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出迎え


 通り過ぎた影は、1つではありません。直後にもう1つの影も通り過ぎて、こちらも竜です。

 だけど慌てる事はありません。今上空を通り過ぎた、銀色と、黒色の竜は、ボクの友達です。今日この日に来るようにお願いをしてあって、ちゃんと来てくれたようです。


「竜……この世界最強の存在が、同時に二体も……」


 目を閉じたままの聖女様も、上空を見上げてその存在を認識したようです。

 その額には冷や汗が溢れていて、とても深刻そうになってしまいます。


「だ、大丈夫です。二人ともとても良い人だから、心配しないでください」

「……はい。それはネモさんを信じています。ですがやはり、こうして竜の姿を目前にすると、緊張してしまいますね。……上空の竜は、味方です!無礼などを働かぬように、迎え入れてください!」


 聖女様の指示を受けて、兵士はまた、慌てた様子で出て行きました。

 この世界の人々にとって、竜は特別な存在です。驚くのも無理はないよね。いくら前もって伝えてあったとしても、いざ目の前に来るとまた迫力が違うから。

 だから出来るだけ、人の姿で目立たないように来てってお願いしてあったんだけどね。それは守ってくれなくて、凄く目立ってしまったと思います。


「……水?」


 ふと、水が一滴空から降ってきました。それは教会の床にぶつかり、跳ねました。

 直後に、そのたった一滴だった水が広がり、水たまりとなりました。その水たまりが人の形を作っていき、そして女の人の身体を作り上げました。

 青白い肌と、銀色の髪の毛に水を滴らせ現れたその裸の女性は、ボク達のよく知る人物です。


「セレン!」


 その名前は、イリスが名付けた名前です。

 彼女はボク達と、短いけど一時仲間として行動を共にし、戦いを終えた後はお別れとなってしまった精霊です。故郷で復活した精霊と、仲良く暮らしていると聞いています。そのセレンも、今日招待していて来てくれたみたいです。


「な、なんだぁ!?み、水が人になった!しかも素っ裸じゃねぇか!痴女なのか!?」


 突然現れたセレンに、エーファちゃんが驚きの声をあげました。

 他の人たちは、いたって冷静です。聖女様はもちろん、聖女様のおつきのメリウスさんや、他のシスターさん。エクスさんの誰も驚きもせず、当たり前のように彼女を出迎えてくれました。


「落ち着いてください、エーファお嬢様。彼女は、精霊。見る限り、水の精霊のようですね。それもかなり高位の存在のようです。精霊は、この世界の人々にとって自然と同じくらい大切な存在です。そんなに驚いては、失礼ですよ」


 軽くセレンの事を紹介してくれたのは、ロステムさんです。エーファちゃんに落ち着くように促しつつ、精霊の大切さを教えてくれました。


「精霊……!お、起きて、メルテ。精霊よ。精霊がいるわ。見てよ」

「うぃっく……えへー……」


 セレンの姿を見たネルさんが、酔いつぶれて眠ってしまったメルテさんを起こそうとするけど、膝枕をしてあげているメルテさんは起きる気配が全くありません。ネルさんに揺さぶられて、むしろ気持ちよさそうにネルさんの太ももに頬ずりをする姿は、ちょっと可愛いです。


「お久しぶりです、セレン!良い身体……じゃなくて、お元気そうで何よりですっ」

「セレンさん!お久しぶりですね!お元気でしたか?」


 席を立ち、セレンに駆け寄ったのはユウリちゃんとレンさんです。ユウリちゃんはその素っ裸の姿を見て、涎を垂らす姿は変態ぽいけど、再会できて喜んでいます。

 レンさんも、声を掛けて再会できた事を喜びます。


「……」


 セレンはそんな2人に頷くと、空を指さしました。ボクは顔を上げてその指の先を見ると、空から何かが降ってきます。


「──建物を壊されたくなかったら、受け止めろとセレンが言っています」


 セレンの言葉を伝えてくれたのは、イリスです。その言葉の意味を理解するまで、少しだけかかりました。

 理解できたのは、降ってくる2人の人物の姿を見てからです。


「ロガフィさん!」


 ボクはロガフィさんに声を掛けて、落下点に急ぎました。ロガフィさんも、膝の上に乗せていたイリスを隣に退かし、ボクと同じように落下点に入ります。

 落下点に入り、手を構えた所でそれはボクとロガフィさんの腕によって受け止められました。

 受け止めたのはいいけど、けっこう凄い音が響きました。床は木ではなく、石なのでなんとかなったけど、木だったら絶対に壊れてたくらいの衝撃がボクの足に伝わります。ロガフィさんも、同じような感じでした。


「出迎えご苦労である。中々に良い抱かれ心地じゃな」


 空から降ってきたそれは、ボクに抱かれながらボクの首に腕を回し、そんな事を言ってきました。ボクが受け止めたのは、老人言葉で喋る幼女。竜のメギドさんです。


「ああ。こちらも悪くない。我ら竜が、人と魔族にそれぞれ抱かれる事になるとは、不思議な物だ」


 ロガフィさんが受け止めたのは、クナイさんです。そちらもロガフィさんに抱かれてご満悦の様子です。


「さて。言われた通り、人の姿でやって来たがコレで良かったのだな」

「……」


 ボクの腕から降りて、降り立ったメギドさんにそう言われるけど、ボクは困ります。

 だって、全くボクの望み通りの展開じゃないんだもん。上空を竜の姿で飛んだりして、目立ってしまったにも程があるよ。更には空から降って来たりして、登場も派手すぎます。ボクが望んだやって来かたの、1割くらいしか叶っていません。


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