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避難先


「この世界を作りし女神が一堂に会した場所が、魔界の中心部とは皮肉な物だな」


 魔王は片腕を失った状態で、戦う気力を見せる事はもうありません。アスラの剣も、アスラの加護も消えてしまったようなので、ボク達に対抗する事ができないと分かっているからだと思う。それでもその態度は未だに魔王らしく、ボク達を敵として見ているのに違いはなさそうです。


「……ザルフィ様。何があったのかは、もう察しがつきます。どうかご自分の負けをお認めになられてください」


 そんな魔王に歩み寄り、諭すように声をかけたのはジェノスさんです。


「ジェノス……ロガフィを庇って我の軍門に下ったのは、策略だったか」

「違います。わたしは本当に、ロガフィ様を庇って貴方の軍門に戻っただけです。そこに策略はありません。わたしは全てを諦めて、貴方の下に下りました。こうなったのは全てロガフィ様と、ロガフィ様のお友達の力です」

「だがその者達に味方し、庇ったようではないか。そのような事をして、貴様の大切な部下達の命が無事で済むと思っているのか?」

「……」


 魔王の脅しに、ジェノスさんは黙り込みました。だけど、決して脅しに屈している訳じゃない。ジェノスさんの事は、ユウリちゃん達が秘密裏になんとかしてくれているはずです。


「残念だけど、そうはいかないわ。ジェノス様の部下の方々は、全員このお城の崖の下に避難しています。あの場所に逃げ込んだ彼らに手を出す事は、不可能よ」


 代わりにヘレネさんが、魔王にそう教えてあげました。

 崖の下と言えば、ユウリちゃんとイリスが落ちた場所だね。あの深くて真っ暗な谷の底に、何があるのかボクは知りません。


「崖の下、だと?あそこには何百年もの間、多くの魔族が葬られ異界と化している。そこに生ある者が紛れ込めば、亡者たちにたちまち命を奪われ死者の一員となるだろう。そこに避難?不可能だ。できたとしたら、もう死んでいる」


 魔王のその言葉を聞いて、ボクはある人物が思い浮かびました。そんな場所なら、アンリちゃんの得意分野です。アンリちゃんなら、きっと交渉して皆を庇うのに協力してくれるようにしてくれるはずです。


「まぁそうだよね。彼らすっごく怒ってたし、普通に立ち入ったらまず死んじゃうだろうね。ふふん」


 明るい声でそう言いながら地面から現れたのは、やっぱりアンリちゃんです。得意げな顔をして、魔王をちょっとだけおちょくるように笑っています。


「……下には、私の友達もいた。お兄ちゃんに殺された、友達。彼らは私の命を奪うどころか、私を歓迎してくれた。そして今生きている私やジェノスの大切な人たちを、庇うのにも協力してくれた。知らない人たちもいたけど、彼らはアンリが協力を呼び掛けて皆が協力してくれた」

「死者達が、生ある者を受け入れただと……?」

「その通りです。ロガフィさんと、アンリ君の人脈の成せた技ですね。ちなみにこのお城にいた他の魔族達も、崖の下へ避難してもらっています。橋が壊れてしまったので、戦いに巻き込まれないよう緊急の措置でそうしたのですが、この意味が分かりますか?」


 ユウリちゃんがボクの身体から手を離し、代わりにボクと手を繋ぐと魔王に向かって言い放ちました。ボクはその手を強く握り返し、ユウリちゃんの温もりを感じ続けます。


「……逆に、我の戦力たちをいつでも殺せると言いたいのか?」

「その通りです」


 ニコやかに返すユウリちゃんに、魔王ではなくロガフィさんが狼狽えます。殺戮は、魔王ではなくてロガフィさんが望んでいない事です。例え魔王の部下であっても、無駄に命を奪うのをロガフィさんは望みません。

 一方で魔王は口では大切な戦力だとか言いながらも、結局は彼らを道具としか見ていないので、彼らが避難する前に戦いを始めて大勢を平気で巻き込んで殺しました。そんな彼に、人質作戦が効くかどうかは微妙な所です。


「魔王ザルフィに関しては、もう良いだろう。今この場でこれ以上奴を虐める必要はない。奴は今、自らの力のなさを心底感じている上に、アスラに翻弄されていた事によって心が疲弊している。考えるだけの時間を与える事も、大切じゃ。奴に対する罰は、後々考えればそれで良い」

「……」


 魔王は、メギドさんの言葉に反論をする事はありませんでした。代わりに黙り込み、静かになってしまいます。

 そんな魔王を、ロガフィさんは心配そうに見つめている。胸に手を当てて、駆け寄りたいけど駆け寄れないもどかしさに、悲し気な表情を見せています。


「諸々の話が積もっているだろうが、本題に戻りたい。もう一度言うが、勇者ネモにはこの世界が誕生した時の禍根を取り払うべく、勇者リルの憎悪を断ち切ってもらいたいんだ」

「……勇者、リル」


 ボクが腕に抱いているイリスが、ラスタナ様が出した名前を聞いて呟きました。

 イリスも、この世界を作った内の1人だからね。知っていてもなんら不思議な事ではありません。


「無駄よ。あの憎悪を断ち切るなんて事、誰にもできないわ。その子だって今は我慢できていても、その内絶対に我慢できなくなって発狂する。その時、再びこの世界に危機が訪れる事になるわ。今のうちに殺しておくのが、一番なんじゃないかしら」

「──好き勝手言わせてないで、貴女も怒って反論くらいしなさい。言っておきますけど、この性悪女の言う事を真に受ける必要はありませんからね」


 イリスはそう言うとボクから離れて歩き出し、ロガフィさんの方へと歩み寄りました。イリスも、ロガフィさんの事が好きだからね。そんなロガフィさんの事を悪く言うアスラを、イリスは睨みつけています。


読んでいただきありがとうございました!

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