お断りします
「ふぅ。片付いたよ」
ボクは、フードをしっかりと被りなおしてから、振り返った。
「お疲れ様です、お姉さま」
ユウリちゃんが、労いの言葉をかけて、ボクに歩み寄ってくる。けど、そんなユウリちゃんを押しのけて、レンファエルさんがボクに駆け寄ってきた。
「勇者様!」
駆け寄ってきたレンファエルさんは、そう呼びながら、ボクに抱きついてきた。勇者……そう呼ばれたのは、久々だ。どこか懐かしいけど、ちょっとくすぐったい。
いや、それよりも、レンファエルさんの豊かな胸が、ボクの胸に押し付けられている。ラメダさんよりは、小さく、ユウリちゃんよりは大きい。感触は、ラメダさんのマシュマロのような、柔らかな胸ではなく、張りと弾力のある、イメージとしては力強そうな感じ。ユウリちゃんは、コレよりもう少し柔らかいので、それぞれで違う胸の感触は、ちょっと面白い。
「れ、レンファエルさん……その、胸が……」
「勇者様……コレで、助けていただいたのは、二度目です。あの時は、ありがとうございました」
ボクの訴えなど、どこふく風。レンファエルさんは、涙を浮かべながら、更に強く抱きついてきて、その胸を押し当ててくる。
「に、二度目……?」
「はい。一度目は、オークに犯されそうになっていた私を、助けていただきました」
「オーク……あ。ああああ!」
そう言われて、ボクは完全に思い出した。彼女は、レンファエルさんは、ボクが初めてこの世界に来た時、目の前でオークに襲われていた女の人だ。目が合うのが嫌で、あまり顔を見ないようにしていたし、あまり覚えておく必要もないと思っていたので、分からなかった。けど、言われてみれば、確かにあの時の女の人だと思う。……たぶん。
「お知り合いですか?」
ユウリちゃんが、何故か不機嫌そうな顔をして尋ねて来た。
「う、うん……前に、助けた事があって……」
「ああ、勇者様。私、必ずや貴女が助けに来てくれると、信じていました。どうか……どうか、勇者様のお名前を、お聞かせください」
「ね、ネモ、です」
「ネモ様……!ネモ様、ネモ様、ネモ様、ネモ様!」
感極まって、レンファエルさんは、ボクの胸に顔をうずめて、名前を連呼してきた。そこまで名前を連呼されると、逆に怖いです。
「……」
一方ユウリちゃんは、自分の胸に手を当てて、何故か揉んでいる。その表情は相変わらず不機嫌そうで、そちらの様子もちょっと怖い。
話をまとめると、2人共ちょっと怖い。
「れ、レンファエルさん!」
ボクは、そんな恐怖に耐え切れなくなり、抱きついているレンファエルさんの肩を掴み、引き離した。
「ん」
すると何故か、レンファエルさんは目を閉じて、唇をボクに向かって突き出してくるという、謎の行動に出て来た。よく分からないので、スルー。ボクは、ユウリちゃんの後ろに隠れて、レンファエルさんの様子を伺う。
「あ、あれ?ネモ様?」
「……お姉さまなら、こっちです」
「ん、もう……乙女に、恥をかかせないでください」
顔を赤くして、もじもじとするレンファエルさん。可愛いんだけど、なんだろう。行動と、言動がおかしい。というか、誰かに似ている。
「はっ。お姉さまの唇でも、求めていたんですか?この、痴女!変態!お姉さまが怯えているので、近寄らないで下さい!」
「ユウリちゃん?」
ボクは、ユウリちゃんに、今までの行動を、思い返して欲しいと思った。
思い返せば、色々な事をされました。お尻を揉まれたり、胸を揉まれたり、ふとももを舐められたり……服を脱がされたり、お風呂に侵入されたり。それらは全て、ボクの合意のない行動で、変態的な行動である事に間違いない。
「……変態とは、聞き捨てなりませんね。私は、純粋な気持ちで、ネモ様に身を捧げようと思っただけ。貴女のような、破廉恥な考えなど、微塵もありませんから!」
「よく言いますよ!私だって、まだお姉さまにキスもされてないのですから、貴女のようなぽっと出の女に、お姉さまの唇は渡しません!」
「ぽっと出!?私が!?大体、貴女はネモ様のなんなのですか!」
「私はお姉さまの奴隷で、所有物です!お姉さまが望む事をなんでもする、肉人形!その証拠に、ホラ、コレ!奴隷紋です!お姉さまの、所有物である証です!貴女のような痴女がいなくとも、私でお姉さまの欲望は満たされますので、問題なしです!」
「に、肉人形……!?」
レンファエルさんが、服をめくってお腹の紋章を見せつけるユウリちゃんに、一瞬怯んで、ちょっと引いた目でボクを見てきた。聞く人が聞いたら、ボクがユウリちゃんのような可愛くて可憐な女の子を、奴隷にして酷い目にあわせているみたい。でも、違います。逆です。ボクはユウリちゃんに、ノータッチです。ユウリちゃんは、ボクのタッチしまくりです。
「……ません」
「はい?」
「ネモ様が例え、年端も行かない少女に非道な事をしていたとしても、構いません!私はそれを受け止めた上で、ネモ様に求婚を申し出ます!」
「はああぁぁ!?」
求婚って、結婚って事!?いきなりの事に、戸惑うボク。
いや、その前に、否定しておかないといけない事がある。ボクはユウリちゃんに、酷いことはしていません。誤解です。
「……」
「……」
2人が静かになって、ボクを見てくる。
あ、返事待ってるのかな。
「お、お断りします」
「ふられたああぁぁぁ!?貴族である、この私が、振られた!?」
いや、いきなり結婚を申し込まれても、仕方ないと思うんだ。そもそも今のボクは女だし、女同士じゃ結婚もできません。いや、ここは異世界だから……どうなんだろう。出来るのかな?いや、どっちにしろしないけどね?
「ぷすす。振られてやんの!ざまぁ見なさい、この変態!」
「くっ……!?どうしてですか、ネモ様!私、この身体には少しだけ、自信があります!今は汚れていますが……顔もそこそこ、可愛いはすです!しかも、うら若き乙女で、貴女に守っていただいたおかげで処女のままで、貴族というステータスもついてます!しかも、超お金持ち!超優良物件ですよ!?」
「……な、何か……気持ち悪い、ので……ごめんなさい」
「き、キモ……ぐはっ!?」
レンファエルさんは、その場に血を吐いて、倒れた。それは、比喩ではない。本当に、血を吐いた。
「レンファエルさん!?」
慌てて駆け寄って、抱き起こすけど、目を回して気を失っている。
「どうしよう、ユウリちゃん!レンファエルさんが死んじゃった!?」
「落ち着いてください、お姉さま。たぶん、死んではいません。どこかにちゃんとした格好で寝かせて、置いていきましょう」
「いやいやいや……」
「その子の言うとおり、レンは死んでないよ」
混乱する、ボクとユウリちゃん。そんな所へ、洞窟の奥から姿を現したのは、これまた女の人。片目を髪の毛で隠した、鋭い目つきの女の人だった。




