今日でおしまいです
手枷に、足枷に加え、首輪が装着されました。首輪から垂れるプレートには、レンとかかれていて、まるで本当に、ペットか何かになってしまった気分です。まぁ、レンさんが興奮して喜んでくれたから、いいけどね。
ボクは、それら3つの拘束具を身に付けながら、床に座り、じっとその時を待ちます。今日が、昨日レンさんの言っていた、魔王が帰ってくる日です。というか、魔王はもう、このお城にいると思います。
朝早くに、普通ではない気配を感じました。その気配は、竜などの、ただ力の強い者から感じられる物ではなく、魔王の気配です。それが、ハッキリと魔王の気配だと分かるのは、その気配の異常さ故です。前の世界で出会った魔王と、似た気配であり、とても気持ち悪くて、支配欲に満ちた、まさに魔王の気配と呼ばれるのに、相応しい物だと思います。加えて、前の世界で感じた魔王の気配と、この世界の魔王は、同じような気配なので、それがハッキリと、魔王の気配だと理解できました。
経験って、大切だね。
ついに、ボクは魔王を倒すために、暴れる事ができます。そして、元気な皆と再会できる。楽しみすぎて、昨夜はあまり、眠れませんでした。
わくわくしながら待っていると、その時は訪れました。扉にかけられた、魔法の施錠が解除されると、姿を現わしたのはドルチェットです。その後ろには、レンさんも控えています。
「出るのである、頑丈な人間よ。貴様の処分が、魔王様によって下される。魔王様であれば、貴様の肉体を滅する事など、いともたやすい。死にたくなければ、失礼のないよう、礼儀正しくしているのだ」
ドルチェットの言葉に呼応し、レンさんが動いて、ボクの首輪に、手綱を着けて来ました。鎖でできた手綱は、少し動くたびに、じゃらじゃらと音をたててうるさいです。
でも、レンさん喜んでる……。目が、本気で笑っているから、たまに怖いです。
「寄越すのである」
「あっ……」
そのレンさんから、鎖を奪い取ったのは、ドルチェットです。レンさんから鎖を奪い取ると、代わりになって、手綱を引っ張って来ます。
それを見ていたボクは、その場から動きませんでした。レンさんになら、鎖を引かれるのはいいです。でも、ドルチェットに引かれるのは、嫌だ。その抗議で、ボクはじっとします。
「やはり、生意気な態度は治っていないようであるな……!ええい、動かぬか、この肉の塊がっ!奴隷風情が、リッチの王たる私に抵抗する事は許されんぞ!」
厳しい口調でドルチェットが言ってくるけど、なんの迫力もありません。レンさんなら、もっと冷たい目をして、冷たい声で、言い放つ事ができます。
残念ながら、ドルチェットには罵る才能がないようです。更に後ろに控えている骸骨たちも、ドルチェットの罵りが納得いかないのか、首を横に振って、ため息を吐いています。かなり、評価点は低そうです。
「動くのである、人間!さもなくば……!さもなくば……」
ドルチェットの魔法は、どれもボクにはききません。ドルチェットはそれが分かっているから、脅し文句が出て来なくて、口ごもってしまいました。
「──ドルチェット様。この者は、私のペットです。貴方が主導権を握ろうとした所で、貴方の命令は聞きません。私の命令しか聞かないように、言いつけてありますので、お諦めください」
「……人間が、人間風情の言う事はきいて、このリッチの王たる私の言う事はきかない。矛盾である」
ドルチェットは、不満げにしながらも、レンさんから奪い取ったその手綱を、レンさんに返しました。それを握ったレンさんは、早速強く鎖を引っ張って来て、ボクを引き寄せます。そして、優しく、まるで犬を撫でるように、頭を撫でて来ました。
「私以外の言う事を聞かなくて、良い子でしたね」
レンさんに褒められて、ボクは嬉しくなります。アメと、ムチ。レンさんは、巧みにそれを使い分け、ボクに接してくる。このまま、この関係が続いたら、いつかはレンさんに依存してしまいそうな、あんな危うさも感じるけど、この関係も今日でおしまいです。
「……行くのである。魔王様は既に、玉座に戻っている。お待たせする訳にはいかぬ」
やっぱり、魔王は既に、お城にいるんだね。
「ええ。行きますよ、ネモ」
レンさんがそう言うと、ボクの手綱を引っ張って、歩き出します。ボクはその後に、足かせに繋がれた鉄球を引き摺りながら、ついていきます。
ボクを引っ張るレンさんが、凄く嬉し楽しそう……。
その後に続いて、ドルチェットや、ドルチェットの部下の、骸骨たちもついてきます。ヘレネさんや、ジェノスさんの姿は、そこにはありません。
ボクはそのまま、薄暗い廊下の仲を歩かされて、久々に、この監獄の外へと出る事ができました。
監獄の外は、当然だけど、魔王のお城になります。ボクが閉じ込められていた監獄は、お城の中でも、たぶんかなり下層の場所に位置するはずです。何回も、階段を降りて来たからね。ここから更に、この薄暗い、窓もない石の廊下を歩いて、ようやく窓のある、廊下へと出て来ました。
広くなった廊下は、赤い絨毯が真ん中に敷かれていて、天井も高く、高価そうな作りです。その廊下を、ボクはレンさんに手綱を引かれるがままに、歩いて進んでいきます。
窓から外を覗くと、空が見えます。たぶん、昼間だとは思うんだけど、太陽は雲に遮られ、どんよりとしています。ここへ来た時の、真っ暗という程ではないけどね。コレが、この町の普通の景色なのかな。




