定員オーバー
本当に皆楽しそうに話していて、ボクはそんな光景をボーっと眺めています。1人だった頃とは違い、友達ができて、大切な人が出来て、少しずつ仲間が増えていって、今ではボクの家に、こんなに大勢が集まって楽しく会話をしています。
ユウリちゃんやイリスと暮らし始めただけでも、ボクにとって日常を大きく覆すような出来事だったのに、3人での暮らしも今となっては寂しく思います。
「はは」
ボクはなんだか嬉しくなって、思わず笑ってしまいました。
「どうしたんですか、お姉さま。何か良い事でもありましたか?」
そんなボクに気づいて、すぐにユウリちゃんが寄り添ってきました。ユウリちゃんも嬉しそうに笑っていて、きっとボクと同じ気持ちなんだと思います。
「なんでもないよ。たぶん、ユウリちゃんと同じ事を考えてるんだと思う」
「え?皆が突然裸になって、四方八方から迫ってぎゅうぎゅう詰めにして来た挙句に、終わり際には皆さんの脱ぎたての下着をくれないかなって考えてたんですか?勿論男はいりません」
「……ごめん、違ったみたい」
全く違う事を考えていた事に、ボクはある意味ショックを受けました。さすが、変態のユウリちゃんです。相変わらず欲に忠実で、いつもそんな事を考えている変態の鏡だと思います。
「ふふ。冗談ですよ。楽しそうに話している皆さんを見ていたら、お姉さまと二人きりの状態から始めた暮らしを思い出して、随分人が増えたなと思って感慨深く感じていました」
「そ、そう!それをボクも、考えてたんだ!」
「なんとなく、私もお姉さまがそう考えているんだと思っていました。本当に、色々な方と知り合えて、こんなにたくさんの人が集まるようになって、当初では考えられない事ですよね」
「……うん」
一瞬騙されかけたけど、ユウリちゃんも同じことを考えていて、ボクは凄く嬉しく思います。
こんな光景を見れたのは、思えばユウリちゃんとの出会いがあったおかげです。ユウリちゃんと出会えなかったら、きっとボクは前と変わらず、未だに1人ぼっちでなんとなく過ごしていたと思います。
「──こうして皆さんと楽しく暮らせるのは、お姉さまと出会えたおかげです。ありがとうございます。ネモお姉さま」
「え?ち、違うよ。全部、ユウリちゃんのおかげだよ。ユウリちゃんがいなかったら、ボクはずっと一人のままで、何も変わる事ができなかったんだ。だからお礼を言うのは、ボクの方だよ。ありがとう、ユウリちゃん」
「違いますっ。全部お姉さまのおかげですよ?私なんて、お姉さまにいつも守られてばかりで、ただ一緒にいただけに過ぎません」
「ついていただけなのも、ボクの方だよ。いつもユウリちゃんの傍にいて、ユウリちゃんが支えてくれたからボクはやってこれたんだ」
「はいはい、喧嘩はそこまでだよ」
ボクとユウリちゃんの間に割って入って来たのは、アンリちゃんでした。言い争っていた訳ではないけど、お互いの顔を近づけて言い合いをするその姿は、喧嘩をしていたとみられても仕方なかったかもしれません。
「まとめると、二人とも出会えて良かったって事だよね。どちらか一方でも欠けたらいけない、相思相愛の仲だったと。そういう事だ」
「……」
アンリちゃんにまとめられて、そうだと気づかされました。どちらがどうとかじゃなくて、2人が出会って、2人で過ごしてこれた事に意味があるんです。
ただ改めてそう言われると、凄く恥ずかしくなってきました。顔が熱くなってきて、自分の顔が赤くなるのを感じます。
一方でユウリちゃんも、同じような反応を見せています。頬を紅潮させ、恥ずかし気に目を伏せるその姿はなんだか新鮮で、とても可愛く感じます。まぁユウリちゃんはいつも何もしなくても可愛いけどね。
「アンリ君も、たまには良い事を言いますね。確かに私とお姉さまは相思相愛で、愛し合っている仲です。その出会いは運命であり、どちらが出会ったとかそういう単純な物ではありませんでした。それに愛し合っている者同士で支え合うのは当然で、常に二人揃ってなければいけません。まず、前提が間違えていましたね。ね、お姉さま」
恥ずかしいのを吹き飛ばすように、ユウリちゃんは高らかにそう宣言しました。
堂々と、人前でこう言う事が言えるユウリちゃんが頼もしく見えます。
「そ、そうだね。ぼ、ボクも、ユウリちゃんの事が大好きだよ」
「……私も、愛しています」
ボクの告白を静かに受け入れてくれたユウリちゃんが、そっとボクの胸に抱き着いてきました。その華奢な身体を、ボクも抱きしめて受け入れて抱き合います。
ボクはこれからもユウリちゃんと一緒にいるし、そしてきっと、もっと大切な人が増えていくと思います。これ以上に人が集まる事だって、きっとあります。賑やかな日々は、もっと賑やかになって続いていく。そんな気がします。
「ネモとユウリは、仲良し。仲良しのちゅー、する?」
そんな、抱き合うボクとユウリちゃんの方へ、いつの間にかやってきていたロガフィさんがそんな提案をしてきました。ロガフィさんに背後から抱きしめられた状態の、イリスも一緒です。
「んー……」
それを聞いたユウリちゃんが、ボクに向かって唇を尖らせて目を瞑ってきます。ユウリちゃんはする気満々のようです。ボクも心情的にはしたいんだけど、でも周りに目を向けると、皆が注目しています。
いつの間にか会話をやめていた皆が、ボクとユウリちゃんに注目しているんです。ディゼやダークエルフの2人は期待に染まった目で見ていて、中でもレンさんは凄い目で見ています。黒く濁った、嫉妬の炎の宿った目です。今にも犯罪をおこさんばかりの目で、とても怖いよ。
「──いよぅ、ネモ!オレが会いに来てやった……ぜ……」
そこへ突然、窓から家に侵入してきた人物がいました。大勢がいて手狭となった家の中に入ってきたその人物は、リビングに降り立って抱き合うボクとユウリちゃんを見て固まります。
黒髪の、ショートヘアの少女。いつしか、初めて会った時のように窓から現れたその子は、ボクに求婚をしてきた少女です。
「待ってください、エーファお嬢様ぁー。人様のお家に窓から入るなんて、それだけは絶対にしたらいけませんよ、てもう遅いですけど……」
更にエーファちゃんが入ってきた窓の外には、ロステムさんの姿もあります。若々しく、グラマスな女性の姿のロステムさんは、さぞかしモテそうな姿をしています。
「おや、ロステムさんではないか。久しぶりだな。という事は、ここがネモさんの家で間違いないようだな」
「あ。そうみたいよ、お姉ちゃん!ネモさん達が中にいる!」
更に更に、そのロステムさんが覗き込んでいる窓の向こうに、2人が追加で姿を現わしました。それは青髪のお姉さん、アルテラさんと、それとは全く似ていないけど妹のリツさんでした。
図らずも、また人が増えてしまいました。悪い事ではないけど、さすがにこれ以上家に入りきりません。嬉しいけど、定員オーバーです。
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