演技?
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最後にドルチェットは、気になる事を言い残していきました。ジェノスさんは、魔王を絶対に裏切れない。それには必ず、何か理由があるはずだ。
扉が閉められ、施錠もされると、そこでレンさんが、ボクの背中から降りて、立ち上がりました。
「ご、ごめんなさい、ネモ様……!このような扱いをして、本当に、ごめんなさい!」
そう言うと、レンさんは地面に頭を着ける勢いで、地面に手と膝をついて、ボクと目線を合わせて謝ってきました。
でも、その顔は興奮した様子でニヤけていて、反省しているようには思えません。レンさんは、ちょくちょくボクに対して、ペットにしたいだの、地下牢に閉じ込めたいだのと、口にする事がよくありました。普段は隠しているけど、割と女王様気質なのかもしれません。
先ほどの、ボクに対する態度も、かなり様になっていました。まるで、本物の女王様みたいだったよ。演技だと分かっていても、思わず従ってしまったくらい、迫力もありました。
「う、うん。大丈夫。分かってたから、だから気にしないで」
「は、はい……。でも、ネモ様の座り心地、最高でした……。また、座らせてくださいね。あと、お尻も……これからは、私が触りたいと思った時に、なでなでさせてください。いえ、むしろ、そうさせていただきますっ」
「……」
やっぱり、反省してないよね。むしろ、レンさんの中の何かが目覚めてしまった気がして、身の危険を感じます。
というか、ジェノスさんはともかく、他の魔族も一緒にいるこの状況で、素に戻って話すのは、マズいんじゃないかと思い、ボクは慌てて口を塞ぎました。もう、遅すぎるけどね。
「平気ですよ、ネモさん。この者達は、私の信頼のおける部下です。魔王に対し、よく思っていない者達なので、普段通りにしていただいて大丈夫です」
ボクの懸念を、ジェノスさんがそう言って説明してくれ、ボクは安心しました。
「じぇ、ジェノスさん。ごめんなさい。ボクは、ジェノスさんの気持ちも知らずに、思いきり睨んでしまって……」
「い、いいんですよ。突然あんな所をお見せして、すみません。驚きましたよね。ですが、イリスさんを始めとして、ロガフィ様は崖の下の構造も知っていますし、ユウリさんも、必ず生きています。なので、ご安心を。なんでしたら、私が死んでお詫びをしますので、謝らないでください」
死んで、お詫びを……久々に聞いたその台詞は、懐かしくて、ボクに安心感を与えてくれます。やっぱり、ジェノスさんはジェノスさんで、例え魔王の部下となっても、例え髪の毛が短くなっても、変わってなんかいませんでした。
「で、でも、アレはどういう事なの?イリスは確かに、ジェノスさんに斬られて、血も出てたよ……?」
アンリちゃんも、ジェノスさんも、イリスは無事だと言うけど、仕組みが分かりません。イリスは確かに、ボクの目には、斬られて血が出ているように見えて、アレではとてもではないけど、イリスが生きているとは思えない。そんな深い傷を負っていました。
「……この剣の、力です。魔剣、イリジブラッド。斬られていないのに、斬られたように見せかけたり、斬っているのに斬っていないように見せかけ、相手を混乱させる。中々、厄介な物でしょう?」
そうか。この剣から感じる魔力は、その効果を発揮しているからだったんだ。
アレが幻影だったのだとすれば、納得できます。イリスは斬られているように見えただけで、斬られていなかったんだね。良かったよ。本当に、良かった。
「イリスさんを追いかけて、ロガフィ様も落ちると、信じていました。ユウリさんまでは、予想外でしたが……しかし、少し荒かったかもしれませんが、あの場でドルチェットに、ロガフィ様に気づかれてしまったら、大騒ぎになっていたと思います。なので、どうかご理解を」
大騒ぎどころか、大大騒ぎだよ。そうなったら、ボク達は大勢の魔族に囲まれて、戦闘になっていたと思います。
あくまでボク達の目的は、魔王を倒すという事だ。それ以外の魔族との戦闘は、ロガフィさんも、望んではいないと思う。そんなロガフィさんの願いに添って、ロガフィさんを逃がしたジェノスさんの機転は、さすがです。ロガフィさんの事を、理解できている彼だからこそ、できた事だと思います。
「しかし、まんまと嵌められました。ドルチェットは、全身を隠していた私たちの正体に、始めから気づいていたようです。その上で、私たちを玩具にして、弄ぼうと……なんて、性格の悪い骨なんでしょう!」
「奴は、元々ダークエルフに対し、良くない感情を抱いていました。ついでに、ダークエルフの立場を更に悪くして、自らがダークエルフ達を弄ぶ事ができるように、話を持っていくつもりだったのでしょう。先に私たちに連絡を通し、兵を用意して受け入れの準備をしておくよう、連絡が入っていました。しかし、まさかとは思っていましたが……皆さんが来るとは、思っていませんでしたよ……」
そういうと、ジェノスさんはこのお城へと繋がる橋で見せたのと同じように、頭を抱えました。
「……ネモ様。ジェノスさんは、ロガフィさんに関与しない事と、ジェノスさん達が去った後、罪人として牢獄に捕らわれていた、ジェノスさんの元部下の方々の解放を条件に、魔王の配下に戻る事にしたようです。もし、次ジェノスさんが魔王を裏切ったら、解放された方々は、全員殺す。そう言われているので、魔王を裏切る事はできない……ジェノスさんの置かれている立場は、とても厳しい所にあります」
「そう、なんだ……」
ユウリちゃんの読みは、当たっていた。ジェノスさんは、その問題をどうにかしない限り、ボク達の仲間として活動はできません。
「私は、とりあえずはジェノスさんに情報を流し、ネモ様達を裏切った体でいて、情報を集めますね。また、先ほどのように、ネモ様にはビシバシいかせていただく事も、あるかもしれません。ですが、私はネモ様を愛しています。それだけは、どうか忘れないでください……」
「うん。分かってるよ。でも危なくなったら、すぐに逃げるか、ボクに助けを求めてね。絶対に守るし、ボクの事は好きにしていいから、だから自分の身の事を考えて。ヘレネさんの事も、よろしくね」
「はい!お任せください!ネモ様も、ヘレネさんも、私の物という事で、可愛がらせていただきます!」
「う、うん……?」
目を輝かせてそういうレンさんに、ボクは不安にさせられます。調子に乗って、人前でお尻を撫でたりとかは、できれば止めて欲しいな。服の上からならまだしも、あまつさえ下着の中に手を入れて来るとか、それはちょっとやり過ぎだよ。
「今後の展望ですが、ネモさんにはもうしばらく、我慢していただく事になると思われます……。ザルフィ様が帰って来たその時に、貴女はザルフィ様の前に差し出される。そうなってようやく、貴女の力を発揮していただき、ザルフィ様と戦う事になるでしょう。私は、その時までに、部下たちを守る方法を考えます。また、ダークエルフ達に関しても、害のないように手配してみますので、表立って行動はおこせませんが、わたしは貴女達の味方です。その時までどうか、お願いします」
「分かっています。ボクの方こそ、レンさんや、ヘレネさんを、どうかお願いします。ロガフィさんや、ユウリちゃん達が、きっとジェノスさんの手伝いになってくれるから……だから、もうちょっとの我慢です」
「うぅっ……!」
それを聞いて、ジェノスさんの瞳から、涙があふれ出ました。顔はくしゃくしゃになり、袖で拭いても吹いても、止まりません。
「わたしのために、すみませんっ……!わたしは、わたしが我慢すれば、それで良いと思っていたんです!でも、こんな私を見捨てずに、ロガフィ様や、ネモさん達まで駆け付けてくれて、わたしは、本当に幸せ者ですっ……!」
ジェノスさんのためというか、ロガフィさんがそうしたいと言うから、ボク達は付いて来ただけなんだけどね。加えて、今のボクにはアスラとの約束があり、どうしても魔王を倒さなければいけない事情もあります。
結果として、ジェノスさんを助けに来たように見えるかもしれないけど、ボク達にも色々事情があるんです。
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