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チャーリー


 ボク達が、森の探索を始めてから、かなりの時間が経過している。でも、依然として手がかりは何も見つからず、それどころか生物にすら遭遇していない。

 空気が美味しいし、静かで、いい所じゃないか。怖い所だと聞いていたのに、拍子抜けする。


「止まれ!」


 そんな時だった。メイヤさんのその合図に、ボク達はその場で立ち止まる。メイヤさんがそう指示した理由は、すぐに分かった。

 ボク達の、進行方向の木に、ベッタリと血がついている。その血は、辺りにも飛び散っていて、その場で何かがあった事を、物語っている。


「まだ、新しい。何かが、近くにいるかもしれない」


 メイヤさんが、血のついた木に近づいて、冷静にそう分析。

 その直後、ボク達の進行方向の草むらが動いて、音を立てた。風は一切ないので、草むらを揺らすのは生き物しかいないはず。ボクも含めた、冒険者達に、緊張が走る。


「ね、ネモ!」


 イリスが怖がって、ボクの背後に身を隠した。イリスはそれで良いとして、ユウリちゃんとはお互い自然と身体を寄せ合って、襲撃に備える。


「た、助けてくれ……」


 備えたのはいいけど、草むらから姿を現したのは、人だった。彼も全身から血を流しているけど、木についた血は、多分この人の物ではない。こんな量の出血があったら、人は死んじゃうだろうから。

 その人は、地面を這い、助けを求めるようにして、メイヤさんに向かって手を伸ばしている。


「貴様、先行した冒険者だな。……Bランク冒険者か」


 メイヤさんは、すぐにその人の傍に駆けつけて、その人が付けていた、腕輪型の、キャロットファミリーのギルドエンブレムに手をかざし、そう確認。


「おい。何があった。死ぬ前に答えろ」


 その上、胸倉を掴みとって無理矢理引き起こし、その人にそう尋ねる。怪我人に接するには、あまりにも暴力的で、それを見た周りの冒険者達は、引いています。


「……襲われ、た……まだ、近くに……白い、狼が……!」

「……死んだか」


 そこまで言って、男の人は、息を引き取った。メイヤさんは、今度は死体となったその人を、丁寧に地面に横たわらせて、胸の上で手を組ませた。

 その際に、ギルドエンブレムを回収して、腰についたポーチに入れる。多分それが、認識票代わりなんだ。冒険者の身には、いつなにがおこるか分からない。この人のように、名前も名乗らずに死んでしまう事もある。そうなった時に、このエンブレムに入っている情報で、死んでしまった人の名前が分かるという訳だ。


「おい……コイツ、Bランク冒険者の、チャーリーだ……!」


 その死体を見た、同じ班の冒険者が声を上げた。

 ちなみにそのたった今死んだ人だけど、ステータス画面を開こうとしたけど、開けなかった。どうやら、死体には実行できないみたい。前に、ボクが殺した人は、殺す前からステータス画面を開いていたから、HPがゼロになる瞬間を見れた上に名前等のステータスも表示できていたんだけど、死体に関してはまた違うみたい。


「知り合いか?」

「いや、知り合いではない……でも、戦闘力だけで言ったら、かなりの手だれのはず。確か、Aランククエストにも、パーティを組んで参加した事があると、聞いた事がある」

「ほう。では、お前が受け取れ」


 メイヤさんは、死体から取り出した財布を、その情報をもたらした冒険者に投げつけた。


「い、いらない!オレには、受け取る資格はない!知り合いでも、なんでもないし!」


 受け取って、そう言い出す冒険者だけど、メイヤさんは無視。何の反応も見せない。続いて、武器をベルトから剥ぎ取ると、鞘に収まったままのそれを、ボクに向かって投げ捨ててきた。


「丁度良いから、持っておけ。大した武器ではないだろうが、丸腰よりはいいだろう」


 確かに、それはあまり良い武器ではない。長さは、ナイフよりは長くて、剣よりは短い。短剣というジャンルの武器かな。刃こぼれはなくて、刀身は輝くようにキレイ。手入れはちゃんとされているようで、持ち主の……チャーリーさんだっけ?が、大切に扱っていたんだなと、伝わってくる。

 でも、正直ボクに武器は必要ない。ボクが武器を扱うと、大抵すぐに壊れちゃうんだよね。伝説級の武器でも、それは同じ。勇者時代に使っていた武器はあるけど、それは天界からの贈り物で、当時のイリスティリア様が授けてくれた、ボク専用の武器だ。とにかく頑丈で、扱いやすかったな。ちなみに引きこもり時代に突入した際に、世界を移動する過程でどこかへ行ってしまった。気にもしていなかったけど、今思い出した。


「……じゃあ、ユウリちゃんが持っておいて」

「わ、私がですか?私、武器の扱いなんて分かりませんよ?」

「ボクは多分、素手の方がいいから。コレは、ユウリちゃんが持っておいて」

「……分かりました。では、私が預かっておきます」


 ボクが差し出した短剣を、ユウリちゃんは受け取り、腰のベルトに差した。


「しかし、白い狼とは、参ったものだ」


 メイヤさんは、そう言いながら、自分の刀に手を置いた。それはまるで、これから起きる事を予想しているかのようで、辺りを警戒しているみたい。


「……何か、あるんですか?」


 それを見て、不思議に思ったユウリちゃんが、尋ねずにはいられなかった。


「うむ。白い狼と聞いて思い浮かぶのは、我々冒険者にとって一つしかない」

「ま、まさか……シニスターウルフ……!?」


 冒険者の1人が、思い当たる物があったみたいで、その声を上げた。その名前を聞いて、冒険者達がざわつく。


「冗談じゃねぇ……!そんなの、Aランク級の危険モンスターだぞ!」

「こ、こんなパーティで、敵いっこない……!」

「可能性の話だ。だが、もしも本当にシニスターウルフだとすると、この男が生きていたのは、他の獲物を引き寄せるための罠だった可能性が高い。ヤツらは、よくそういう罠を張る。もし、これが罠だったとしても──」


 メイヤさんが話している途中で、突然白い影が、ボク達の目の前を通り過ぎた。


「へ?」


 直後、先ほどメイヤさんから財布を受け取った冒険者の首が、宙を舞っていた。その首は、まだ生きていて、声を出しているんだけど、すぐに別の白い影が襲いかかり、それを大きな口で噛み砕いて、一瞬で飲み込んでしまった。

 一方で、身体のほうは半分程が噛み千切られて、地面に腰から下が倒れ込み、辺りを血で染める。上半身はと言うと、その噛み砕いたヤツの、口の中。


「──なんら、不思議な事ではない」


 メイヤさんが、先ほど遮られた言葉の続きを言った。

 ボク達の目の前に、白い、狼のモンスター。シニスターウルフが姿を現したというのに、呑気なものです。


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