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カエルのお肉


「勇者様!」

「ぶっ!」


 突然、そう叫びながら、レンファエルさんがベッドから飛び起きた。

 その声に驚いて、お茶を啜っていたメルテさんが噴き出し、お茶を零してしまう。


「騒がしい女ですね……」


 ボクとユウリちゃんも、石でできたイスに座り、お茶をいただいている所だ。けど、ユウリちゃんは至って冷静に、お茶を啜っている。

 石でできたイスはちょっと硬くて小さいし、ユウリちゃんと同じイスなので肩身が狭いけど、贅沢は言っていられません。


「あ、あぁ……ネモ様……よかった、夢ではなかったのですね。ちなみに私今、夢の中で貴女と添い遂げておりました。よければ、夢の続きを……」

「痴女めっ……!」


 ユウリちゃんが、憎憎しげに、言い放った。

 女の子好きのユウリちゃんが、ここまで女の子に対して敵意を露にすることは、ちょっと意外だ。特に、レンファエルさんは、キレイな人だ。ユウリちゃんが彼女に対して、セクハラ的な発言や行動をしても、なんら不思議ではない。むしろ、それがユウリちゃんにとっての、極り切った日常である。


「れ、レン……あんた、絶好調だね……」

「勿論ですとも。運命の勇者様を目の前にして、絶好調でない訳がありません!」

「運命の?それって、あの時レン様を助けた、女の人の事?」

「その通りです、ネル!そこにいらっしゃる、ネモ様こそが、あの時私を助けてくださった恩人!そして今、私を助けに戻ってきてくれた、勇者様なのです!」

「あんたが、あの時の……」


 メルテさんが、ボクの顔をじっと見てくるので、ボクは顔を伏せた。

 そうか。あの時あの場には、他にも拘束された女の人がいた。それが、メルテさんと、ネルエルさんだったんだ。あれ、でも、女の人は他にも何人かいた気がするんだけど、その人達はどこに行ったんだろう。


「ほ、他の女の人達は……?」


 ボクは、思い切ってそう尋ねるけど、返答はない。レンファエルさんも、メルテさんも、ネルエルさんも、口を紡いで、悔しげな顔をするだけだ。


「……全員、オークの媚毒に誘い出され、連れ去られました。私たちは、その毒に耐えられたのですが、一般人である彼女たちは違いました。正気を失った彼女達を止める術は、私達になく、恐らく今頃は……」


 悔しげにそう語る、レンファエルさん。責任を感じているのか、本当に悔しげだ。


「レン。彼女たちは、仕方ない。私達にできる事は、なかった」

「……分かっています」


 なんだか、聞いちゃいけない事を、聞いてしまった気がする。一気に、この場の雰囲気が白けて、寒いものになってしまった。なんとか、空気を換えて、明るくしないと……。


「なぁ、あんた。ネモは、あの後、どうやって洞窟を出たんだ?」


 話を変えてくれたのは、メルテさんだった。何かの燻製肉をしゃぶりながら、尋ねてくる。


「は、走って……途中で、モンスターが道案内をしてくれて、それで出れました……」

「モンスターに、案内?そんな事ってあるのかい……?ま、まぁいいや……案外、出口は近くにあったって訳だね。……道を間違えたな」


 距離で言うなら、たぶん数10キロはあったと思う。全力で走り回ったし、ぎゅーちゃんに乗って長い距離を歩いたから。だから、決して出口は近くなかった。でも、それを言うと、なんだか色々聞かれそうなので、黙っておこう。そうしよう。


「それこそ、後悔しても仕方ない。正しい道順なんて、全く分からないんだから。結果として、安全に隠れられる場所を確保できた上に、救助の冒険者と合流できたのだから、良しとしましょう」

「それも、そうだな……」

「ところで、もう身体は良いんですか?発作と聞きましたが」


 ユウリちゃんが、レンファエルさんに向かってそう尋ねた。


「ええ、大丈夫ですよ。昔から、ショックな事があると、血を吐いて気を失ってしまう体質なんです」

「何ですか、その面倒な体質は……というか、大丈夫なんですか、それ。重病なんじゃないですか」

「大丈夫ですよー。昔から、何度もある事だけど、この通り元気ですから」


 そう言うレンファエルさんだけど、ショックを受けたら血を吐く体質とか、どうなんだろう。一応、HPは100だし、状態異常は何にもないみたいだけど、絶対普通じゃないよ。……この世界じゃ、普通なの?


「で、何がそんなショックだったんだい?」

「それは……ぶはっ!」

「レン様ー!」


 レンファエルさんは、思い出してまた血を吐いて、倒れそうになる。けど、踏ん張った。そんな彼女にすぐに寄り添ったのは、ネルエルさん。彼女の身体を支えて、イスに誘導。座らせる。


「それよか、腹減った。ネルー、なんか作ってー」


 メルテさんは、そんなレンファエルさんなんてどうでもよさそうに、言った。彼女の様子を見て、本当にいつもの事で、気にする必要もない事なんだなと分かる。


「あんたね……せめて、少しくらい心配しなさいよ!」

「大丈夫だって、いつもの事だし」

「……ネル、私も少し、お腹がすきました。お願いしても、いいでしょうか」

「もう……はいはい、蓄えの食糧はもういらないだろうから、全部使っちゃいましょう」

「おーいいねぇ!」


 仕方なさそうに、ネルエルさんはレンファエルさんから離れ、壁際の石をどかすと出現した穴から、色々な食材を取り出す。そこにあったのは、何かの肉達。ネルエルさんは、手際よくそれらを、石の包丁でカットして、火の魔法石で火を起こし、網焼きにしていく。

 辺りは、肉の焼ける良い匂いで包まれて、それに触発されてボクもお腹が減ってきた。

 ふと、ボクの隣に座っているユウリちゃんが、ボクの肩に頭を預けてきた。見ると、眠ってしまっている。よっぽど疲れていたみたい。


「やっぱり、かなり疲れてみたいだね。あんたたち、姉妹かい?」

「……」


 ボクは、首を横に振って、尋ねて来たメルテさんに応えた。


「なんにせよ、こんな場所まで助けに来てくれて、ありがとう。正直言うと、もうダメかと思っていたけど、あんた達が来てくれて、救われた気分だ」

「これも、愛の成せる業……!」

「あんたは暴走しすぎ。少し、黙ってなさい」

「むぅ……」

「はい、先に食べてて。カエルの肉の、串焼き。どんどん焼いてくから、遠慮しないでね」


 そこへ、器にのった串焼きをを、ボク達が座っている場所の目の前に置いていく、ネルエルさん。彼女は次のお肉を焼きに、火に戻っていった。

 カエルのお肉かぁ。案外、美味しいんだよね。

 ボクは、串を手に取って、口を近づける。


「ん……ごめんなさい、眠ってしまったみたいです……」


 そんなタイミングで、ユウリちゃんが起きて、目を擦った。


「おはよう、ユウリちゃん。食べる?」

「……いただきます」


 ボクは、手に持った串を、ユウリちゃんに渡した。ユウリちゃんはそれにかぶりつき、美味しそうに食べ始める。

 それを見て、ボクやメルテさんも、串焼きをいただく。ほどよく弾力があって、しっかりとした味わい。これは、良いカエルの肉だ。時々ハズレのカエルもいるんだよね。そういうカエルは、生臭くて不味いんだコレが。


「美味しいです、コレ。何のお肉ですか?」

「カエルのお肉だって」

「……」


 ユウリちゃんが、ボクの答えに固まった。


「この辺りは、カエルがよく取れるんだよ。水場が近くにあってね。そこでゲロゲロ鳴いてる。他にも、コウモリとか、ヘビもいる。食料に困らなくて、助かったよ」

「ヘビ……コウモリ……おえぇぇぇぇ!」

「ユウリちゃん!?」


 突然、吐き出すかのような仕草を見せるユウリちゃんだけど、実際には吐いていない。どうしたんだろう。何かの中毒かな。大丈夫かな。ボクは、ユウリちゃんの背中をさすってあげる事しかできず、ただおどおどとするばかりだった。


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