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ぎゅー


 次の日、ボクは身体を揺すられて、目が覚めた。


「おはよう、ネモ。よく眠れたかい?」


 目を開くと、ボクを見下ろしている、片目を髪で隠したメルテさんが、そこにいた。


「……メルテさん。おはようございまふ……」

「まふ?はは、寝ぼけてらぁ。そろそろ、起きれるかい?家のお嬢さんが、嫉妬で狂っちまいそうなんだ」


 そう言われて気づいたけど、ボクは、ユウリちゃんと抱き合って眠っていた。ボクは、ユウリちゃんを抱き枕に。ユウリちゃんは、ボクを抱き枕に。ボクの胸に顔をうずめたユウリちゃんは、本当に気持ち良さそうに眠っている。


「ネモ様のお胸に、涎をつけて……私の、ネモ様に……」


 そんなボクとユウリちゃんを、レンファエルさんが、真っ黒に染まった目で、見ていた。今にも、包丁で刺してきそうな雰囲気に、ボクは慌てて起き上がった。


「んぅ……お姉さま……?朝ですか?」


 ボクが起き上がったことにより、ユウリちゃんも目を覚ました。あくびをしながら、身体を伸ばす、ユウリちゃん。その姿は、ちょっと服を乱していて、色っぽい。


「おはようございます、ユウリさん。ゆっくり眠れましたか?眠れましたよね。ネモ様のお胸に、顔をうずめて気持ち良さそうでしたものね」

「……ふ」

「……」


 あざ笑ったユウリちゃんを、レンファエルさんは思い切り睨み付けた。両者の視線がぶつかり合い、火花を散らす。


「レン様。喧嘩は、ダメなんでしょ?」

「それとコレとは、別です、ネル。ユウリさんとはいつか、決着をつける必要のある、ライバルなのです」

「……一人の女性を、取り合う女と女……イイ」


 ネルエルさんは、静かに鼻血を漏らし、恍惚の表情を浮かべた。

 仲裁に入ったはずのネルエルさんがこれでは、何にもならない。頼りのメルテさんは、あははと笑い飛ばすだけ。なんだ、この状況。


「と、とにかく……!今は、喧嘩をしていたら、ダメですっ!もし仲良くできないなら……えと……嫌いです!嫌いになります!」

「くっ……ネモ様にそう言われては、仕方ありません……」


 レンファエルさんは、そう言って、その敵対的な目を下げてくれた。一方でユウリちゃんは、ショックを受けたような顔をして、その目に涙を浮かべる。


「お、お姉さまが……私を、嫌いに……?」

「ゆ、ユウリちゃん!?」

「ごめんなさい……お姉さまに嫌われたのを想像して、悲しくて涙が……」

「き、嫌わないよ!だから、泣かないで!」

「ぐす……本当ですか?本当なら、抱きしめて安心させてください……」

「うん、勿論!」


 ボクは、ユウリちゃんを、言われるがまま抱きしめて、その頭を撫でる。


「くっ!」

「ふ」


 ユウリちゃんが、笑った気がしたけど、気のせいだよね。




 隠れ家を後にしたボク達は、洞窟の出口を目指し、軽快な足取りで進んでいく。ゆっくりと休憩できたおかげで、ユウリちゃんの体力は大分回復しているみたい。その足取りは、ここへ来るときよりも、より軽く、早くなっている気がする。


「……それにしても、オークの気配がなさすぎますね」

「油断しないで、いきましょう。メルテ。警戒を怠らず、注意深く進んで」


 ネルエルさんが、先導するメルテさんに、そう声をかけた。昨日、ユウリちゃんが作った、魔力結晶鉱石の簡易ライトは、そのメルテさんが持っている。薄暗い中で、動く光は、目標にするのに丁度良い。

 前方の警戒は、メルテさんが。後方の警戒は、ネルエルさんが担当している。ボクと、ユウリちゃんとレンファエルさんは、中央を歩き、メルテさんに付いて歩いているという布陣。

 警戒している所、悪いんだけど、ボクは昨日の夜中に襲撃してきたオークリープを、1匹だけ残して全て殺した。その1匹には、死体のお掃除をさせ、次に遭遇したらオークを全滅させると警告して、立ち去らせてある。なのでたぶん、襲ってこないとは思います。まぁよっぽどのおバカさんなら、来るかもしれないけど、来ないと信じたい。


「はっ……!」


 突然、メルテさんが岩陰に隠れて、ボク達にも隠れるよう、手で指示をしてくる。その指示に従い、ボク達は岩陰に身を隠した。

 信じたかったのに、ボクの期待は、脆くも崩れ去ってしまった。ボク達の行く手に姿を現したのは、オーク。それも、昨日遭遇したオークよりも、一回り大きな巨体のオークだ。そんな巨体のオークに引き連れられて、20体程のオークが、ぞろぞろと歩いてくる。


 名前:オークキング

 Lv :55


 オークキングって事は、このオークの巣のボスなのかな。

 行き先はたぶん、あの隠れ家だ。せっかく忠告してあげたのに、本当に頭が悪い。


「隠れていてください」

「ダメよ、ネモ……!」


 立ち上がろうとしたボクの手を、ネルエルさんが掴んで止めた。


「だ、大丈夫です。それに、彼らは鼻がいいので……隠れても無駄、だと思います」

「でも、アレはオークキングと言って、他のオークとはレベルが違うの。一人で倒すなんて、無理。諦めて、逃げる方向で行きましょう」

「ネル……!ヤバイのが来た」

「分かってる。ここは、逃げる」


 そこへ、腰を低くして、メルテさんが合流。

 オーク達に、まだボク達の居場所はバレていない。逃げるのなら今しかないけど、出口はオーク達が歩いてきた方向なんだよね。


「あ」


 その時だった。突然、天井から降ってきた黒い塊が、オークキングを丸呑みにして、更に他のオーク達を、黒い触手を使い、一瞬にして殲滅した。あまりにも一瞬の出来事に、誰も、何も喋ろうとしない。

 ボクの腕を掴んでいたネルエルさんの手が、落ちたのを見計らい、ボクは岩陰から出た。


「ね、ネモ!アレだけはヤバイ……!」


 慌てて、メルテさんがボクを抱き締めて、歩みを止めてきた。けど、彼はもう、こちらに気づいている。ズルズルと、その黒い身体を引き摺って、こちらに歩み寄ってくる。


「あ、あの黒いのは……」

「モルモルガーダー……!危険度Sクラスの、正真正銘の、バケモノよ!皆逃げて!少しでも時間を稼ぐ!」

「待ってください!」


 ボクは、戦闘体勢に入ったネルエルさんを、慌てて止めた。

 その間にも、黒い球体は、どんどんこちらに近づいてくる。ボクを抱きとめていたメルテさんは、その姿に身体を震わせているけど、そんなに怖がる必要はない。


「ぎゅーちゃん!」

「ぎゅー!」


 黒く、丸い球体に、口だけの、触手の生えた物体。それは、ボクがこの世界に来て、初めて友達になったモンスターの、ぎゅーちゃんだ。


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