崩壊
ボクは思わずアスラに斬りかかろうとしたけど、それを止めたのはロガフィさんでした。ロガフィさんは隙を見せたボクに対し、黒く染まった勇者の剣で容赦なく襲い掛かってきました。
今度はボクも、負けていられません。その一撃を勇者の剣で受け止めて見せます。でもロガフィさんの一撃のあまりの重さに、こちらも本気を出さざるを得ませんでした。思いきり力を籠めると、ボクとロガフィさんの力がぶつかり合って大きな衝撃を生みます。
その衝撃のすさまじさといったら、先ほどまでのロガフィさんと魔王の戦いが、子供の喧嘩に見えてしまうくらいだと思います。
「ひゃぁ……!?」
本来であれば、レンさんは今の衝撃に飲み込まれて木っ端みじんです。でもそうならなかったのは、アスラが魔法でレンさんを守ってくれているおかげです。レンさんを包み込む優しい光が、レンさんを衝撃から守って防いでくれています。
先ほど言った通り、アスラは本当にレンさんを守ってくれていて、ボク達の戦いを無事に見守らせてくれています。
かといって、アスラに対しての評価が変わる訳ではありません。正気を失い、ボクに対して殺気を放つロガフィさんを前にして、彼女に対する怒りはボクの中でピークに達しています。
「アスラ!ボクは貴女を、絶対に赦さない!」
「私を赦さないと言いつつ、目の前のその子と戦うの?貴女は本当に自分勝手で、我儘な勇者ね」
「っ!」
力のせめぎ合いを諦めたロガフィさんが、剣を一旦引っ込めてすぐに2撃目を放ってきました。その剣もボクが受け止めたけど、同時にお城が大きく揺れ動きました。大きな瓦礫が天井から降って来たかと思うと、もう揺れは止まりません。
どうやらお城が、限界を迎えたみたいです。さすがにボク達が建造物の中で戦うのは、無理がありました。その前からボロボロだったせいで、すぐに崩壊が始まっちゃったよ。
「っ……!」
崩壊が始まるのと同時に、レンさんが駆けだしました。向かった先は、壁にぶつかって瓦礫に埋もれたままになっている魔王です。
「これだから、下界の建物って嫌なのよ。あまりにも脆すぎる。……仕方ないわね。勝負の邪魔になるから、少しだけ手伝ってあげる」
そう言いながら手を掲げるアスラだけど、その必要はない。それにはロガフィさんも賛成のようで、ボクと同時に剣を振りぬきました。
その瞬間、周囲は白と黒の光に包まれました。あまりにも強力すぎるボクとロガフィさんの本気の一撃は、崩れ始めたお城を吹っ飛ばしてしまいました。
「何が……」
気づけば、ボク達を囲っていたお城はなくなっています。壁や天井が全てなくなって、そこには崖に囲まれ広々とした土地があるだけです。この地と繋がっていた橋も吹っ飛んでしまったので、陸の孤島になっています。天井がなくなった事により、空も見えています。ただ、先ほどの魔王が放ったラストイェレーターによって晴れた空は、もう元の曇り空に戻っていてどんよりとしています。
魔王の傍に辿り着いていたレンさんが、そんな空を見上げて呆然としています。守ろうとしていた魔王も無事で、こちらも呆然としている。アスラの魔法がなかったら、当然だけどレンさんはその存在がなくなってしまっていたと思います。アスラに守られていない魔王も、レンさんが近くに寄ってくれなかったらたぶん姿かたちが消えていたと思う。彼はレンさんのおかげで、命拾いしました。
どうでもいいけど、ようやくロガフィさんの闇の炎が解けたみたいで、魔王を蝕む炎が消えています。良かったね。
「想像以上ね。それじゃあ続きをどうぞ」
アスラが茶化すように言ってくると、すぐにロガフィさんが襲い掛かってきます。素早く強烈な攻撃は、ボクに反撃の機会を与えてくれません。
「答えろ、アスラ……貴様がロガフィを変えたのか……」
「ん?」
ボクとロガフィさんが戦う一方で、魔王がアスラと会話をしています。
満身創痍な魔王だけど、傷を放っておいてでもアスラに対して聞きたい事があるみたいです。
先程の、ロガフィさんがお母さんを殺してしまったという話がボクも気になる。でも今は、ロガフィさんとの戦いに集中しなければいけません。下手をしたら、ボクはきっとロガフィさんに殺されてしまう。そうなったらもう、ロガフィさんを止める事の出来る人は、この世界に存在しません。
「はああぁぁぁ!」
ボクは絶対に、ロガフィさんを止めなければいけません。この世界の皆のためにも、ロガフィさんのためにも、自分のためにも……アスラなんかの思い通りにはさせません。
ボクは剣に力を籠めて、ロガフィさんの剣を弾き飛ばします。それから勇者の剣が光り輝き始めて、必殺技を放つ準備にとりかかりました。
ロガフィさんは先ほど魔王からのコレを受けているから、ボクが何をしようとしているのか分かっているはずだ。それとは威力が桁違いだと思うけど、今のロガフィさんならきっと即死はないと思う。そう思って、ボクは放ちます。
「──ラストイェレーター!」
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