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何か出た


 それからボク達は、更に森の奥へと足を踏み入れて行く。もう、時間の感覚もなくなってきている。今が何時かなんて、想像でもできない。

 そんな状況の中で、冒険者達には疲れが見えてきて、進むペースは明らかに落ち始めている。だけど、先導するメイヤさんは、スピードを一切緩めない。このパーティでは、メイヤさんから離れたら、死ぬ可能性が一気に高まる。だから、疲れていても、皆必死でメイヤさんに付いて進んでいく。


「はぁ……はぁ……」


 さすがに、ユウリちゃんにも疲れが見え始めている。汗を流し、息も乱して必死で付いていくけど、根っこを乗り越えたり下がったりの繰り返しは、さすがに辛い。


「ユウリちゃん、大丈夫?」

「は、はい、お姉さま。ちょっと、疲れてきたけど、まだ行けます」


 それなりの修羅場をくぐってきている冒険者ですら、疲れているんだ。ユウリちゃんのような華奢な女の子が、平気な訳ないよ。


「情けないですね、ユウリ。もっと、体力をつけないとダメですよ」


 ボクが腕に抱えているイリスが、偉そうにそう言う。最初から、歩く気も、体力もないイリスにそう言われ、ユウリちゃんはイリスを、強く睨み付けた。

 それに驚いたイリスは、慌てて目を逸らし、黙り込む。吹けもしない口笛を吹こうとして、すーすー音を鳴らしているのが、これまたむかつきます。


「ユウリちゃんも、無理しないで。ボクが、担いであげるから」

「それはそれで、お姉さまに密着できて魅力的なんですが……でも、大丈夫です。できる限りは、自分で歩きたいので。ありがとうございます」


 凄く疲れているはずなのに、健気なユウリちゃん。どこかの、元女神のチビっ子魔法少女なエルフとは、全く違う。イリスは、ユウリちゃんの爪のあかを煎じて飲むべきだと思う。今度作って、本当に飲ませようかな。そうすれば、少しは変わってくれるかもしれないし。


「……撤収だ!帰るぞ!」


 唐突に、メイヤさんはそう声を出した。その手には、時計のような物が握られている。どうやら、時間が来たみたい。

 その宣言に、冒険者達は、一斉に安堵の息をついた。

 けど、ここから来た道を帰らないといけないんだよね。ユウリちゃん、大丈夫かな。


「はぁ……やっと帰れるぜ。おい、荷物持ちを代わろう。オレが持ってやる」

「ああ、頼む」


 そこまで、シニスターウルフの戦利品を運んでいた冒険者に、別の冒険者が声を掛けた。そして、肩の荷を下ろした冒険者の荷物を、背中に担いで立ち上がる。

 その瞬間、それまで荷物を運んでいた冒険者が、代わりに荷物を持った冒険者に、斬りかかった。


「が、がはっ!?何を、す……!」


 更に、追い討ちの一撃で、冒険者が血を流して倒れ、死んだ。


「てめぇ!何してやがる!」

「ふは……ふは、ふはふはふは」


 ボク達は、彼から距離を置いて、彼に向けて武器を構えた。

 彼は、白目を向いて、涎を垂らし、何故か笑っている。一目見て、正気を失っている事は分かる。そして、そんな彼の背中から、大きな花が、服を破って飛び出した。

 黄色く、百合に似たキレイな花だけど、その中心から、霧のような物を撒き散らしている。その霧が毒々しくて、キレイな花という感想を、ぶち壊しにしている。


「まずいな。アレは、オシュポットの花だ。アレに取り付かれた者は、身体を操られ、養分とされて死んでしまう。恐らく、先ほどのシニスターウルフの戦闘の最中、胞子が飛んできて取り付かれたのだろう。あそこは、オシュポットの花が咲く場所だったのかもな。だから、シニスターウルフは途中で逃げ出したのだ。納得がいった」


 呑気にも、メイヤさんはそう解説。その間にも、花に乗っ取られた冒険者は、剣を振り回して暴れている。でも、その動きは非常に鈍い。なので、油断さえしなければ大丈夫。


「マスター!どうすればいい!?」

「助けられるのか!?」

「……やめておけ。下手に近づいて、胞子にやられたら、犠牲者が増えるだけだ。何より、そいつはもう、脳まで花に根を張られている。残念だが、手遅れだ。放っておいても、5時間程で養分を吸い尽くされて、あとは土に返るさ」

「そんな……!」


 ボクは、ステータス画面で、そんな彼を見てみる。

 すると、いつもの名前やレベルの項目に加えて、状態異常と出ている。


 状態異常:オシュポットの苗床・治癒不可


 HPが、少しずつ減っているのは、花に身体の養分を吸われているからで、治癒不可能とある。こうなったらもう、死ぬまで花に操られるなんて、最悪の死に方だ。ボクは、ゾッとした。


「ん?」


 そこで、メイヤさんが異変に気がついた。

 ボク達がいる周辺の地面に、所々に蕾の閉じた花が生えている。その花の蕾が、少しずつ開かれようとしている。それまで気にもしていなかった花だけど、このタイミングで開いていく花に、メイヤさんは違和感を感じたみたい。

 蕾の開いた花は、オシュポットの花に似ていた。ただ、色は赤色だし、サイズは凄く小さい。そして、咲いたその花が突然、地面から飛び出した。それには、驚いた。


「わっ!?」


 しかも、飛び出したのは1つだけではない。周辺にいた、小さな花全てが飛び出して、根っこが足となって地面を自由自在に、歩き出した。


「きっ……気持ち悪っ!」

「ユウリちゃん!」


 ボクは、ユウリちゃんを抱き寄せて、警戒。イリスは手に抱えたままなので、問題ない。


「何だ、この花は!?」

「この!気持ち悪いんだよ!」


 冒険者の1人が、そんな足元の歩く花に向かい、剣を振り下ろした。だけど、花がそれを素早い動きで交わすと、剣を伝って冒険者の顔面に張り付いた。


「もがっ!?」


 引き剥がそうと抵抗をする冒険者だけど、いきなり手足をピンと張り、その場に倒れてしまう。そうなった所に、花が一斉に群がっていき、その姿があっという間に見えなくなってしまった。


「走れ!この場から、少しでも早く離れるのだ!」


 そう叫び、駆け出したメイヤさんに付いて、ボクはユウリちゃんの手を引いて、迷わずに駆け出した。わずかに遅れて、冒険者達も付いてくる。その中の1人は、シニスターウルフの戦利品を運んでいた人だけど、その荷物は放り出し、身軽になって駆け出している。


「ちょっと、アレなんなんですか!?ちょう気持ち悪い!」


 先導するメイヤさんに、イリスが叫ぶように尋ねた。ボクも、それは気になる。


「あれは、オシュポットの蕾だ!ヤツら単体で襲ってくる事はないが、あの男に取り付いていた、オシュポットの花の胞子に反応し、動き出してしまった!そして、この周辺はオシュポットの群生地帯!つまり、奴らの餌場だ!」

「ひいぃ!」


 メイヤさんの回答に、イリスは顔を青くした。

 そこへ、先ほど倒れた冒険者に群がっていた場所に、変化が現れた。ゆったりとした動きで、その場に立ち上がったのは、根っこと、所々に小さな赤いオシュポットの花が咲いた、大きな人型のオシュポットの花だった。頭には、大きな黄色いオシュポットが咲いている。それはたぶん、先程の荷物持ちの冒険者の背中に飛び出した花だ。皆が合体して、大きくなったみたい。


「な、何か出たー!ネモ、ユウリ!なんか出た!何か、でっかいの出た!」


 興奮するイリスに、手を叩かれてそう報告されるけど、分かっている。だって、ボクも見てるから。

 ボクは、あの大きな花のステータス画面を開いてみる。


 名前:オシュポット・クイーン

 Lv :70


 どうりで、メイヤさんが逃げ出す訳だ。レベル70のモンスターと、その他無数のオシュポットの小さな花達を相手にしては、分が悪すぎる。負ければ、お花の苗床END……絶対にイヤだよね。

 メイヤさんも、冒険者達も、全員そうなるのがイヤで、必死だ。


「ぎょわぁぁぁ!早く、早く逃げなさい、ネモ!早くううぅぅぅ!」


 そんな中で、1人、ボクが腕に抱える人物だけが、自分の足で逃げている訳でもないのに、ただただ五月蝿いだけだった。


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