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気付いたら死んでいる


 ロガフィさんと魔王が戦いを繰り広げる一方で、ボクとレンさんは大きな瓦礫の巨人に囲まれています。魔王の命令を受けたドゥマは、ボクとレンさんに狙いを定めると、四方から一斉に襲い掛かってきました。

 大きな身体の割に、その動きは速いです。


「この私の守護領域に足を踏み入れた事を後悔するが良い」

「我は守護者」

「我は魔王様の僕」


 それぞれが何かを呟きながら、ボクに向かって拳を振り下ろしてきました。

 ボクはその拳に対し、拳で応えます。突き出した拳と巨人の拳がぶつかり合い、巨人の拳が呆気なく砕け散りました。更に破壊は連動していき、巨人の腕全体を砕き散らせました。


「後ろからも来ます!」


 ボクに教えてくれたレンさんの声に呼応して、振り返り際に勇者の剣を振りぬきました。ボクが繰り出した一撃は、巨人の拳も離れた場所にあった身体も、斬撃となって一瞬にして両断しました。


「ラオムスロウ!」


 更に両サイドから襲い掛かろうとしていた巨人に対し、レンさんが紙を投げ捨てて紋章魔法を発動させました。相手の動きを遅くする魔法です。

 でも相手が格上すぎるせいなのか、効果が実感できるほど巨人の動きは遅くなりません。


「そんな……!」


 自らの魔法が効かない事に、レンさんはショックを受けている様子です。でも、大丈夫。何の問題もありません。

 ボクは両サイドの巨人に対して、それぞれに斬撃を放ちました。それにより、両方の巨人は真っ二つになります。一瞬にして崩れ落ちて、ボク達に触れる事もできませんでした。

 残りは、あと1体です。


「人間とは思えぬ力。守護者たる我の力を上回る。コレは、集約しなければ無理そうだ」


 最後の1体が、ボクに襲い掛かる事はありませんでした。

 代わりにそう呟くと、ボクが倒した瓦礫の巨人たちが、その姿が元のただの瓦礫に戻しました。そこから外れたドゥマの顔が、最後の1体の下へと集結します。瓦礫の身体の中に、吸い込まれるように入って行った顔たちは、姿を消しました。

 全てを飲み込み終わると、最後の1体の身体が収縮し始めます。そして、少し大きな人くらいの大きさになると収縮が止まり、改めてその姿をボクの前に晒します。

 身体全体は茶色の瓦礫のままだけど、更に人に近い形となっています。まるで、石の彫刻のような姿です。それが動いているから、ちょっとしたホラーです。顔には先程同様に、ドゥマの顔が浮かび上がっています。こちらの顔も動いているから、見た目は凄く不気味です。


「へ、変身した……?」

「うん。さっきまではそれぞれが戦ってたけど、その力を一つに集約したみたい。感じる力も桁違いだよ」


 レベルの???表記自体は変わらないけど、感じる力は本当に桁違いです。もしかしたら、元々1つだった物を分散させていたのかもしれません。これが本来のドゥマの力であり、先ほどの巨人の姿は偽りの姿だったのかなと予想します。


「……久々の身体だ。加減が分からず、気づけば死んでいる事になるやもしれぬ。だが安心するが良い。それはつまり、苦しまずに死ねるという事。この町にのこのことやってきて、魔王様に逆らった者の末路にしては、あまりにも呆気のない死だ。むしろ感謝をして欲しい」


 ドゥマはそう言うと、一瞬にしてボクの背後に回り込みました。その手の形がいつの間にか剣のような形に変わっていて、それで斬りかかって来ようとしています。

 たったこれだけの事。たったこれだけのスピードで、気づいたら死んでいる事になるという事はあり得ません。

 自らを魔王に忠実な部下だと言い張っているし、あまり良い人じゃなさそうだからいいよね。彼には、気付いたら死んでいるという本当の意味を教えてあげる事にします。


「……」


 ボクが振りぬいた、勇者の剣。一瞬にして背後に回り込み、ボクの隙をついたと思っていたであろうドゥマの顔が、更に一瞬にしてなくなりました。ボクが振りぬいた剣の白い残像が空中に残っているけど、その光が消えた後にはそこにあった物が消え去っています。

 ドゥマの本体は、今ボクが斬り捨てた顔だ。斬った時に、確かな感触があってドゥマの命はそれによって消え去りました。

 本当に、気づく間もなかったと思う。ドゥマは一切、ボクの動きに付いてこれた気配がなかったから。


「……ネモ様」

「うん。もう、終わったよ。ドゥマは死んだ」

「……」


 レンさんも、勿論ボクの動きに付いてこれていません。ドゥマの動きも含め、何も見えていなかったと思う。気付いたら勝負は終わっていて、ドゥマの身体が崩れ落ちて塵と化していきます。

 あまりにも一瞬の事に、レンさんは呆然としています。ボクの力の事を知っているレンさんでも、今のはちょっといきなりすぎたかな。


「敵とは言え、死と言うのはどうしてこうも悲しいのでしょうか。も、勿論、仕方のない事だというのは重々承知しています。こうしなければ、ネモ様の身に危険が及んだでしょうし……でも……」


 レンさんはボクに強く抱き着きながら、ドゥマの死をも悲しんでいます。レンさんが優しい人だと言うのは知っていたけど、ちょっと刺激的な物を見せちゃったかな。殺すんじゃなくて、せめて追い返すとかにすればよかったかもしれません。そこはちょっと後悔です。


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