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ヒミツです


 勝ったとはいえ、ボク達のパーティは壊滅状態。大勢の冒険者が殺されて、残った冒険者も戦う気力をなくしている。これでは、行方不明者の探索どころではないだろう。


「皆、よくやってくれた。シニスターウルフを退けた功績は、諸君らの冒険者人生において、誇っていい実績となるだろう。これからも、励んでくれ」

「ま、マスター。シニスターウルフの毛皮は、高く売れる。持って帰って、分配にまわしてもいいだろうか」

「各々が持ち運べる範囲であれば、構わない。少し休憩したら、出るぞ。やるなら早くしろ」

「で、出るって!まだ、探索を続けるのか!?」

「当然だ。予定の時間まで、探索は続ける」


 本当に、当たり前のようにメイヤさんは言ったけど、冒険者達を見れば、行きたがっていないのは一目瞭然。冒険者の中には、反発的な目でメイヤさんを睨む者もいた。


「帰りたければ、帰ってもいい。ただし、報酬は払わんし、帰り道の無事も保証しない。それでよければ、好きにするがいい」

「……」


 メイヤさんの脅しに、冒険者達は黙り込んだ。

 イヤなら帰ればいいのに。そうすれば、人が減って、ボクとしては凄く嬉しい。現状はまだ多いくらいです。


「だが、マスター。どうして、こんなGランクの、非戦闘員みたいな冒険者をつれているんだ。代わりに、もっと上位の冒険者を連れてくれば、助かったヤツだっているかもしれないのに!」

「そうだ!ま、まさか、こんなガキ共とオレ達の報酬が、同じだなんて言わないよな!?」


 彼らの矛先は、何故かボク達3人に向けられた。確かに、さっきの戦闘でボク達は何もしていない。でもそれは、襲われなかったからで、ボク達に襲ってきていたら、しっかり反撃していたよ。


「そうだ!いっその事、その身体でオレ達を楽しませろよ……!」

「そ、それがいい!ちっと貧相だが、この際我慢してやる!」


 先ほど、ボク達に小言を言ってきた冒険者が、色めき立った目でボク達を見てそう言った。もしかしたら、最初からそういう風になる事を、狙っていたのかな。だとすると、本当に気持ち悪い。

 でもまさか、この場でえっちイベントが発生するとは思わなかった。せっかくの勝利の余韻が、台無しです。


「……冗談でも、私の前で、二度とそのような事を口にするな。殺したくなる」


 メイヤさんが、冷たく言い放った瞬間、背筋が凍った。まるで、言葉を発したら死んでしまうかのような、そんな雰囲気がその場を包み込み、全員一歩も動かず、息を吐くことすら躊躇う。

 特に、その言葉を向けられた冒険者は、大変だ。小さく悲鳴を漏らし、今にも泣き出してしまいそう。でも、動かないように、必死に耐えている。いや、もしかしたら、怖くて身体が硬直して、動けないだけなのかもしれない。


「ぎゃははは!ネモ、アイツめちゃくちゃビビってますよ!情けなー!」


 そんな雰囲気をぶち壊すように、イリスが下品に笑いながら言った。相変わらず、空気の読めないイリスを、ユウリちゃんが背後から口を塞いで黙らせる。


「わ、悪かった、マスター……バカな事を、言ったと思う。謝罪する」

「オレもだ。すまない」


 イリスのおかげで、空気が和らいだ。そのおかげで、2人はその隙に、謝罪の言葉を口にする事ができた。


「気にするな。お前達は、お前達に与えられた役を演じたに過ぎん。だが、次はない」

「は、はい……」

「では、さっさとシニスターウルフの処理してしまえ。早くしなければ、稼ぎが減るぞ」


 メイヤさんのおかげで、なんとかこの場は、何事もなく済んだ。メイヤさん、ホントにカッコイイです。




 シニスターウルフの死体は、5体ある。その内の2体の皮を剥いで、絨毯のように丸めた物を、冒険者が1人ずつ背負うけど、重そう。そこへ更に、爪や牙もバッグに詰め込む事になるみたいで、負荷は大きい。そうなれば戦闘に参加する事はできず、荷物運び専用になるしかないだろう。それ以上戦闘要員を減らすわけにもいかず、だから、残りの3体には手付かずで、放置されている。

 ボクは、そんな放置されているシニスターウルフの死体に近づき、手を触れてみた。すると、選択肢が出てくる。シニスターウルフの毛皮と、爪と、牙と、肉。が表示されている。


「このモンスターの毛皮、本当に良い材質ですね。コートにしたりすると、セレブな方々が喜んで買っていきそうです」


 ユウリちゃんが、ボクの隣に座り込んで、シニスターウルフの毛を撫でながら、そんな事を言う。確かに、凄くサラサラで、柔らかくて気持ちが良い。それに、温かそう。これじゃあ、高く売れる訳だ。


「いいですね、毛皮のコート。高級感溢れる、上質な毛皮のコートは、セレブの嗜みですからね。私も、この獣の毛皮で作ったコートが欲しいです。買ってください」


 イリスはシニスターウルフの毛に顔を埋めて、そんな事を言い出している。


「却下。でもお姉さま。コレをどうするんですか?まさかとは思いますが、皮を剥ぐとか?」

「う、うん。ちょっとね」


 ボクはユウリちゃんに答えて、出ている選択肢を、まとめて選択。すると、一瞬にして、今ボク達が触っていたシニスターウルフの死体が、皮と牙や爪と、一部の肉がそがれた状態に変化した。


「ひょぉぉ……!」


 イリスは、シニスターウルフに顔を埋めたままだった。なので、毛皮が剥がれた状態のシニスターウルフに顔を埋めていて、その顔に血と脂を塗りたくり、おかしな声を上げてボクの方を見てくる。

 それは一旦置いておいて、アイテムストレージに、シニスターウルフの毛皮がしっかりと入っている。それに加えて、シニスターウルフの爪や牙に、肉と言った、目の前のシニスターウルフの死体から回収した物が、そのままストレージにいれられた。

 凄い。自分で処理しなくても、自動的に処理して回収してくれるんだ。


「お姉さま、今のは……!」


 その現象を目の当たりにしていたユウリちゃんが、驚いて声を上げる。


「アイテムストレージに、解体した状態で回収できたみたい。毛皮とか、お肉とか」

「毛皮とお肉って、最強じゃないですか!?」


 毛皮のコート好きで、お肉大好きなイリスが反応してしまったけど、放っておく。

 というか、顔が汚いのでどうにかしてもらいたい。できないなら、近寄らないで欲しい。服に血がついてしまいそうなので。


「……凄い。これなら、面倒な解体作業を省けて、しかも手ぶらでいられる。コレを利用すれば、借金なんて、本当にすぐに返せてしまうかもしれません。お姉さま。あっちのも回収しておきましょう」


 ボクは、ユウリちゃんに言われるがまま、残りの2体のシニスターウルフも、アイテムストレージに回収。合計で、3体分のシニスターウルフの素材を手に入れた。


「おい、見てくれ!こっちの死体の皮が剥がれてるんだが、誰かやったか!?」


 先ほど、ボクが回収したシニスターウルフに気づいた冒険者がそう叫んだ。それにより、冒険者達が集まってきて、ちょっとした騒ぎとなり、犯人探しが始まる。


「この素材の事も、ストレージの事も、ヒミツです。全て私達の物という事で、いいですね?」

「勿論よ。あのサルども、知ったらきっと、分け前を寄越せとか言ってくるに違いないわ」

「う、うん、分かった」


 ちょっとだけ気が引けるけど、イリスの言う事はもっともだ。ボク達は黙っておく事にして、一瞬にして素材を回収されたシニスターウルフに驚く冒険者達に、無関係を装った。

 犯人探しは、すぐに終わった。顔面がシニスターウルフの血にまみれたイリスが一瞬疑われたけど、毛皮も何も持っていないし、あんな一瞬で解体できる訳もない。そして、可愛く嘘泣きをして身の潔白を訴えるイリスに、すぐに疑いは晴れた。他に、誰も容疑者になり得る人はいない。だって、結局解体作業が早すぎて、人間業とは思われないから。

 と、言う訳で、謎現象として処理されました。


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