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喧嘩は、めっ


 食事を終えたユウリちゃんは、ベッドに横になり、すぐに眠りについてしまった。

 カエルの肉を食べてしまった事が、相当ショックだったみたいで、その後元気がなかったのが心配だ。どうやらユウリちゃんは、カエルが苦手だったみたい。そんな苦手なカエルを、知らずの内に食してしまった事が、ショックを受けた原因。ボクが確認もせずに手渡してしまったばかりに、申し訳ない。


「しっかし、カエルが苦手とは、珍しい冒険者だねぇ」

「苦手な物なんて、誰にでもある。それをとやかく言う資格は、誰にもない」

「別に、何にも言ってないし……」

「二人とも、ネモ様の前でくだらない言い合いはよしてください。ね、ネモ様?結婚しましょう?」


 ボクの隣には、ユウリちゃんに代わってレンファエルさんが座っている。ユウリちゃんよりも色々大きなレンファエルさんが隣に座ると、中々窮屈だ。もうほとんど、レンファエルさんがボクの腕に密着状態で、暑苦しい。けど……胸の感触は、心地良い。


「しません……」

「ありがとうございますっ!」


 何が!?しないって言ったよね、ボク?


「悪いね、ネモ。こんな上機嫌なレンは、久々だから、止める気になれないわ」

「そうね。ちょっと、暴走気味だけど、レン様可愛い……」

「いいのかい?レンがネモに、取られちゃうぜ?」

「レン様の幸せが、私の幸せ。だから別に、妬む事は何もない。それに、レン様を助けていただいたネモさんは、レン様と添い遂げる、資格がある。あ、鼻血が……」


 くっついているボクとレンファエルさんを見て、何故か、ネルエルさんが興奮した様子で鼻血をたらした。慌てて上を向いて、鼻をつまむ、ネルエルさん。


「相変わらず、健気だなぁネルは!」


 そういって、メルテさんはがははと笑い飛ばした。笑い事じゃありません。資格なんていりませんし、添い遂げません。

 それにしても、こんな洞窟の中での潜伏生活だと言うのに、3人共明るく元気だ。さすがは、Bランク冒険者なだけあって、頼もしい。


「ところで、予定の方だけど、寝て起きたら、出発と言う事でいいかい?」

「……」


 ボクは、頷いてメルテさんに応えた。


「出口までの道のりは?」

「分かります」

「よし。あとは、敵と遭遇した場合だけど……」

「大丈夫です。全部、倒します」

「い、いや、さすがにそれは……できるの?」

「できますよ!ネモ様は先ほど、圧倒的な力で、襲い来るオークを追い返してみせました!それはもう、凄く強くてカッコ良かったんですからね!?」


 すぐ隣で、ボクの顔に、顔をくっつけるような勢いで、レンファエルさんが言ってきた。ボクは、そんなレンファエルさんから逃れようと、顔を背けるけど、腕はガッチリとガードされている。なので、逃げ切れない。

 あんまり近くで、顔を覗き込まないで欲しいんだけどなぁ。ボクが好きだと言うなら、その辺は配慮して、遠慮してもらいたいです。


「この辺りのオークは、それなりの高レベルモンスターのはず。見るに、貴女は武器も何も持っていない。素手で倒したと言うの?本当に?信じられない」


 疑いの目を向けてきたのは、ネルエルさん。


「本当ですよ、ネル!私、見たんですから!」

「あたしは、ネモを信じるよ。ネモはたぶん、相当な実力者だ。それこそ、あたしたちなんて、足元にもおよばないくらいの、ね」

「……分かった。でも、ネモさんに頼りきった作戦は、ダメ。私達も、できる限りの自衛手段をとるべきよ」

「自衛手段って、どうすんのさ。あたしたちには、武器がないんだよ」

「……」

「作戦なし、か。まぁ、分かるよ?ネモにだけ頼るような戦法が、嫌なんだろう?でも、今は仕方のない事だ。受け入れな」


 ネルエルさんは、メルテさんに言われて黙り込んでしまった。


「あんたは、相変わらず固いねぇ……。しっかりしな、ネル!あたしたちは、レンを守るために、いるんだ!くだらないプライドは捨てて、それだけを考えて行動するんだよ!」


 メルテさんは、ネルエルさんの肩を掴み、彼女を真っ直ぐに見据えてそう怒鳴りつけた。突然の怒鳴り声に、ボクは驚いてフードを押さえて顔を伏せる。そんなボクの頭を、隣に座っているレンファエルさんが抱きしめて、落ち着かせるように頭をなでなでしてきてくれた。


「……分かってる。ごめんなさい、メルテ」

「あたしだって、あんたの気持ちはよく分かる。あたしたちの力が足りなくて、レンを危険な目に合わせてしまった。だからね、あたしはもっと強くなるよ」

「私だって……」


 2人は、決意を新たに、黙って拳と拳をぶつけ合った。


「だ、ダメですよ、二人とも!喧嘩は、めっ、です!」


 別に、2人は喧嘩をしていた訳じゃない。でも、そう捉えたレンファエルさんが、そう叫んだ。

 その喧嘩の止め方は、凄く可愛らしい言い方だった。もし本当に喧嘩をしていたとして、こんな止め方をされたら、力が抜けて喧嘩する気力がどこかに飛んでいきそう。


「わかった、わかった。喧嘩しないよ。仲良し、仲良し」

「……」


 ネルエルさんの肩に、メルテさんが肩をまわして、仲良しアピール。ネルエルさんは、ちょっと恥ずかしそうにそっぽ向いているけど、嫌ではなさそう。

 それを見て、レンファエルさんはホッと息をついて、安心した。

 ボクは、そんな3人のやりとりを見て、ちょっとだけ笑いました。




 洞窟の中には、日の光が入らない。なので、今が何時か、お昼なのか、夜なのかでさえ、よく分からない。感覚的には、今は夜だけど、確証がない。洞窟に入りたてのボクでさえ、こんな状態なんだ。レンファエルさん達は、もっとよく分からなくなっているだろう。


「う、うぅ……カエルは……嫌です……」


 ボクと並んで眠っているユウリちゃんが、寝言を呟いた。

 レンファエルさんに、メルテさんとネルエルさんも、洞窟脱出に向けて、ベッドで眠りについている所だ。

 皆が寝静まっている中で、ボクは目を覚ました。


「うぅ……」


 ボクは、うなされるユウリちゃんの頭を撫でてから、ベッドから起きて、その場を後にする。レンファエルさん達の生活空間を出て、洞窟の中を歩いて向かったのは、魔法によって隠されていた、この場所へと繋がる通路の出入り口。

 その途中で、暗闇の中に蠢くオークの群れと遭遇した。彼らは、身体の小さなタイプのオークだ。オークよりも細く、小さく、やせ細っている。手足が異様に長く、痩せているように見えるが、それが彼らにとっては普通の体型。大きなタイプと違い、彼らの仕事は主に隠密。足音もなく忍び寄り、獲物を襲撃する。


 名前:オークリープ

 Lv :27


 ステータス画面を開くと、こんな感じ。レベルは大きなタイプと同じで、平均すれば30くらい。

 数は……20匹くらいかな。多分、逃げていったオークが寄越した、刺客だ。当然、目的はボク達を襲う事だろう。せっかく皆眠っているんだから、起こさないで欲しい。なので、さっさとお帰り願おうか。

 ボクは、地面を蹴って、駆け出した。


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