剣を作ろう
勇者の剣は、ロガフィさんとのせめぎあいの中で砕け散ってしまいました。おかげでボクの胸には風穴が開いちゃったんだよね。
結局せめぎ合っていたロガフィさんの剣も砕けて相打ちとなった訳だけど、今のボクは何の武器も持たない丸腰の女の子です。そんな状態で、目の前の憎悪の塊に勝てるとは思えないんだよね。
ここは精神の中とはいえ、この巨人の力は凄く強いと思います。さすがにこんなのと丸腰で戦うのは、ちょっとキツイかな。そういうレベルの相手です。
「私の、勇者の剣を壊した……?」
その時の説明を、ボクは自分の出来る精一杯でイリスに伝えました。最終的には、剣が壊れた。その一言に尽きるので、それだけ伝わったのならそれでいいです。
でもそれを聞いて、イリスは青ざめました。
「このバカネモ!そう言う事はここへ来る前に言いなさい!どうしてこんな最終段階にまで来て言うのですか!?バカなのですか!?バカでしたね!」
「い、今思い出したんだから、仕方ないよ……」
そして凄い形相で怒ってくるイリスに、ボクはユウリちゃんを盾にして隠れながら言い訳をします。
「何も仕方ない事なんてありません!過失ですよ!罪ですよ!」
「落ち着いてください、イリス。勇者の剣がなくたって、ネモ様は充分強いから……私やディゼさんの剣もあるので、それで代用をすれば良いのでは?」
「それができれば、苦労しません……!勇者の剣は、私がネモを勇者と認めるための、大切なツールです。そのツールが壊れて所有権を無くしたという事は、今のネモは女神である私の加護を失った、勇者もどき……。そんな存在が、闇に染まりし真の勇者であるリルに、勝てるわけがないんです!」
そう言い切ったイリスの言いたい事は、よく分かります。ボクは最初この世界に来たての時は、その力が前よりも遥かに低く感じていました。そうした状態で、女神の加護を受けたディレアトに危うく負けてしまう所だったけど、イリスが剣を授けてくれて元の力を取り戻したんです。
つまりは勇者の剣を授かる前の力に戻ってしまった訳で、今のボクは女神の加護を受けた竜以下の力しか持ち合わせていない事になります。
「……」
イリスが言い切った事により、ユウリちゃんや他の皆が、心配そうにボクの方を見て来ます。
そんな目をされても、壊れてしまったのはもう仕方なくて、このままではイリスの言う通り勝てる見込みはないと思います。
本当に、もっと早く思い出すべきだったね。だけど、この状況をラスタナ様は視て知っていたはずだ。それなのにボク達を送り出したのは、ちょっと違和感を感じます。
「……イリス。勇者の剣は、作れるの?」
思い出したのは、アスラの言っていた台詞です。アスラは、ボクが手にしていた勇者の剣を、イリスが3分で作り出した物だと言っていました。
「……作れるか作れないかと聞かれれば、作れます。女神の力を失ったこの身体でも、恐らくは……だけど確証はありません。今の私は、ご存じの通りただの生意気なエルフの小娘ですからね。もし作れなくてこの場にいる全員が負けたとしても、責任を取る事もできません」
イリスが自分の事を卑下して言う時は、本当に自信がない時です。
「その前に、一旦退避するのはどうですか?剣が出来てから、改めてこの場所へ駆けつければ、万事解決です」
「ダメだ」
ユウリちゃんの提案を、即否定したのはディゼです。ディゼは周囲を見て、既に状況を把握しています。
「その通りですよ。周りをよく見てみなさい。一体どこに逃げ道があると言うのですか」
イリスに言われた通り、周りを見ると巨人の出現と共に少しだけ地形が変わっていました。どこまでも続いていたかのように見えた荒れた大地は、ボク達や闇の巨人を囲むようにして崩れ去り、今ボク達がいる場所以外が崩れ去っています。崩れ去った地面の先に、新たな地面はありません。真っ暗闇で、崖の下も上も先も、何もない闇が続くだけです。
ゲームの中でもよくあるよね。最終決戦を前に、今来た道を戻れなくなる事が。それと同じ感じです。
「もう、戻る事は出来ないという事ですか……」
「その通りです。ネモがもっと早く言えば、ここに至る前に支度ができたものを……!」
「ご、ごめんなさい」
すっかり忘れていたのは事実なので、一応素直に謝罪しておきました。あと、せっかくイリスがくれた剣を壊してしまった事も、ちょっと罪悪感があります。
でもボクが素直に謝罪すると、イリスはバツが悪そうに目を逸らしました。
「……私の作った剣が、脆かったのも原因です。つまり、ネモの力についていけないような剣を渡した私にも、非はあります。──勝つ必要はありません。とりあえず時間を稼ぎなさい。私の剣が完成したその時が、私たちの勝利となるでしょう」
イリスはすぐに鋭い目つきに戻ると、皆にそう命じました。
闇の巨人が、ボク達を見ています。巨人が手をかざすと、その手に霧が集中していき、すぐに剣の形をとりました。その剣の大きさと言ったら、大きすぎです。どうやら巨人は、攻撃態勢を整えてボク達に襲い掛かろうとしているみたいです。
「では私が、一番槍を務めさせてもらう」
そう言って静かに剣を抜いたのは、ディゼです。その目は冷たく鋭い目となっていて、出会ったばかりのディゼを思い出します。
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