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まだまだ続いていきそうです


 勇者リルの物語は、皆で集めた情報をもとに作られています。絵本は絵本らしく、残酷な表現とかは抜きにして絵本らしく仕上がった物です。だから安心して子供たちにも読んで聞かせてあげられるので、もっと色々な人に勇者リルの物語を聞いてもらいたいなと思います。

 こうなる前のリルの伝承は、本当に酷い物だったんだ。魔王に臆したとか、戦ってもいないとか、臆病者で、盗みも働いて逆らう者は殺されたとか。ホント、とんでもないよ。


「皆に、もっともっとリルの事を知ってもらわないとね」

「はい。そのために、聖女様が絵本を更に大量に用意してくれています。もっともっと、イリスには絵本を読んで聞かせてもらうので、覚悟していてくださいね」


 ユウリちゃんが冗談ぽく言ったけど、イリスは特に反論する様子がありません。


「……ありがとうございます。リルのために、ここまでしていただいて」


 ボクが頭を撫でていたイリスが、反論する代わりに急にしおらしい事を言ってきて驚きました。

 ボクは頭から手を離し、ユウリちゃんと目を合わせて何事かと相談したけど、全く伝わっていませんでした。ユウリちゃんは何故かボクの身体に抱き着くと、お尻を揉みしだいて来たんです。


「ひゃ!?な、何……?」

「お姉さまと目が合ったので、求められているのかなと思いまして」

「そ、そうじゃないよ……」

「人が大切な事を言ったのに、何をイチャイチャし始めているんですかこのバカップルは!?」


 それに怒ったのは、イリスです。いや、ホントそう思うんだけど、ボクがしている訳じゃないからね。

 そう訴えるためにも、ボクはボクのお尻を揉むユウリちゃんの手を掴んでやめさせ、ユウリちゃんが何もできないように後ろから抱き着いて動きを封じました。


「うへへ。お姉さまの、背中からのハグ……うへへ」


 涎を垂らしながら、背中越しにユウリちゃんの前面に回されたボクの腕に抱き着くユウリちゃんを見て、逆効果だったかなと思うけど構いません。何かされるくらいなら、こうしていた方が安全だからね。


「り、リルの事なら、気にしないで。ボクが好きでやろうと思った事だから……」

「はぁ……私もね、女神としてリルの事は気にかけていたんですよ。アスラ程ではないにしろ、あまりにも不遇な扱いに救いの手を差し伸べたくなる気持ちは分かります」

「……」


 分かってる。イリスもとても優しい女神様だから、リルの事を想っていてくれたんだよね。ボクも、優しいイリスティリア様に救われながら、ここまでやってくる事ができました。

 頼りになるイリスティリア様だったけど、それが今では女神の力を失った幼女エルフの姿となっているんだから、世の中何がおこるか分かりません。


「ネモの行いは、必ずやリルの救いとなるでしょう。もう生まれ変わり、何もかもが消え去って別の姿へと変わった彼女ですが、この物語を聞けば必ず喜びます。私が保証しますよ」


 実際、生まれ変わった後のリルであるロガフィさんは、この物語を読んで笑ってくれました。それは誰にでもハッキリと分かるような笑顔で、ロガフィさんも徐々に表情を取り戻しつつボク達と暮らしています。


「……イリスのお墨付きが貰えるなら、安心だよ。これからもよろしくね、イリス」

「嫌だと言っても、よろしく頼みますからね。私の安全のためにも、貴方は必要なんですから。しっかり私を守りながら、生きていきなさい。そして、毎日お肉を食べて幸せにさせなさい」

「う、うん。絶対に、幸せにするよ」


 ホント、お肉が大好きだよねイリスは。


「ふふ」


 そんなイリスの台詞を聞いて、ユウリちゃんが優しく笑いました。


「な、何?」

「いえ。今のイリスの台詞、告白っぽかったなと思って、つい。私に毎朝お味噌汁を作ってくださいと、同じみたいに聞こえるでしょう?」

「そ、そう言われてみれば、そうだね……」

「んなっ……!」


 しかもボクは、それに対して幸せにすると答えているので、更にそれっぽくなってしまっています。指摘されると、ちょっと恥ずかしいです。

 イリスも恥ずかしいのか、顔を赤くして顔を伏せてしまっています。


「そんな事、言わなくともお姉さまはイリスを大切にしてくれますよ。それでも口にしてしまうという事は、イリスはお姉さまが大好きで、愛しているんでしょう?お姉さまも、イリスの事を愛しています。だから自然と、幸せにするなんて答えが出てくるんです。相思相愛です」

「な、何を言いだすかと思えば、またそんな事を言って……。私は女神です。人間に対して恋愛感情を抱く事はありません。特にネモの勇者時代や前の世界での姿を知ってたら、尚更ですよ」


 それを言われると、返す言葉もありません。


「もう少し素直になれば、もっと可愛いがってもらえるのに。ホント、イリスって損な性格をしていますよね」

「……女神として、保つべき威厳と言う物があるんですよ。私は一方的に愛される事はあっても、私から愛する事はありません」

「よく言いますよ。威厳なんてどこにもありませんし、お姉さまが大好きな事は見ていて分かります」

「……」


 ユウリちゃんにそう言い切られたイリスが、ボクの方をチラリとみて来ました。ボクもイリスの事を見ていて、目が合います。すると、すぐにイリスは目を背けてしまいました。その頬は少し赤くなっていて、照れているのがボクにも分かります。

 それにつられて、ボクも恥ずかしくなって目を逸らしました。


「はぁ……。コレは、素直になるまで時間がかかりそうですね。でもこういうタイプは、いつか絶対に堕ちます」

「こ、この話はもうおしまいです。とにかく、勇者リルは喜んでいる。もっとこのお話を広めていってあげてください。私も手伝いますので、いいですね」

「う、うん。分かってるよ。これからもよろしくね」


 ボクは昔のように、未だにイリスティリア様と一緒にいます。彼女に見守られながら、これからもこの世界で過ごしていく事になると思う。

 たくさんの事が、この世界に来てから、その前からもありました。本当に、思い出すだけで恥ずかしくなってしまう事や、皆で笑った事に、悲しんだ事。嫌な事もあったけど、その全部が今のボクを作ってくれていて、全部に感謝したい気持ちがあります。

 全てはイリスティリア様が、村からボクを連れ出してくれた事から始まった。この世界に来てからは、この3人から始まった生活です。こうして3人でいると、また新たな気持ちでこの先に待つ物に挑んでいこうという気持ちになれます。


「──ユウリちゃん。イリス。大好きだよ」

「んなっ、何を突然……!」

「はい!私もお姉さまの事、大好きです!」


 驚くイリスと、ボクの腕に強く捕まって、ボクに身体を預けて喜んでくれるユウリちゃん。

 心底大好きだと思える2人といられる幸せを、ボクは忘れません。勿論、レンさんや、ロガフィさんにぎゅーちゃん。ディゼに、アンリちゃんやネルさんにメルテさんに、メイヤさんも聖女様も、エーファちゃんにロステムさんも大好きです。他にもたくさん大好きな人がいて、そんな世界がボクは大好きです。

 運命なんて、どうでもいい。大好きな人がいれば、人はそれだけで生きていける。どんなに辛い事があっても、それが強さとなり生きる糧になるんだと、この世界は教えてくれました。


「……ありがとう」


 ボクはポツリと呟いて、この世界にお礼を言いました。そのお礼には、ボクをこの世界に送り込んでくれたアスラに対してでもあります。

 色々あった結果、アスラが悪者になっちゃったけど、最後はそんなに悪い人でもないかなと思えました。ラスタナ様に連れていかれてしまったアスラだけど、今頃どうしてるのかな。ちょっと気になります。

 そう思っていた時、孤児の中に赤髪の女の子を発見しました。燃えるような赤い髪を、ポニーテールにした幼い少女。だけどその目つきは他の女の子よりずっと大人びていて、ボクと目が合うと慌てて目を逸らして顔を隠してしまいました。


「あ。アスラだ」


 ボクの視線に気づいたイリスが、その女の子の方を見てそう呟きました。


「アスラ……!?」


 とても幼くなった姿に、ボクはそうは思えません。だけど、イリスがそう呟いた瞬間、走って逃げだしたのでそうなのだと確信しました。

 どうしてアスラがそんな姿でこの世界にいるのか、気になる事がたくさんです。その事実を確かめるためにも、捕まえて問わないといけません。


 ボク達の騒がしい普通の日常は、まだまだ続いていきそうです。


読んでいただきありがとうございました!


これにして一旦完結とさせていただきます。活動報告の方にて反省会も投稿する予定ですので、そちらにも簡単にでいいですので目を通していただければ幸いです。

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