愛情の裏返し
いつの間にかボク達の輪の中に入っていたメイヤさんとも合流し、ボク達は聖女様の待つ中央教会へとやってきました。白い鎧を着た兵士たちによって、厳重な警戒体制の敷かれている中、ボク達は顔パスで中へと通されます。
門を通されたボク達は、壁によって囲まれた敷地内を進み、その敷地の真ん中に位置する建物へとやってきました。
ちょっと前に半壊したその建物は未だに半壊したままで、元あった大きさの半分以下となっています。上層部分にあった聖女様の居住地も、跡形もありません。
その代わりの聖女様のお家はすぐ傍に建てられています。それはこじんまりとした一軒家で、普通過ぎるくらい普通のお家です。聖女様はそこで暮らしています。
「うおおおおぉ!」
とりあえずは、半壊した教会の中へと足を踏み入れたボク達を、男の人の叫び声が出迎えました。
「……」
駆け寄ってきたその人物は、エーファちゃんの前で跪いて目線を合わせます。だけどエーファちゃんは嫌そうな表情を浮かべて、そっぽ向いてしまいました。
「エーファ!なんて可愛くなったんだ!前に会った時よりも百倍は可愛くて、お兄ちゃんはお前の身が心配だ!」
エーファちゃんに言い寄ったのは、エクスさんです。血走った目で、興奮して息を荒げるその様子は変態そのものです。実の兄だという事は分かっているんだけど、思わず庇いたくなってしまいます。
というか、実際庇った人物がいました。
「そこまでだ。この子の兄だかなんだか知らないが、嫌がっている。離れるのだ」
「……キャロットファミリーのギルドマスター。メイヤ様ですね。驚かせてすみません。私とエーファは兄妹なので、大丈夫です。だからそこをお退きください」
「断る。この幼女は、貴方に近づかれる事を拒んでいる。何故だか分かるか?貴方からは、変態だけが持つ特有のオーラが溢れているのだ。そんな貴方に、いくら実の兄とは言え近づかれるのは誰だって嫌だろう。分かったら、離れろ」
幼女好きの変態が、何か言っています。
「ふ……。何を言うかと思えば、でたらめを。貴女がエーファの何なのかは知りませんが、私とエーファは実の兄と妹以上に深い関係で結ばれた、相思相愛の仲です。家族以上の関係の私たちの間を邪魔する事は、あまり褒められた行為ではありませんよ」
「だが、嫌がっている。貴女のこの子を見るその目は、妹を見る目ではない」
「私が男で、エーファが女である以上、そうなるのは自然です。だって、エーファは可愛すぎますからね。世界一可愛くて、それなのに日に日に可愛くなっていくエーファを異性として見てしまうのは、兄として抗う事のできない必然の事……」
「もういいよ、きもちわりぃ。頼むから黙っててくれよ」
げんなりとした表情で呟いたエーファちゃんが、ボクの背中に隠れました。メイヤさんも変態だと認識しているエーファちゃんが、エクスさんから庇ってくれたメイヤさんに甘える事はありません。
「気持ちは分かるぞ、見知らぬ人間よ。我も、同じ気持ちだ」
そんなエクスさんに同意したのは、ロガフィさんを妹に持つ魔王です。感慨深げに、頷きながら同意した魔王の台詞を聞いて、ロガフィさんもボクに寄ってきました。
「どちら様かは分かりませんが、分かってもらえますか。貴方とは仲良くなれそうです」
見つめ合う、エクスさんと魔王。2人には妹大好きという共通があり、それがお互いを仲間と認識してしまったようです。まぁ確かに、気は合うかもしれないね。
「──え、エクスぼっちゃん……!」
「ん?どちら様だったか……。す、すみません、思い出せなくて」
そこにエクスさんの名前を呼んだのは、ロステムさんです。そんなロステムさんを見ても、エクスさんはピンと来ないようです。
それも仕方のない事です。今のロステムさんは、シワのある中年のおばさんではなくて、若くてグラマスでキレイな、サキュバスの女性となっています。その姿を見た事がないのなら、ロステムさんの姿を見抜けたら逆に凄い事だと思います。
「わ、私です。ロステムです」
「ロステム?ロステムはもっとこう……良い感じに年をとっていて、もっと大人でシワもあって、美しい女性のはずだったが……。残念ながら貴女は胸も大きいが、ロステムは胸がない。あと、肉付きももっと少なくて、それなのに妙にお尻の所だけ肉付きが良い。そんな女性だ」
暗に、今のロステムさんの姿が美しくないと言っているように聞こえます。熟女好きなのは分かっていたけど、この姿のロステムさんを見てそこまで言えるのは、かなり重症な気がするよ。あと、熟女な姿のロステムさんに対する評価も、気持ち悪いです。
「そのロステムです。実は私……サキュバスだったんですっ」
「……ああ。サキュバスの力を使って、姿を変えていたのか。それは驚いた。いつも妹がお世話になっている。本当にありがとう」
「い、いえいえ。こちらこそ、バッハルト家の皆さんには本当によくしていただいています」
「では、お互い様だな。これからも、妹をよろしく頼む」
「勿論ですっ。て、え?え?」
エクスさんは、そう言ってロステムさんに向かい、軽く頭を下げました。それに対してロステムさんもペコペコと頭を下げるけど、あまりにも簡単に受け入れられたことに気が付いて、ちょっと混乱しています。
サキュバスだったと言う、ロステムさんの覚悟を決めた告白は、完全にスルーです。でも聞き逃している訳ではなく、ハッキリとそれを聞いた上での受け答えです。もしかして、冗談か何かとでも思っているのかな。
「だから言ったろ。兄貴はロステムがサキュバスだろうとなんだろうと、気にしない。そういう所じゃなくて、内面で判断する奴だ。気にする事なんて最初からなかったんだよ。言う必要すらない」
「は、はい……ちょっと驚いています」
なんやかんやと言って、エーファちゃんはエクスさんの事をよく知っているし、その言葉からは信頼も感じます。言っている事は気持ち悪いけど、その気持ち悪さも愛情の裏返しだし、全てをひっくるめてエーファちゃんの信頼するお兄さんなんだなと思いました。
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