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真の勇者

誤字報告ありがとうございます!


 それにボクはアスラとの約束で、この魔王を倒さないといけない事になっている。望みを叶えるとか、無駄な争いを避けるとか言ってきて、ちょっとだけ良い人なのか思ったけどそうではない。

 この魔王はセレンの故郷を破壊し、精霊を殺したみたいだし、オマケにディンガランにも攻めてきた。何が、無駄な争いを避けたいだ。ズーカウが主導しておこしたあの出来事で、大勢が傷ついたり死んでしまった。そんな事をおこしておいて、今更そんな言葉が通用するはずがありません。


「……ロガフィさんは、化け物なんかじゃありません。優しくて、とてもいい子です」

「それは偽りの姿だ。奴の本性は、狂暴で、凶悪な、この世界を滅ぼす災厄だ。表面上そう見えるだけで、本性は竜をも超える力を持つ、世界の理に反する存在だ。それを殺すのは、兄としての義務である」

「偽りじゃない。ロガフィさんは、貴方に酷い目に合わされても尚、その力を発揮しようとはしなかった。自分の力を理解して、発揮する事を怖がり、怯えながら生きているロガフィさんが世界を滅ぼすはずがありません」

「制御できぬ力だからこそ、危険なのだ。アレは、排除しなければいけない」

「っ……!」


 まるで、ボクの言葉を受け入れようとはしてくれません。ロガフィさんが、この人の妹だというのが信じられないくらい、ロガフィさんに対する殺意に溢れています。


「それは、おかしな話です。貴方はジェノスさんとの約束で、ロガフィさんには手を出さないという約束をしているはずでは?その見返りに、ジェノスさんは穏健派の者達をまとめあげ、反抗勢力を抑えている。貴方の言葉からは、その約束の片鱗がうかがえません」

「……」


 レンさんが、魔王に向かって言い放ちました。魔王はレンさんに対して、怪訝そうな表情を見せます。


「この人間は?」

「我々に対し、協力を申し出た──」

「ボクの、仲間です」


 魔王の問いに、跪いたままのドルチェットが答えようとしたけど、ボクがそれを遮る形で言いました。それにレンさんも頷きます。


「ジェノスとの約は、確かにそうなっている。だが、それがどうした。我は魔王であり、絶対的な存在。約などいつでも反故にして構わんし、我の気分次第で内容も変えられる。ロガフィは、殺す。戦力が整ったら、我に逆らう勢力の者も殺す。コレは、決定事項だ」


 それは、ジェノスさんを騙しているに等しい。魔王だから、約束を反故にしていい?その理屈が、ボクには分かりません。

 一生懸命従いたくもない魔王に従い、働くジェノスさんの気持ちを、この人は全く理解できていない。その上騙されていた事をジェノスさんが知ったら、本当に可愛そうだ。

 ロガフィさんの行動は突飛な物だったけど、来て正解だったみたいです。だって、ジェノスさんを助けに来ても来なくても、ジェノスさんが真面目に魔王の下で働いていても、結局は魔王はロガフィさんの命を狙っている。いつかは絶対、戦闘になっていたと思う。


「……なるほど。とんだわがまま魔王ですね。約束は守るために存在する。それを、一から学びなおしていただく必要がありそうです」


 レンさんの声には、怒りが籠もっています。騙すだけ騙して、働かせる。非道なやり方を見せる魔王に、怒りを覚えるのは当然の事です。


「も、申し訳ございません、魔王様!この者達は即刻私が処分する故に、ご覧になっていてください!」


 ドルチェットが、いてもたってもいられないと言う様子で唐突に立ち上がりました。そして、その杖を手にして構えます。

 ボクは、手錠に力を入れて破壊すると、レンさんを抱き寄せて攻撃に備えました。ボクの事を、単に頑丈だとだけ思っていたドルチェットが、ボクの行動に驚きの表情を見せます。でも、攻撃の手を止めようとはしません。杖には魔力が籠められて、ボクとレンさんに対する攻撃が放たれようとしています。


「止めておけ、ドルチェット。貴様では、それに勝つ事はできん。それどころか、今この場で戦えばこの場にいる者達の命すら危うくなる」

「ですが、魔王様に対する無礼な態度を、これ以上許す訳にはいきません!」

「良い」

「何故ですか!?魔王様は、この者の正体に気づいているようですが、一体この者は、なんだと言うのですか……!」

「──勇者だ」


 魔王の言葉に、ドルチェットは絶句しました。また周囲の魔族達も、先ほどまでも静かではあったけど、更に静まり返りました。


「ゆ、勇者でしたら、愚かにも先日単身で乗り込もうとしたのを、撃退したと聞いております……!」

「アレのどこが、勇者だと言う。所詮は、人間に選ばれし力なき者だ。しかし、貴様が捕まえて連れて来たと言うソレは違う。真の勇者と呼ばれる存在であり、その力は計り知れない。その力の証拠に、先日、竜を殺したようではないか」


 その事も知っているんだね。ボクは、小さく頷いて答えました。

 それに対して、魔族達から一斉に、戸惑いの声が上がりました。竜を殺せる存在など、あり得ない。この世界で最強と呼ばれる存在だからこそ、信じられなくて、戸惑う。だけど、それを口にしたのは、彼らのトップである魔王だ。信じられないけど、信じるしかなくて、戸惑うしかないみたいです。


「竜を!?あり得ません、魔王様!竜は、この世界に存在する、最強にして頂点に立つ存在!それを、このような小娘が殺すなど、いくらなんでも誰も信じる事はできません!」

「事実だ」

「しかし……!」

「もう、黙れ。我の言葉が信じられんと言うなら、その口を閉じていろ。他の者もそうだ。我の言葉を信じられんと言う者がいれば、黙っていろ。殺されたくなければな」


 魔王の脅しに、魔族達は静まり返りました。そして静かに膝をつき、跪きます。大勢の魔族が、一斉に魔王に向かって跪くシーンは、圧巻でした。

 でも、そんな中でドルチェットは跪きませんでした。そして、キツイ目で、ボクを睨みつけています。目、ないけど。


読んでいただきありがとうございました!

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