苛烈な拷問
その部屋には、おぞましい道具が、たくさん置いてありました。壁のフックに下げられた、ノコギリや、ペンチにハンマー……それから、怪しげな薬が所狭しと並んだ、棚。他にも、用途不明な道具が、たくさんあります。加えて、様々な形の拘束具が並んでいて、それらには血の跡がついています。床にも、です。
薄暗く、冷たい空気のそこに、ボクが入ると、扉が閉じられ、施錠されてしまいました。
部屋の中には、既に骸骨達が5匹待機していて、その手にはノコギリなどが握られています。
「台に拘束するのだ」
ドルチェットの指示に、部屋の中心部にあった台の方へと、骸骨が鎖を引いて、ボクを連れて行きます。台の上には、手足を拘束できる、鉄の輪っかがついていて、それでボクを、そこに磔にするつもりだね。
ボクは、とりあえず拘束されるのは嫌なので、抵抗する事にしました。その場で足をとめて、一歩も動きません。
「カクカクカク!」
ボクを引いていた骸骨が、ボクに向かって怒って骨を鳴らし、鎖を強く引っ張ってくるけど、無視します。
「怖気づいたか、人間の娘よ……抵抗は、無駄である。貴様はここから、出る事ができない。おとなしく拷問されるのなら、少しは手心を加えてやる。抵抗するのなら、早速であるが、その身を破壊させてもらう事になるぞ」
「……」
ボクは別に、怖気づいた訳ではない。例え拘束されたとしても、抜け出すのは簡単だ。そもそも、この場にいる全員を倒すのも、簡単だからね。それでも、そうしないのは、ユウリちゃんからの指示で、おとなしくしているように言われたからだ。じゃなかったら、とっくに暴れて、皆死んでいます。
ドルチェットを睨み返したボクは、あくまでその場に留まります。
だって、変な事はされたくないからね。物理的な攻撃ならいいけど、例えば、敵に捕まった女騎士が、敵の兵士に捕まってやらしい事をされる……それと同じような展開は、ごめんこうむります。
「……ならば、仕方がないのである」
突然、渇いた音が、響き渡りました。振り返ると、骸骨が鞭を手に、床を叩いていました。鞭には、トゲがついています。ただ痛みを与えるだけではなく、肉をも裂くのを目的とした、最早武器に等しき物です。
ボクが見たのを確認し、骸骨がボクに向かい、鞭を放ってきました。鞭は、ボクの足に命中し、ニーソを破りました。更に、2度、3度と叩かれるけど、ボクは微動だにしません。でも、4度目の攻撃に、ボクは動きました。手錠で拘束された手で、お腹の辺りを狙ってきたそれを、掴み取ったのです。
だって、ニーソくらいならいいけど、服を破られるのは、嫌だからね。
「カク……!」
引っ張って、取り返そうとする骸骨だけど、ボクは離してあげません。
「怯むな。頑丈な人間だという事は、百も承知である。全員で取り囲み、台に乗せよ」
ドルチェットの指示に、四方から骸骨が襲い掛かって来て、ボクの身体を持ち上げようとしてきました。でも、ボクはその場に踏ん張り、骸骨の行動を阻害します。どさくさに紛れて、お尻や胸を触って来た骸骨には嫌悪感しかわかないし、思わず手が出そうになったけど、我慢です。
「も、もうよい!電撃を食らわせよ!」
全く微動だにしないボクに、ドルチェットが次の指示を出しました。ドルチェットの続いての指示に従い、骸骨が動くと、壁からとある道具を持ち出してきました。
それは、先端に青白く輝く宝石が嵌めこまれた、棒でした。それが、2本。取っ手の所が、線で繋がれています。両手にそれを持った骸骨が、その道具に魔力を籠めて、能力を発動させました。その瞬間、先端の宝石から、バチバチと音をたてて、小さな稲妻が走り出します。どうやら、電気を発生させる魔法具のようで、ボクをそれで、ビリビリさせるつもりのようです。
「カカカカ」
ボクに襲い掛かっていた骸骨が、ボクから一斉に離れました。それを確認してから、その道具を持っている骸骨が、笑いながら、ボクに向かって威嚇をするように、棒を振りかざしてきました。
従わないと、コレを食らわせるぞという、警告のようです。ボクは、先程から骸骨と引っ張り合いのままになっていた鞭を投げ捨て、無視します。
その様子にイラだった骸骨が、容赦なく、ボクにビリビリの棒の先端を、当てて来ました。
次の瞬間、身体に電気が走りました。文字通り、そのままです。電撃は、ボクの身体を包み込み、ボクの身体から稲妻が発生します。でも、特になんともありません。
「……」
ボクは、手を伸ばし、手近にいた骸骨に向かい、触れてみます。
「ガガカカカガガカカカ!」
すると、骸骨に電気が流れて、悲鳴?のような、骨を鳴らす音を響かせ、硬直しました。よく、漫画とかアニメで、電撃に打たれて骨が透過するシーンがあるけど、それみたいな光景です。
「電撃はもう良い!次は、火である」
続いて、八輪のような物に、ドルチェットが火を放つと、一瞬にしてそれが強力な熱となり、そこから鉄の棒が引きずり出されました。先端には、焼き鏝のような物がついて、熱によって真っ赤になっています。
それを、ボクに近づけてくる骸骨に対して、ボクは素手で掴み取り、握りつぶしました。こんなの近づけられたら、服が燃えちゃうよ。だから、その前に破壊したんです。
「……」
呆然とする、骸骨と、ドルチェット。
それからも、あの手この手でボクを台に乗せようとしてくるけど、ボクは一歩も動く事はありませんでした。どれも、痛くないし、なんともないからね。
「物理的な、攻撃にまで完全耐性があるのか……!?いや、むしろ、焼き鏝を素手で握り潰すなど、あり得るのか!?信じられん……こんな事が、あっても良いのか……」
手をつくしたという感じのドルチェットは、頭を抱えて、慄いています。他の骸骨たちも、同じです。ボクの事を、まるで化け物を見るような目で見て来ていて、失礼しちゃいます。
「……仕方があるまい。人間の弱点を、利用するとしよう」
「弱点……?」
「貴様と一緒に忍び込もうとした、他の者達。あの、亜人種の娘で良いだろう。貴様がおとなしく台に繋がれないと言うのなら、あの娘の両目を潰す。それでもおとなしくしないのなら、手足を切り落とそう。それから、天井から鎖で釣り下ろして、サンドバッグにしてやるのである」
「っ……!」
亜人種とは、ディゼの事だ。ドルチェットは、ボクに言う事をきかせるために、ディゼを人質に取る事にしたみたいです。さすがに、ディゼがそんな目に遭うのを、黙っては見ていられない。おとなしく従えば、ディゼが無事にいられるのなら、言う事をきくしか、道はありません。
ボクは、悔しくて歯を食いしばり、ドルチェットを睨みました。




