表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

429/492

今日でおしまいです


 手枷に、足枷に加え、首輪が装着されました。首輪から垂れるプレートには、レンとかかれていて、まるで本当に、ペットか何かになってしまった気分です。まぁ、レンさんが興奮して喜んでくれたから、いいけどね。

 ボクは、それら3つの拘束具を身に付けながら、床に座り、じっとその時を待ちます。今日が、昨日レンさんの言っていた、魔王が帰ってくる日です。というか、魔王はもう、このお城にいると思います。

 朝早くに、普通ではない気配を感じました。その気配は、竜などの、ただ力の強い者から感じられる物ではなく、魔王の気配です。それが、ハッキリと魔王の気配だと分かるのは、その気配の異常さ故です。前の世界で出会った魔王と、似た気配であり、とても気持ち悪くて、支配欲に満ちた、まさに魔王の気配と呼ばれるのに、相応しい物だと思います。加えて、前の世界で感じた魔王の気配と、この世界の魔王は、同じような気配なので、それがハッキリと、魔王の気配だと理解できました。

 経験って、大切だね。

 ついに、ボクは魔王を倒すために、暴れる事ができます。そして、元気な皆と再会できる。楽しみすぎて、昨夜はあまり、眠れませんでした。

 わくわくしながら待っていると、その時は訪れました。扉にかけられた、魔法の施錠が解除されると、姿を現わしたのはドルチェットです。その後ろには、レンさんも控えています。


「出るのである、頑丈な人間よ。貴様の処分が、魔王様によって下される。魔王様であれば、貴様の肉体を滅する事など、いともたやすい。死にたくなければ、失礼のないよう、礼儀正しくしているのだ」


 ドルチェットの言葉に呼応し、レンさんが動いて、ボクの首輪に、手綱を着けて来ました。鎖でできた手綱は、少し動くたびに、じゃらじゃらと音をたててうるさいです。

 でも、レンさん喜んでる……。目が、本気で笑っているから、たまに怖いです。


「寄越すのである」

「あっ……」


 そのレンさんから、鎖を奪い取ったのは、ドルチェットです。レンさんから鎖を奪い取ると、代わりになって、手綱を引っ張って来ます。

 それを見ていたボクは、その場から動きませんでした。レンさんになら、鎖を引かれるのはいいです。でも、ドルチェットに引かれるのは、嫌だ。その抗議で、ボクはじっとします。


「やはり、生意気な態度は治っていないようであるな……!ええい、動かぬか、この肉の塊がっ!奴隷風情が、リッチの王たる私に抵抗する事は許されんぞ!」


 厳しい口調でドルチェットが言ってくるけど、なんの迫力もありません。レンさんなら、もっと冷たい目をして、冷たい声で、言い放つ事ができます。

 残念ながら、ドルチェットには罵る才能がないようです。更に後ろに控えている骸骨たちも、ドルチェットの罵りが納得いかないのか、首を横に振って、ため息を吐いています。かなり、評価点は低そうです。


「動くのである、人間!さもなくば……!さもなくば……」


 ドルチェットの魔法は、どれもボクにはききません。ドルチェットはそれが分かっているから、脅し文句が出て来なくて、口ごもってしまいました。


「──ドルチェット様。この者は、私のペットです。貴方が主導権を握ろうとした所で、貴方の命令は聞きません。私の命令しか聞かないように、言いつけてありますので、お諦めください」

「……人間が、人間風情の言う事はきいて、このリッチの王たる私の言う事はきかない。矛盾である」


 ドルチェットは、不満げにしながらも、レンさんから奪い取ったその手綱を、レンさんに返しました。それを握ったレンさんは、早速強く鎖を引っ張って来て、ボクを引き寄せます。そして、優しく、まるで犬を撫でるように、頭を撫でて来ました。


「私以外の言う事を聞かなくて、良い子でしたね」


 レンさんに褒められて、ボクは嬉しくなります。アメと、ムチ。レンさんは、巧みにそれを使い分け、ボクに接してくる。このまま、この関係が続いたら、いつかはレンさんに依存してしまいそうな、あんな危うさも感じるけど、この関係も今日でおしまいです。


「……行くのである。魔王様は既に、玉座に戻っている。お待たせする訳にはいかぬ」


 やっぱり、魔王は既に、お城にいるんだね。


「ええ。行きますよ、ネモ」


 レンさんがそう言うと、ボクの手綱を引っ張って、歩き出します。ボクはその後に、足かせに繋がれた鉄球を引き摺りながら、ついていきます。

 ボクを引っ張るレンさんが、凄く嬉し楽しそう……。

 その後に続いて、ドルチェットや、ドルチェットの部下の、骸骨たちもついてきます。ヘレネさんや、ジェノスさんの姿は、そこにはありません。

 ボクはそのまま、薄暗い廊下の仲を歩かされて、久々に、この監獄の外へと出る事ができました。

 監獄の外は、当然だけど、魔王のお城になります。ボクが閉じ込められていた監獄は、お城の中でも、たぶんかなり下層の場所に位置するはずです。何回も、階段を降りて来たからね。ここから更に、この薄暗い、窓もない石の廊下を歩いて、ようやく窓のある、廊下へと出て来ました。

 広くなった廊下は、赤い絨毯が真ん中に敷かれていて、天井も高く、高価そうな作りです。その廊下を、ボクはレンさんに手綱を引かれるがままに、歩いて進んでいきます。

 窓から外を覗くと、空が見えます。たぶん、昼間だとは思うんだけど、太陽は雲に遮られ、どんよりとしています。ここへ来た時の、真っ暗という程ではないけどね。コレが、この町の普通の景色なのかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ