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そんなのってないよ


 ボクの宣言に、アスラは何も言わずにニヤリと笑いました。絶対に何かをたくらんでいる、悪い顔です。


「そうね。魔王は負けた。でも何かを勘違いしているようだけど、それは魔王ではない」


 アスラは優雅に歩いて歩み寄って来て、瓦礫の山の上に立って止まりました。ボク達を見下ろす形になり、腕を組んで相変わらずニヤニヤと笑いかけてきます。


「な、何を言って……この人がロガフィさんのお兄さんで、魔王だよ!」

「違う。それは魔王じゃない。本物の魔王を追い出して、魔王になろうとしただけの哀れな生き物。この世界にとっての本物の魔王は、別にいる」

「……」


 本物の魔王とは、当然ロガフィさんの事だ。

 でも倒せと言われていたのは、アスラの力を授かったロガフィさんのお兄さんで、そちらはもう倒しました。彼は間違いなくアスラの力を授かってパワーアップしていたし、ロガフィさんも彼の事をお兄ちゃんと呼んでいた。だから、偽物でもなんでもなく本物のはずです。


「アスラ様。恐れながら申し上げますが、約束通り魔王は倒されました。ネモ様の言う通り、貴女との賭けにネモ様は勝ったのです」

「はぁ。だから違うと言っているでしょう。確かにそっちのも私の力を授かっているけど、本物はそっち。貴女も分かっているでしょう?力に囚われて本気を出した彼女の力は、この世界の常識を破っている。どうしてただの魔王が、そんな常識破れの力を得たと思うの?」

「っ……!」


 そこまで言われて、ようやく分かりました。ロガフィさんの力の源は、アスラから授かった力のおかげだったんだ。

 ボクはただ、素で強いのだと思っていたけどそうではなかった。でもロガフィさんには、聖なる力の痕跡を全く感じません。ロガフィさんのお兄さんからは、黒に交じって白色のオーラが混じって混在していたけど、ロガフィさんの力は完全なる闇です。


「ぐっ……おおおおぉぉぉ!め、女神、アスラ……我はまだ、戦える……!この化け物を倒すための力を、我に授けるのだ……!」


 ロガフィさんのお兄さんが、残る力を振り絞って肩に突き刺さったロガフィさんの闇の剣を、抜き取りました。剣を掴んだ手が闇の炎に燃えて、更に元々燃えていた個所も未だに彼を苦しめています。腕も切り落とされてしまったせいで、そこからは赤い血があふれ出ていて床を赤く染めている。

 目は血走り、涙や涎でぐちゃぐちゃで、そんな顔をしながら地面を這ってアスラにすがるように手を伸ばしています。


「そうね。確かにこの子は化け物よ。でもそれが、私があげた力のせいだとしたらどうする?」

「な、なにを……」

「この子が力を使いたがらないのは、その身に秘めた力を解放させないため。ひとたび解放させれば世界を滅ぼす力となって、そんな彼女を竜でも止める事はできない。予想外だったのは、この子の自我の強さかしら。自らのために力を解放する事は望まず、かといって他人が殺されても力を解放する事を拒んだ。それはある意味でこの子の弱さと言えるけど、でも本当は違う。力を解放したら、世界を滅ぼしてしまうと理解していたから拒んだのよ。痛くて怖くて苦しくて悔しくても、その力の解放を拒んだ。でも貴女と出会った事によって、彼女は自分の暴走を止めてくれる存在だと気づき、安心して徐々に力の解放を続けて行った……」

「……」


 黙って聞いているボクだけど、アスラの話を聞けば聞くほど、心は怒りで満ちていきます。

 ロガフィさんを苦しめていた己の力の正体は、アスラによってもたらされた物だった。その力が枷となり、ロガフィさんは戦うと言う選択肢を強制的に除外されて、苦しみの中を生きてきたんだ。

 当時、大切な人たちを魔王に殺されて、しかも自らが傷つけられながらも反撃をしなかったロガフィさんの気持ちが、ようやく分かりました。ただ単に、ロガフィさんが優しいからとかそういうだけじゃない。この世界を守るために、ロガフィさんは我慢していた。この世界のために、我慢するしかなかったんだ。


「ロガフィさん!」


 ボクはロガフィさんを抱きしめました。いてもたってもいられなくて、そうしたんです。

 全てはアスラのせいだった。ロガフィさんは、何も悪くない。力がなければ、お兄さんから化け物扱いされる事もなかった。本来なら化け物扱いされる事に、怒って喧嘩をしてその後仲直りができたかもしれない。その機会を奪ったのは、アスラだ。

 ロガフィさんはボクの抱擁に抵抗する素振りは見せないけど、正気が戻った様子はありません。未だに殺気を放ち、お兄さんを睨みつけています。


「……いつからだ。いつから、ロガフィに力を与えていた」


 魔王は、アスラに向けて伸ばした手を引っ込めて尋ねました。


「そうね。アレはいつだったかしら……。確か……まだその子が幼い頃。物心がつきたてくらいの頃に、彼女はお母さんに怒られていた。悪い事をしたら叱られるのは、子供だし仕方がないわ。その時力をあげたの。そしたらどうなったと思う?」

「──お前が……!お前がロガフィに母を殺させたのか!」


 魔王が怒りの表情を浮かべ、起き上がりました。身体は未だに燃えたままだけど、それを気にしない程に怒りが彼の感情を支配しています。

 ロガフィさんが、お母さんを殺した……?魔王の言葉にボクは困惑します。


「勘違いをしないでほしいわ。ただ純粋に、どうなるか興味があっただけ。まさか愛する母を殺してしまうなんて、思いもしなかった。そうしたのは彼女だから、貴方が彼女に向けた憎悪は正しい。愛しの母を殺した妹に対し、貴方は当然の行動に出たのよ」


 なんとなく、理解できました。アスラが授けた力のせいで、ロガフィさんのお母さんは死んでしまった。それをしたロガフィさんの事を、魔王はずっと恨んでいたからロガフィさんを敵視していたんだ。

 全部、アスラのせいだったんじゃないか。そんなのってないよ。


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