この世界の存在価値
ボクが放った光は、ロガフィさんに直撃しました。でもその光がロガフィさんに届く事はありません。ロガフィさんは、真っ黒に染まった剣で光を受け止めて、切り裂いてしまいました。
ボクが放った光は次元ごと切り裂かれて、消え去ってしまいます。ロガフィさんなら即死はないとは思っていたけれど、ここまではさすがに想定していませんでした。
ロガフィさんには驚かされてばかりです。
彼女が持つ力は、果たしてボクと同じなのか或いはそれ以上なのか……。ボクは自分の心が高揚しているのに気づきます。
だって、今まではボクが本気を出したら皆すぐに死んじゃうんだよ。それがロガフィさんはどうだろう。他の人がくらったらすぐに死んじゃうようなボクが放った攻撃を、いとも簡単に受け止めて見せた。生まれて初めて、ボクと対等に戦える相手を見つけたんだ。
「化け物が二人……」
ボクが放った攻撃を見て、魔王が呟きました。魔王のラストイェレーターは、確かに強かった。でもボクの物とは格が違う。そんな威力の物をロガフィさんは防いで見せた。今度は完璧に、だ。
ボクはロガフィさんの事を化け物だなんて思わないけど、でもよく化け物だのと言われるボクの攻撃を防いで見せたロガフィさんは、そう言われても仕方ないのかもしれません。ボクと同じだね。
「良い感じね。私が授けた女神の力を、全て闇に変えて飲み込むほどの憎悪は、貴方が作ってくれたのよ。偽物の魔王さん」
「貴様はっ……我を利用していたとでも言うのか……!」
「違うわ。こうなったのは全て貴方達の選択。この世界ができる前……千年前のように世界を戻そうとは思っていたけど、彼女を追い詰めた貴方の選択は想定外。貴方がそのまま世界を征服してくれればそれはそれでよかったけど、やっぱり貴方ではあまりにも非力過ぎる。私の女神の力を授かってその程度じゃ、恥ずかしいわ。死んだ方が良い」
「っ……!」
悔し気にして今にもアスラに襲い掛かろうとせんばかりの表情を見せる魔王だけど、その身体はボロボロです。身体を蝕むロガフィさんの闇の炎がなくなって、思ったより元気にはなってるけどやっぱり他の傷が深すぎます。
でも大丈夫。魔王は女神の力を授かったディレアトよりは、強かったです。そんなにバカにされる程弱かった訳ではない。ただロガフィさんが強すぎて、そう見えてしまうだけです。
「アスラ……千年前に戻そうとしていたって、それはつまり……」
ロガフィさんはボクの攻撃を受けてから、とりあえず攻撃を仕掛けてくる様子はありません。一応警戒して構えておくけど、今はアスラの話に耳を傾ける余裕があります。
「そうよ。貴女が異世界でしていた、ゲームの世界を再現しようとしていたの。この世界は魔の者達に支配され、人間たちは凌辱されて奴隷となる。貧しき者も高貴な者も、皆関係なく全てが同じ身分となるの」
「どうしてそんな事を!」
モンスタフラッシュの世界は、それはそれは凄い世界でした。プレイヤー扮する主人公の魔族の、思い通りにできる世界です。奴隷を買ったり、買った奴隷を凌辱したり色々な事ができます。奴隷じゃない子も場合によっては色々できたりと、幅広いです。アドベンチャーパートもあって、色々なモンスターと戦ったりもできて名作だと思います。
でもあの世界は、ゲームだからこそ許される世界だ。今現実にそんな世界となってしまったら、ボクがこの世界で出会った大切な人たちの身が危ぶまれる。
何より、女神であるアスラがあんな世界を望むなんて、そんなの絶対にあってはいけないことだ。女神様は本来、人間を導いて魔族の手から世界を守ってくれる存在なのだから。イリスがボクを導いてくれたように、アスラもこの世界を守るために人間を導いてくれないとおかしいです。
「どうしてって……だって千年前はそういう世界だったのよ?どうしてこの世界だけ、救われなければいけないの?かつての世界を救おうとした勇者たちを忘れ、のうのうと平和に縋って生きるこの世界には存在価値がない」
「存在価値なんて、そんなの貴女に決められる筋合いはありません!私たちは私たちの住むこの世界を愛しています!」
レンさんがアスラに向かって怒鳴ります。ボクも、色んな人と出会う事のできたこの世界の事が、大好きだ。
そんな皆のためにも、アスラの言う元の世界になんてさせません。
「この世界の住人には分からないでしょうね。こんな、異世界からの転生者をただ凌辱するだけの運命に置くためにだけある世界を、愛している?私なら恥ずかしくて言えない台詞ね」
「転生者を、凌辱……?」
「ええ、そうよ。この世界は一度終わりかけ、人は先ほども言った通りの支配される世界に陥った。それを女神イリスティリアとラスタナに……私を含めた三女神が世界を再生。魔王に勇者が負ける前の世界を作り直し、世界は元通りとなって新たな世界が始まった。本来であれば私たち女神がそんな事をする義理はない。魔族に負けた世界は、滅ぶまでそのまま放っておかれる。それがその世界の運命だもの。当然よね。でもこの世界は、転生者を苦しめるための世界として再生され、残される事になった。魔族に支配された世界じゃ、色々と面倒なのよ。転生させるにもいちいち魔族に感づかれて、聖なる力を授かった者かもしれないとか言って、すぐに殺されちゃう。それじゃつまらないでしょう?」
そう言ってアスラは笑うけど、何も面白くありません。自分たちの世界がそんな事に利用されるためにあったなんて聞いたら、ボクなら悲しくなってしまいます。
レンさんを心配するボクだけど、案外余裕たっぷりに笑っていました。




