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理想の魔王


「では、私や他の者の気持ちはどうなりますか?」


 その面白く思わない人を代表して、ヘレネさんがロガフィさんに問いかけました。

 魔王に家族を殺された者達は、きっと魔王を深く恨んでいる。ロガフィさんの言ったように、ごめんなさいで済む話ではありません。


「お兄ちゃんは、死刑にしたりなんかしない。その代わり、これからは魔界と、魔族のために働いてもらう」

「どういう事ですか……?」

「お兄ちゃんにはこのまま、魔王を続けてもらう。でもそれは、仮初。乱暴な事や、私の意思に反した事をしたら、次こそは命はない。その時は、崖の下に落とす」

「大勢の魔族の大切な者を奪ったコレに、魔王を続けさせるというのですか!?」


 驚いて声をあげたのは、ヘレネさんです。ボクも驚きました。

 魔王を赦すと言う選択をとるのは分かっていたけど、まさかこのまま魔王を続けさせるなんて言い出すなんて誰も思わないよ。


「そう。大丈夫。お兄ちゃんは、私の家族。アスラがいなくなれば、ちゃんとした魔王になってくれるはず」

「……」


 ロガフィさんは、魔王に向かって強い目線を向けているけど、かなり頑張っている様子が伺えます。ボクの胸の中で、ボクの服を不安げに強く握るその姿は、魔王に対する信頼はあるけど魔王が拒否したらと考えて、怯えているようです。


「──ははは!何を言いだすかと思えば、まだそのような甘い事が言えるのか!本当にお前は何も変わっていない!」


 ロガフィさんが勇気を振り絞って言った言葉を聞いて、魔王は笑い飛ばしました。正直言って、殴りたかったです。せっかくロガフィさんが勇気を振り絞って言った言葉を、この人が笑うのが一番許せません。


「言葉を慎みください、ザルフィ様。ロガフィ様は、貴方のためを思って言っているのです。それを笑い飛ばすなど、許しがたき暴挙です」


 そんな魔王に怒ったのは、ジェノスさんでした。鋭い目で魔王を睨みつけ、威嚇しています。今にも斬りかかりそうな、殺気も放っています。


「ここまで来ても尚、我を赦すと言うロガフィの言葉を聞いて笑わずにいられるか。良いか、ロガフィ。我はお前が嫌いだ。お前は我から全てを奪い、全にない力を持っていた。魔王の継承者を決める時も、我を圧倒的な力でねじ伏せてみせたお前が嫌いだ。我は今後も、お前の嫌がる事をし続けるだろう。そしていつかまた、同じ事をお前にする。断言できる。それを踏まえても、お前は我を生かすと言うのか」

「言う。私はお兄ちゃんに、ちゃんと生きて欲しい。そして、世界を好きになってもらいたい」


 世界を好きになってもらいたという言葉は、ボクがリルに言った言葉です。それと同じことを魔王に言い放ったロガフィさんは、ボクから離れると魔王に向かって歩き出しました。


「何を言っても、無駄だ。我はお前を赦さない。お前は我から大切なものを奪った。そのお前から更に大切なものを奪った我に、生きる資格も赦される資格もない。事ここに至ってしまっては仕方がない。我は我の敗北を認める。故に殺せ。お前には我を殺す資格がある」

「殺さない。お兄ちゃんは、私の家族。アスラに利用されて、操られていただけ。私も、そう。事情を話せばきっと皆分かってくれる」

「それはお前の抱いた幻想だ。我は誰にも赦されたりはしない。お前がやらないと言うのなら、我は自分で死ぬ道を選ぶだろう」

「絶対に、ダメ。お兄ちゃんには、魔王を続けてもらう。そして今度こそ、皆に愛される魔王になってほしい。……昔、私とお兄ちゃんがまだ小さかった時に、そう言っていたように」

「……」


 ロガフィさんが魔王の目の前に立って止まりそう言うと、魔王は静かに黙り込みました。


「どういう事ですか、ロガフィさん?」


 ユウリちゃんに尋ねられると、魔王はどこか恥ずかし気に目を逸らしました。


「お兄ちゃんが目指していたのは、こんな魔王じゃない。お兄ちゃんは、皆に愛されて、皆を守る事のできる魔王になると、私に言ってくれた」

「何も知らない。何も起きていない時の頃の我が放った戯言だ。だが、まさか覚えているとは思わなかったぞ。実際は妹に魔王の座を奪われた上に、暴君として君臨した最悪の魔王と成り下がった訳だがな」

「お兄ちゃんは、弱かったから仕方がない。魔王として君臨するには、あまりにも非力で相応しくなかった」

「……口にせずとも分かっている。我は魔王に相応しくはない。あまりにも弱すぎるから、このような事態を招いてしまった。話は終わりだ。殺せ、ロガフィ。我にはせめてもの償いとして、我が奪った者達の無念と、残された者達の恨みを晴らす義務がある」


 どうやら、魔王の意思は変わらないようです。ロガフィさんの意思を無視して、自ら自分を殺すようにロガフィさんに迫ります。

 でも、ロガフィさんにそう訴えている時点で、死ぬつもりはないのが明らかです。だって、ロガフィさんが魔王を殺せる訳がないから。それが分かっていてロガフィさんに訴えているようにしか、ボクは思えないんです。


「はぁー……ごちゃごちゃとうるさい、クソ男ですね。何が義務ですか。何が償いですか。聞いていて心底嫌になるくらい、ねちねちぐちぐち陰気臭い匂いでいっぱいです。いいですか。貴方の家族が、貴方に生きて欲しいと言っているんです。そのためには、貴方がした事に対する罪を清算する必要はあるでしょうが、難しいかもしれませんが清算する努力を見せなさい。死ぬのは、努力してダメだったらです。とりあえずは生きて、次こそ幼き頃にロガフィに誓った魔王になるように頑張りなさい」


 魔王に呆れて口を出したのはイリスです。ロガフィさんの隣に立って言い放ち、魔王を叱咤激励しました。

 イリスにしては、良い事をいったと思います。とりあえずやってみて、皆が赦してくれないようなら残念だけど、その時は死んでもらうだけです。今はとりあえず生きて、やってみればいいと思います。

 でもボクは思うんです。事情があって、アスラに利用されていただけの魔王が赦されない世界なら、救われた価値がないなって。その時はちょっと、ボクが個人的に何かをやらせてもらうかもしれません。たぶん大丈夫だけどね。


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