクは、そう言っていた。ボクの言葉を聞いたぎゅーちゃんが、固体に戻る。
「ネモ。私の話を聞いていたの?もしこの子を連れて行ったら、この子が死んでしまうのよ?それでいいとでも言うの?」
「ぎゅーちゃんを残して行く事は、僕にはできません……とりあえず連れて行って、後の事はその時考えようと思います」
「良かったですね、ぎゅーちゃん。お姉さまなら、きっとなんとかしてくれますよ」
「ぎゅう!」
ぎゅーちゃんは、ユウリちゃんの掌の上から、ボクの頭に飛び乗ってきた。
「忠告は、した。後でどうなっても、知らないから」
「はい……」
ボクが答えると、ネルエルさんは、先ほどボクが指差した、町の方向へと歩き出してしまった。
「ネルは、モルモルガーダーに、一応感謝してるのさ。だから、あんたを心配して、言っているんだよ」
「ぎゅ」
メルテさんのフォローに、ボクの頭の上にいるぎゅーちゃんが返事をした。多分、分かってる、とか、そういう意味の返事だと思う。
それから、ぎゅーちゃんはボクの頭から飛び降りて、再び煙を巻き起こすと、元の大きさに戻った。そして、先行するネルエルさんを、触手で巻き上げて、自分の身体の上に乗せる。
「ぎゅっぎゅー!」
「ちょっと、モルモルガーダー!強引なのは、やめて!す、スカートがめくれちゃうから……!」
「ぎゅう……」
「怒ってる訳じゃない。これからは、気をつけて」
ロリ巨乳お姉さんと、触手モンスターの会話……。一歩間違えれば、ボクの想像を絶するような、えっちなイベントが待っているんだろうけど、そうはならない。ちょっと残念なような、なんて思っちゃいけない。ここは現実の世界なんだから、ゲームとは違って、やっていい事と、悪い事がある。
でも、気にしないようにしていたけど、ネルエルさんの胸は、本当にヤバイ。小柄なのに、何であんなに大きいの。ユウリちゃんなんて、みんなの目を盗んで、たまに凝視してるからね。いつか絶対に、手を出すよ。
「さぁ、私達も乗せてもらいましょう、ネモ様!」
「お姉さまは、私と、乗せてもらいます。なので、その手を離してもらえません?」
ボクの右手を取って、そう言ったレンファエルさんと、左手を取って、そんなレンファエルさんを威嚇する、ユウリちゃん。
この2人は相変わらず、仲が悪い。
「もてる女は辛いねぇ!がはは!」
メルテさんは、そんなボク達を見て、笑い飛ばしました。
ちなみに、ネルエルさんは鼻血を出していた。
ボク達は、ぎゅーちゃんに乗せられて、禁断の森を駆け抜ける。道中で、遭遇したモンスターは、全てぎゅーちゃんが瞬殺。ユウリちゃんや、レンファエルさんの足だと、1日はかかる道のりを、たったの1時間程で走破してみせた。
森を抜けたところで、ボク達はぎゅーちゃんから降りた。小さくなってもらって、ここからは歩きだ。
町までの道のりは、歩いて3時間くらいかな。遥か道の先に、町の城壁が見えているから、あとはそこを目指すだけ。
「んー!やっぱり日の光は気持ちいいねぇ!」
時間は、お昼過ぎくらい。太陽は、真上からちょっと傾いて、これから日没となる所だ。
メルテさんは、元気良く背伸びして、日光浴を楽しむ。
「メルテ。もう外なんですから、あんまり激しく動くのは止めたほうがいいですよ。その……見えてます」
レンファエルさんの、言うとおり。洞窟の中でもけっこう目立っていたけど、メルテさんは配慮というか、女らしさと言うか、恥じらいが足りない。露出の多いボロ布を着た格好なのに、自由気ままに動く物だから、色々な物が見えてしまっている。
「ぐふ」
それを見て、ユウリちゃんは下品な笑いを浮かべ、ネルエルさんは呆れた表情を浮かべる。
ボクは、その度に視線をずらして、フードを被って見ないようにするという、己の欲望との葛藤だ。
「大丈夫だって。あたしの身体に、色気を感じるヤツなんて、いないよ!」
そう言って、笑い飛ばす、メルテさん。そういう問題でもない気がするけど、色気がないというのは、間違っている。メルテさんだって、立派に女の子で、頼れる姉御肌の、美人さんだ。
「メルテさん!本気で言っているんですか!?」
「ゆ、ユウリ?」
それに怒ったのは、ユウリちゃん。メルテさんに掴みかかり、憤怒の目をメルテさんに向けている。
「メルテさんの身体は、凄くセクシーで、その筋肉質な身体に宿る肉体美もさることながら、身体のラインは美しくキレイです!それに色気を感じない?バカは休み休み言ってください!できるものなら、家にその身体を飾り、思うままに鑑賞したいですし、休日にはぴかぴかに磨き上げて、思う存分愛でたくなる魅力を持っています!なのに、先程の発言は、冒涜です!女性の身体をこよなく愛する私に対する、冒涜です!謝罪を要求します!」
「ご、ごめん……ごめんなさい!」
ユウリちゃんの、あまりの迫力に、メルテさんは涙目で謝った。
……いや、迫力って言うより、その発言が怖くて涙目になったのかな。家に飾るとか、ぴかぴかに磨くとか、怖いです。クレイジーです。とても引きます。
「分かってもらえて、嬉しいです」
ユウリちゃんは、そう言って、満足げに笑った。




