この世界を好きだった頃
降り注いできた光の柱を、ボクは剣で受け止めました。強烈な光の柱は、ボクのラストイェレーターと似ていて感じる力も同じような物です。
威力は、ボクの物と同等くらいかな。やっぱり、リルは勇者なだけあってとても強いです。もっとも、こんな姿となり、ロガフィさんを苦しめるような人を勇者と呼んでいいかどうかは微妙だけどね。
「……リル。貴女はなんのために、勇者として魔王と戦ったの?」
ボクはそう尋ねながら、受け止めていたリルの技を、剣で砕き散らしました。
砕けた光は、まるで光の雨のようにして地上へと降り注ぎます。とても幻想的な光景に、目を奪われつつもボクの意識はリルに向いています。
「魔王は、私に酷いことをした……」
「知ってるよ。辛かったね。人間に裏切られた事も、知ってるよ」
「私はただ、人々のために頑張ったのに。それなのに、魔王に勝てなかった私は人々の憎しみの対象となった。そんな理不尽を受けた私を、女神様は助けてくれなかった……!勝手に私を勇者になんか選んで、いざ私が魔王に敗北すると世界を作り変えて魔王に勝てなかった勇者像を作り出した!人は嫌い!女神も嫌い!魔族も嫌い!世界が嫌い!こんな世界は、なくなってしまえばいい!」
頭をかきむしり、地団駄を踏みながら言うリルは、怒りを通り越してまるで子供のようです。でも、彼女が受けた仕打ちがとても辛かったと言う事は分かります。それを理解はしてあげられないけど、察してあげる事はできます。
ボクも、元勇者として魔王にもし負けていたら、同じような末路をたどっていたのかもしれません。そう考えると、彼女の気持ちを察して、彼女を可愛そうな人だと認識する事ができます。
本当はロガフィさんを苦しめる元凶として、さっさと勝ってしまおうと思っていたんだけど、気が変わりました。
「……リル。この世界は、そこまで悪い物じゃないよ。この世界でボクは、色んな人と出会って、いろんな大切な物ができた。貴女が守ってくれたこの世界が、ボクは大好きだ。だから貴女にも、この世界を好きでいてもらいたい」
「好きだった……でも、世界は私は裏切った。全てが私の敵となり、私を殺した。私は死の間際に生まれた、憎悪。人を憎み、魔族を憎み、世界を憎む。この憎悪は、この世界の生き物全てを殺しても消え去る事はない」
「リルの言いたい事は、分かるよ。だけどリルは、やっぱり好きだったんじゃないか……!この世界が好きだった頃の自分を、思い出してよ!」
「……この世界を、好きだった頃の自分」
リルはそう呟いて、黙り込みました。たぶん、こうなる前の事を思い出しているんだと思います。
リルは確かに、辛い目に合ってしまったと思う。だけど、勇者になって世界を救おうとしていた人が、憎悪となって世界を滅ぼそうとするなんて、そんなのってないよ。とにかくリルには、辛い事だけではなく楽しかった事を思い出してほしいです。
ボクは勇者だったとき、楽しかった事なんて数える程しかなかったけど、世界が好きだと言い切ったリルならきっと色々な事があったはずです。
「世界は、嫌い。だけど……だけど……──いや、世界は、敵。私を見捨てて殺した上に、平和でいようとする世界が嫌い。殺す。殺さないと……!」
「リル!」
ボクは、再び頭を抱えて地団駄を踏むリルを、抱きしめました。
力強く抱きしめて、その身体を包み込みます。この子は、何も悪くありません。かといって、世界が悪いかと言えばそうでもない。この子を生んでしまったのは、人間だ。勝手な理想を勇者に押し付けて、その勇者が期待に添えなかったら裏切る。そんな事をしているから、いつまでも人間は人間なんです。
魔族に拷問されて死んだ世界の話は、それは仕方ないと言えば仕方ありません。だって、勇者になったということは、魔王に戦いを挑む前に多くの魔族を殺めているはずだ。逆に自分がそうなる覚悟のない者は、勇者として相応しくないと思います。ボクも、いつ魔族に殺されてもいい覚悟で旅をしていたからね。実際は、全部返り討ちにしたけど。
話がずれたけど、そんな人間だけど、負の面だけをみたらそれはとてつもなく醜くてどうしようもありません。だけどね、世界中に目を向ければ絶対に明るい面も見る事ができるはずなんだ。このリルを生んでしまった人間が全部悪いと言えば悪いんだけど、だけど、そこにばかり目を向けて欲しくはありません。
世界はもっと優しくて、もっと温かいという事を、リルに思い出してほしいです。
「私を裏切ったのは、人々だけじゃない。アスラ様も、私を見捨てた。私は頑張ったのに……世界を救えなかった事により、世界を書き換えられてあんなに過酷な運命を強いた。赦せない……絶対に……絶対に……!」
「──違うよ。アスラは、リルを見捨てたりなんかしていない。アスラは貴女を救おうと、貴女の仇をとろうとして、間違った事をしていた。間違っていたのは間違っていたけど、それは全部貴女のためであって、貴女を見捨てたりなんかは絶対にしていなかったはずだ」
「違う。見捨てた。だから私は、殺された。身を焦がすような憎悪にさらされ、憎悪は私を飲み込み、私を生んだ。次は世界が、私に侵される番」
リルはそう言うと、再び黒い霧に包まれ始めました。それは、リルの身を包み込む憎悪の塊です。リルに抱きしめて触れているボクにまで、それは侵食してきます。
身を焦がすような憎しみの感情が、霧に触れた事によってボクの中に芽生えた気がします。それは、ボクを昔虐めていた村人や、ボクを蔑んでいた人々に対しての負の感情です。
先程の物とはまた更に、感じる負の感情が強い気がします。だけどね、やっぱりこれくらいなんともありません。
そう思ったら次の瞬間には、ボクに侵食していた霧も、リルを包み込もうとしていた霧も、一緒に晴れました。
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