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猫みたい


 気付けばボク達は、元居た場所に立っていました。お城が跡形もなく吹き飛び、空を覆っていた雲も晴れた太陽の光の下にいます。

 ボクの周りには、一緒にロガフィさんの心の中に飛び込んだ皆もいました。突然景色が切り替わった事により、皆呆然としています。


「どうやら、無事に終わったようだな」


 ラスタナ様がそう呟き、話しかけて来ました。

 レンさんの身体を未だに借りているラスタナ様は、ボクを労うように肩に手を乗せてくれました。


「ネモ」


 そこへ、ロガフィさんがボクの胸に飛び込んできました。突然のロガフィさんの行動にボクは戸惑いつつも、彼女を拒否したりはしません。ユウリちゃんの手前、遠慮がちに抱きしめ返して受け入れます。


「全部、終わったよ。でも、勇者リルは案外悪い子じゃなかったんだ。だから……赦してあげてとは言わないけど、彼女の事を少しでいいから理解してあげてほしい」

「分かってる。私は一緒にはいれなかったけど、心の中でネモ達が頑張ってくれているのを感じた気がする。だから、ネモの言いたい事が分かる。ネモ……ネモ……」


 ロガフィさんはそう言うと、ボクに甘えるように胸に頬をこすりつけてきます。まるで、猫みたいだね。可愛いけど、くすぐったいよ。


「お、お姉さまの胸に、なんて羨ましい……!」

「憎悪から解放されて、嬉しいのでしょう。そっとしてあげなさい」

「分かってますよ!でも次は私ですからね!」


 勝手な事をいうユウリちゃんをよそに、ボクはアスラの方を見ました。


「……」


 アスラは、目を伏せて全てが終わったかのような表情を浮かべています。

 確かに、勇者リルはもういません。もうロガフィさんを苦しめる物はないし、アスラがしたかったリルの無念を果たす方法もなくなりました。逆上して世界を滅ぼそうにも、こちらにはラスタナ様がついているからそれもできません。

 でもね、アスラのしたかった事は、間違ってはいるけどリルのためで、それを責める気力がすっかりなくなってしまいました。


「アスラについての処分は、こちらに任せてもらう。数々の罪を犯したアスラは、恐らくはイリス以上の罪となるだろう。本人はもう己の罪を受け入れて抵抗するつもりはないらしい。今なら殴るも蹴るも、自由にしていい」


 アスラに対しての恨みは、色々とあります。だけどボクもロガフィさんも、そんな事をするつもりはありません。というかロガフィさんは、話を聞いているかどうかも怪しいです。ボクに抱き着いたまま、未だにすりすりしています。


「え。それじゃあ、遠慮なく」


 ただ喜々として名乗り出たイリスは、落ちていた石を拾うとそれを手に、アスラに歩み寄ろうとしました。それを止めたのは、ユウリちゃんです。空気が全く読めないイリスを、ユウリちゃんが抱きしめて止めて、石を捨てさせました。


「離しなさい、ユウリ!アスラのクソ女神には、私散々罵られて好き勝手言われたんですからね!?オマケに私をこの世界にこの姿で放り込んだのも、アスラです!許せません!十発程殴らせなさい!」

「お願いですから、空気を少しくらい読んでください。あと、暴れない。これ以上暴れたら──」

「な、なにを──ひぃん……!」

「耳を噛みますよ」


 ユウリちゃんは、言う前にイリスの尖った耳に甘噛みしました。それによって、イリスが色っぽい声をあげて身体から力を抜けさせます。膝から崩れそうになるけど、ユウリちゃんが支えているので平気です。


「本当に、可愛くなったものだな、イリス。生意気な態度は変わらないようだが、そうして人間にいいようにされているお前を見ていると、なんだか安心するよ」

「ふ、ふんっ。これらは私の魅力に取りつかれた、私の下僕です。今はこんなですが、その内私が支配して王となるので見ていなさ──ひゃんっ!」


 ラスタナ様にそんな事を宣言しようとしたイリスだけど、ユウリちゃんが耳を舐めた事によって、再び色っぽい声をあげました。イリスは耳が一際弱いので、攻め甲斐があって面白いよね。


「ふふ。変な事を言うようなら、誰が本当に下僕なのか分からせてあげますよ。ベッドの上で」

「……それはさておき、ロガフィの兄はどうしますか?殺しますか?」


 イリスは完全に、話をすり替えました。そしてロガフィさんのお兄さんの処遇を求めています。

 なんだかんだ言って、ロガフィさんのお兄さんもアスラに操られていただけの被害者にも思えます。だけど、最終的にロガフィさんを苦しめようと至ったのはロガフィさんのお兄さん自身の判断で、それはとても罪深い事だと思います。

 あと、その手で大勢殺しちゃってるからね。もう言い逃れできないレベルに達してるよ。


「それについては、好きにするが良い。その者の処遇は私の干渉すべき所にない。私はアスラを神界に連れて行き、そこで裁くだけだ」

「──ロガフィ様」


 ボク達の中で、一際真剣な目で魔王を睨んでいる人がいます。それは、ヘレネさんです。魔王を恨みの籠もった目で睨みつけている彼女は、ロガフィさんの名前を呼んで判断を仰ぎました。

 ヘレネさんの両親は、確か魔王に殺されているんだよね。彼女からしてみれば、両親の仇をとるチャンスです。その目が自然と鋭い物になってしまう気持ちも分かります。


「……私は、お兄ちゃんに何もしたくない。ごめんなさいをしたら、赦してあげたい」


 ボクはなんとなく、そう言うと思っていました。ロガフィさんは本当に優しい子だから、怒りに任せて家族を殺すだなんていう選択をする訳がありません。

 だけどそう選択できるのはロガフィさんだけで、魔王に恨みを持つ人から見ればそれは面白い事ではありません。


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