表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

465/492

できました


「お姉さま!ディゼさん!」


 ボクが腕に抱いたディゼを心配していると、ユウリちゃんも駆けつけてくれました。辺りを襲った濁流は既に消え去っていて、水に飲み込まれたリルの姿は少し遠い所にあります。

 それでも、戻ってこようと思えばすぐに戻ってこれるような距離だ。ボクはディゼをユウリちゃんに任せると、リルを警戒して構えます。


「……震えてる。あの剣で斬られたのが原因ですね」

「恐らく襲い来る憎悪に耐えられなくなったのでしょう。霧に呑まれ、リルに斬られて、最初は我慢で来ていた物が決壊した。つまり、リルの憎悪に触れれば触れる程、頭がおかしくなっていくという訳です。ディゼはこれ以上、傷つけさせないように私と一緒にいるようにしなさい」


 ユウリちゃんは、イリスに言われた通り、イリスの傍にディゼを座らせました。

 頭を抱えて怖がる姿はとても痛々しくて、見ていられません。今すぐに抱きしめてあげたいけど、そうもいきません。これ以上ディゼを傷つけさせないためにも、守らなければいけないからです。


「あの剣で斬られた時、確かに嫌な思い出が蘇りました。ディゼさんはそれに耐えられなくなってしまったという事ですか……?」

「何とも言えませんが、アレに斬られれば斬られる程、精神がすり減っていくと考えるといいのでないでしょうか。最初は斬られて平気だったとしても、次に斬られたらどうなるか分かりません。そう思って戦いなさい」


 斬られ放題だと思っていたボクの考えを、イリスは否定しました。

 確かに、斬られ放題なんてそんな美味しい話、まずないよね。そんな甘い考えを抱き、実際斬られて傷ついているディゼの姿を見ていたら、悲しくなってきてしまいました。


「それは分かりましたが……剣の方はまだですか?」

「まだです。ですが、できそうです。アスラの勇者の剣を媒体にしているおかげというのが気に入りませんが、できます。だからもっと時間を稼ぎなさい」

「イリスも見ましたよね。アレを長い間止めるのは、不可能です。だから急いでください」

「私だって全神経を集中させて、充分急いでいます。それなのに戦いをチラチラと見ながら解説までさせられてるんですから、急かされるいわれはありません」


 イリスの言いたい事も分かるけど、今はディゼまで失った状況だ。急がないといけないので、それは分かってほしいです。


「とにかく、急いでください!」


 ユウリちゃんはそう言うと、魔法で地面から噴き出す水を作り出すと、それに乗ってリルに向かって飛んでいきました。

 どうでもいいけど、イリスよりも完璧にセレンの力を使いこなしてるよね。これじゃあイリスのメンツが丸つぶれだよ。


「勝手な事を……!」


 忌々し気にユウリちゃんを見送りつつ、イリスは引き続き剣に手をかざして神経を集中させます。髪の毛と剣は、既にくっ付き終わっていて完成したようにも見えるけど、どうやらまだのようです。


「ぎゅぎゅぎゅー!」

「ぎゅーちゃん、ユウリちゃんをお願いね!」

「ぎゅ!」


 ユウリちゃんを追っていくぎゅーちゃんに、ボクはそう声を掛けました。

 ディゼが戦えなくなり、期待できるのはユウリちゃんとぎゅーちゃんだけだけど、ユウリちゃんはまだまだ戦いなれていないはずだ。そのサポート役を、ぎゅーちゃんにお願いしました。

 すると、ぎゅーちゃんはふたつ返事で答えて去っていきます。

 ところで、ぎゅーちゃんとユウリちゃんも、先ほどリルに斬られてたけど2人も嫌な物を見せられちゃったのかな。ディゼもだけど、今これからリルと対峙しようとしている2人も心配だよ。


「アンリちゃんは、ディゼをお願いね」

「お任せだよ」


 姿を消して、気配だけあったアンリちゃんにボクが答えると、アンリちゃんはディゼに寄り添って座ってくれました。温もりはないだろうけど、アンリちゃんにとっての精一杯の慰めです。

 というか、幽霊に寄り添われてちょっと怖がってるような気がします。震えが強くなって、顔も青ざめてるからね。でも、まぁいっか。


「はああぁぁ!」


 その間に、リルに迫ったユウリちゃんがリルに向かって剣を振りぬきました。すると、ユウリちゃんの背後からいくつかの水玉が出現し、それがリルに襲い掛かります。

 リルはその水を、一瞬にして全て切り落としました。何が起きたか分からないレベルで、リルは素早い剣撃を繰り出したんです。

 その勢いのまま、リルがユウリちゃんに向かって地を蹴ってジャンプしました。


「ユウリちゃん!」


 ユウリちゃんは、あえなくリルによって身体を斬りつけられてしまいます。

 だけど、ユウリちゃんの手はリルの腕を掴んでいました。斬ってそのままユウリちゃんと距離を取るつもりだったんだろうけど、それによってリルはユウリちゃんに拘束されてしまいます。そんな2人の身体を覆うように、水の球体が出現しました。水は2人の自由を奪った上で包み込み、リルに対して空気攻めを敢行しました。

 でもね。そもそもたぶんリルは、息とか関係ないよ。むしろ、一緒に水の中にいるユウリちゃんの方が、口から泡を出して苦しそう。というか、苦しくなるの早すぎる気がします。


「ぎゅー」


 そこへ、ぎゅーちゃんが追いついてきて、ユウリちゃんを触手で包んで回収して水から救い出しました。


「ぷはぁ!」


 ユウリちゃんが水の中から助け出された事により、水はなくなりました。助け出されたユウリちゃんは大きく息を吸い、一方でリルは呆然としています。一体この人は、何がしたかったんだろうと思ってそうな目です。


「──できましたよ」


 そのタイミングで、イリスがボクにそう告げました。イリスの方をみると、そこには立派な白い剣がありました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ