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イリスの事をお願いします


風弥大車輪ふうやだいしゃりん!」


 襲い来る、小さなオシュポットの花を、メイヤさんがスキルによって、殲滅。ボク達に追いつきかけていたオシュポットは、今ので大体片付けられた。けど、オシュポット・クイーンはまだ健在。その周辺には、ぴょんぴょん跳ね回る、小さなオシュポットの軍団もいる。


「そのまま真っ直ぐ走れ!」


 メイヤさんの時計には、方位を示す機能もあるみたい。メイヤさんは時計を見ながら、正確に、街のある方向へボク達を誘導していて、進む方向が狂うことがない。なんて便利そうなアイテムなんだろうと、ボクはボクだけが見ることのできる、マップ画面を見ながらそう思った。


「あ、伏せて!」


 ボクは、出来る限りの大きな声を出した。と、同時に、手を繋いでいるユウリちゃんを引き寄せて、イリスと一緒にボクの上に覆いかぶさるようにして、地面に引き倒した。

 そんなボク等の頭上を、緑のツタが通り抜けた。それは、走っている冒険者達に襲い掛かり、何人かはツタに絡まれて、転倒。そのまま凄いスピードで、どこかへ引きづられていき姿を消してしまった。


「い、今の、なんですか!?」

「いいから、走ろう。ユウリちゃん、立てる?」

「はい、お姉さま!」


 ボクは、すぐにイリスを持ち上げて立ち、更にユウリちゃんに手を差し伸べて、素早く駆け出す。

 メイヤさんが、小さなオシュポットは止めてくれているけど、ツタの攻撃までは、対応できない。そのツタの出所は、巨大なオシュポット・クイーンから生えている、根っこだ。それが、ちょっと離れているボク達まで追いついてきて、襲ってきている。


「だ、ダメだ!あんな化物から、逃げられるわけがない!オレ達全員、ここで死ぬんだ!」


 冒険者の1人が、そう言いながら涙を流し、立ち止まってしまった。その人は、ボク達に小言を言ってきたり、身体で楽しませろとかなんとか言ってきた、気持ち悪い人だった。生き残っていたみたい。


「おい、止まるな!男なら、最後まで諦めずに根性を見せろ!」

「……」


 メイヤさんが発破をかけるけど、無視。そんな彼の背後に迫る、オシュポットの花の大群。死んだかなと思ったけど、メイヤさんがそうはさせなかった。


心木一過乱切(しんぎいっからんせつ)!」


 メイヤさんは、立ち止まった冒険者を庇うように立ち、スキルを放った。繰り出された太刀は、1つ。横一閃に、振りぬいた。その太刀で、数体のオシュポットを斬り、更に一瞬の間を置いて、今振りぬいた太刀を中心とし、数十もの斬撃が巻き起こり、襲い来るオシュポットを細切れに切り裂いた。

 その姿が本当にカッコ良くて、メイヤさんが、勇者のように見えてくる。


「私が救った命だ。無駄死には許さん。死ぬまで、生きて見せろ」

「ま、まずだー……!すまねぇ!」


 メイヤさんに助けられた冒険者は、涙と一緒に鼻水を流し、そしてボク達を追って走り出した。


「放っておけばいいのに。バカな女ですね」


 そんないいシーンを、イリスの言葉が台無しにする。たぶん、本気でそう思っているから、本当に女神っぽくない。


「本当に、そうです。男なんて、助ける価値ないですよ」


 まぁ、ユウリちゃんは前提として、男の人があんまり好きじゃないみたいだから、そう思っちゃうのかな。

 何はともあれ、後ろを振り返ってばかりいないで、ちゃんと走ろう。


「今ので、大分時間は稼げた!あと、もう少しで逃げ切れるぞ!諦めるな!」


 遅れていたメイヤさんと、メイヤさんに助けられた冒険者が追いついて来た。

 けど、そんなメイヤさんに、ツタが襲い掛かった。それは、巧妙に木の根っこに隠れていて、メイヤさんは気づけなかったみたい。メイヤさんの足は、そのツタに巻き取られて、歩みを止めてしまう。


「くっ!?」


 足に絡みついたツタを、刀で切ろうとしたけど、振り上げたその刀を握る腕も、ツタに巻き上げられた。


「はっ、はっ、ひ、ひぃ!」


 メイヤさんに、1番近い、たった今さっき、メイヤさんに助けられた冒険者は、メイヤさんを見捨てた。その腰につけた剣で切るとか、できる事はいっぱいあったはずなのに。ボクは、彼のそんな行動に怒りが湧いて出てくる。

 メイヤさんは助けるとして、この男の人には、制裁が必要だと思う。


「てやああぁぁ!」


 ふと気がつくと、ボクの手から、ユウリちゃんが離れていた。ユウリちゃんは、ここへ来る途中に、メイヤさんが拾って手渡された剣を抜き、メイヤさんの腕を拘束したツタを、見事に切り落として見せた。体重の乗った、全力の一撃だ。けど、勢いあまって、そのまま転んでしまう。


「ユウリちゃん!」


 ボクは、急いでそんなユウリちゃんに駆け寄ろうとする。

 メイヤさんは、自由になった手で、どうにか足に絡まったツタも切り落とす事に成功して、更に襲い掛かっていたツタと、格闘している。なので、ユウリちゃんの元に駆けつける余裕はない。


「大丈夫です、お姉さま!すぐに──ひゃ!?」


 言いかけたユウリちゃんが、宙に浮いた。それをしたのは、ユウリちゃんの足に絡まった、ツタだ。そのまま連れ去られていこうとするユウリちゃんだけど、ボクはメイヤさんを見捨てて逃げてきた冒険者の剣を奪い、ユウリちゃんに絡まったツタに向かって放り投げた。それは、命中。ユウリちゃんはツタから解放されて、重力に引っ張られるがまま、地面に真っ逆さま。


「メイヤさん、イリスをお願いします!」

「はぁ!?ぎゃあぁぁぁ!」


 襲い掛かってきていたツタの処理を終えたメイヤさんに向かい、ボクはイリスを放り投げた。突然の事にも関わらず、メイヤさんは両手でイリスを受け止めて、見事にキャッチ。

 それを確認して、フードが頭から取れてしまうのにも構わず、全速力でユウリちゃんの下へと駆けつける。途中で、別のツタが襲い掛かってきたけど、全てパンチで吹き飛ばした。


「ユウリちゃん!」

「お姉さま!」


 ユウリちゃんに追いついたボクは、ユウリちゃんを、空中でお姫様抱っこをして回収。ユウリちゃんが、嬉しそうに強くボクに抱きついてきて、凄く良い匂いと、柔らかな感触に包まれた。


「ネモ!下を見ろ!」


 この世の終わりみたいな顔をしているイリスを、両手でしっかりと抱きしめているメイヤさんが、そう叫んだ。何かなと思い、下を見ると、そこには地面に大きな亀裂が入っていて、底の見えない暗闇が広がっていた。運悪く、そんな場所に着地しようとしていたみたいで、空を飛べないボクは、そんな亀裂に吸い込まれていくしかない。


「メイヤさん!イリスの事をお願いします!」

「任されよう!」

「はああぁぁ!?」


 力強い、メイヤさんの返事を聞いて、ボクとユウリちゃんは穴の中へ突入。


「どこまでだ!?どこまでしていい!?ちゅーくらいは、していいか!?お風呂は!?お、おトイレは!?」

「いやああぁぁ!私、汚される!」


 暗闇の中で、メイヤさんのそんな、興奮した声が響いて聞こえてくる。ちゅーとかお風呂はまだ分かるけど、おトイレ発言にはどん引きだ。


「常識の範囲内で!」


 ボクはそう叫び、腕に抱いたユウリちゃんと共に、奈落の底へと落ちていった。


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