来客
そんな感じで朝食をとっていた時でした。ボク達の何気ない一日の始まりだけど、今日はちょっとだけ違います。
そのちょっと違う一日の始まりを告げたのは、ぎゅーちゃんでした。床に寝転がっていたぎゅーちゃんが何かに反応して起き上がり、突然玄関の魔法のカギを開きました。
「ぎゅーちゃん?何して──」
何をしているのかと尋ねようとした時でした。玄関が勢いよく開け放たれました。
ぎゅーちゃんがカギを開いた事により、抵抗する物は何もありません。勢いよく開かれた扉は、大きな音をたてて開く限界の所で止まりました。
「……」
そして無言で入って来たのは、大きな男です。目つきが鋭く、やややせ型で頭には大きな帽子を被っています。何故か上半身に着たシャツは全てのボタンが外されていて、その下の肉体が見えてしまっています。
どうしてボタンを外しているんだろうと不思議に思いつつ、ボクは突然家に入ってきた襲撃者に襲い掛かろうとしたディゼの手を掴んで止めました。
「ディゼ。よく見て」
素早く動いたディゼの手には、剣が握られています。あんなに恥ずかしがりながらご飯を食べていたディゼの動きは、鈍る事はありません。ボク達を守るために、一瞬にして判断して動き出していました。
ボクとしても、突然ノックも何もなく家の扉を開いた人は、剣で刺されたって文句は言えないと思います。特にボク達は、そういう面倒ごとに巻き込まれやすい運命下にあるので、もっと仕方ないです。だけどそれは、相手が知らない人だった場合だ。
ディゼによく見るように促した相手は、片方の腕のない男です。ロガフィさんと同じような、白い髪をした長身のやせ型の男は、魔王でした。
「ま、魔王……!」
その姿を見て、ディゼが驚愕しました。
失礼な行為をしてボクの家に入って来たのは、まぎれもない魔王です。ただ、なんかちょっと違います。違うのは、その肌の色です。前に見た時はロガフィさんと同じような白い肌だったのに、妙に焼けていて黒くなっています。とはいえダークエルフの皆程ではなくて、元々肌が白かった人が、焼けた感じです。
なんだかちょっと、チャラくみえます。
「ロガフィ。会いにき──」
「え」
ロガフィさんを見て、ようやく声を出した魔王のお腹に、ロガフィさんの正拳突きが炸裂しました。お腹に正拳をもろにくらった魔王は、今入ってきたばかりの玄関を後ろ向きに飛ばされて、正面の家の壁にぶつかって止まります。
朝なので人の往来もあって、何事かと足を止める人が目に入ったけど、それを遮るようにしてロガフィさんは家の扉を閉じてしまいました。
「な、なな、何をしてるのロガフィさん!?」
突然訪れてきた魔王を、突然正拳突きで追い出したロガフィさんに、ボクは狼狽しながら尋ねました。もしかして、今になって魔王の事が嫌いになっちゃったのかなとか、心配になってしまいます。
「人の家に、ノックもしないで入ってきたらダメ」
「ロガフィさんの言う通りです。特にこの家は、か弱い乙女しか住んでいない秘密の花園です。そこに許可もなく男が土足で踏み入れるなど、許される行為ではありません」
「か弱い……?」
その言葉に引っ掛かりを見せたのは、ディゼです。それにはボクも、違和感を覚えます。
「か、かと言って、いきなりパンチで追い出すのはどうなんでしょうか……」
吹っ飛ばされた魔王を心配してそう言ったのは、レンさんです。
確かに、ロガフィさんに殴られた魔王は凄い形相になってたし、拳はお腹にめり込んでとても痛そうでした。普通の人なら死んでるような一撃だったと思います。まぁそれで死なないと思ってるからロガフィさんはあんなに強い一撃を放ったんだろうけど、それにしたって可愛そうなくらい強かったよ。
「お兄ちゃんは、大丈夫」
「で、でも……」
「ロガフィ様!ザルフィ様が何者かによって、襲撃され──」
「あ」
そこへ勢いよく扉を開いたのは、ジェノスさんです。こちらは頭にハチマキを巻いたスタイルの、ラーメン屋の店主の姿に戻っていて、親しみを感じやすい姿になっています。
でも、ノックもせずに家に入ってきたらいけません。再びロガフィさんの正拳突きが炸裂する事になり、ジェノスさんは魔王のように家の外へと吹っ飛ばされて、先に壁にぶつかって地面に崩れ落ちていた魔王とぶつかって止まりました。
それから、そんな光景を隠すように家の扉を閉めたロガフィさんが、一仕事終えたと言った様子で席に戻り、普通にご飯を再開します。
ぎゅーちゃんもロガフィさんに付いてその隣に座ると、パンをロガフィさんにねだって、ロガフィさんはそんなぎゅーちゃんの口にパンをいれて食べさせてあげました。基本的に何も食べないぎゅーちゃんだけど、たまに食べたがる時があるんだよね。特に、幼女の姿になるようになってから多い気がします。
「んなっ!?何よこれ!?なんでジェノス様とザルフィが道端で倒れてるの!?どういうことなの、カーヤ!?」
「わ、分かりません。でも確か、この辺りにネモ様のお家があるはずなのですが……」
玄関の扉の向こうから聞こえてきたその声に、ボクは聞き覚えがあります。
それを聞いていち早く反応をしたのは、ユウリちゃんでした。扉を開け放つと、飛び出してその人物の下へと駆け寄り、そして勢いよく抱き着きました。
「ようこそ、ヘレネさん!」
「ユウリさん!」
ユウリちゃんが抱き着いたのは、ヘレネさんです。顔を覆うマスクと、丈の長いローブを羽織って全身を隠しているけど、その特徴的な姿からすぐにそれがヘレネさんだと分かります。
傍にはローブを羽織って顔と頭を隠したカーヤさんもいて、倒れているジェノスさんと魔王を引き起こそうとしていました。




