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孤独


 どうやらボクは、我慢できそうにありません。イリスを斬ったジェノスさんを、許す事が出来なそうです。思いきりジェノスさんを睨みつけると、ジェノスさんはボクを、真っすぐに見返してきました。


「──ネモ様」


 ボクの名前を、レンさんが呼びました。

 レンさんも、怒っているはずだ。目の前で、イリスを斬り捨てたジェノスさんに対し、ボクが何をしたって、文句は言わないはずです。


「どうやら、作戦は失敗のようです……イリスさんや、ユウリさんは残念ですが、諦めましょう……」

「え……?」


 全てを諦めたように言ったレンさんに、ボクは驚きを隠せません。

 だって、レンさんが、イリスやユウリちゃんを、諦めろと言って来たんだよ。そんなの、信じられないよ。そう、信じられないんだ。

 ボクは、拘束されて、地面に寝そべらされているディゼの方を見ます。


「……」


 ディゼは、抵抗する様子がない。そして、ボクを見ていました。

 何か、違和感を感じる。イリスは斬られ、その上で崖に捨てられ、ユウリちゃんとロガフィさんもそれを追いかけて、落ちて行ってしまった。本来なら、皆で怒って、この場で暴れるはずだ。それが何故、そうならないのか……。


「では、この者達は貰うぞ」

「好きにしろ。地下の拷問室を、自由に使え」

「ありがたく、そうさせていただく」


 骸骨達は、ドルチェットの指示を受け、皆の手錠を鎖でゾンビの馬と繋ぎ、引っ張って連れて行きます。ボクもそれに続いて連れていかれるけど、足に繋がれた鉄球はそのままで、ボクだけ扱いが酷い気がするよ。でも、問題ないけどね。

 今はそれより、ユウリちゃん達だ。歩かされる橋の上から、崖の下を覗こうとするけど、下までは視る事ができません。そんな深い谷の底に、ユウリちゃん達は落ちてしまった。イリスなんて、斬られた上で、まるでゴミを捨てるかのような扱いで、落ちて行ってしまった。

 その光景を思い出し、ボクは振り返り、ジェノスさんを睨みつけました。ジェノスさんの元には、レンさんと、ヘレネさんが残されている。レンさんは、心配げにこちらを見ていたけど、ジェノスさんはこちらに目を向ける様子もありません。

 ジェノスさんは、分かっているのかな。イリスを斬って、その上ユウリちゃんと、ジェノスさんを助けに来た、ロガフィさんまで、この暗い崖の底に、落ちてしまったんだよ。


「……」


 今すぐにでも、暴れたい。暴れて、ジェノスさんを、殴り飛ばしたい。

 そんな衝動に駆られるけど、レンさんがそれを阻止した。それには、絶対に何か、理由がある。確信を持って言えるけど、ディゼも何かを、知っている。だから暴れなかったし、ボクに何かを、目で訴えかけていた。

 今は、我慢だ。ボクは、自分にそう言い聞かせます。




 ボク達は、別々の部屋に閉じ込められました。天井が異様に高く、それに比例しない狭さの部屋です。床には穴の開いた、トイレらしき物があるけど、酷い臭いがそこから入ってきます。身体を休めるためのベッドも、何もありません。重厚な鉄の扉には、魔法によって施錠が施され、外の様子を覗く事もできない。オマケに、手錠と足かせもつけられたままで、一切の自由がありません。

 ボクは、平気だ。いつでも逃げられるし、拷問だって怖くはない。でも、ディゼやぎゅーちゃんに、カーヤさんとラシィさんは、違う。彼女たちが拷問を受けたら、傷つくし、痕だって残ってしまう。


「イリス……」


 特に、ジェノスさんに斬られた、イリスの事が心配だ。ロガフィさんの事だから、落下に関しては、きっと2人を守ってくれる。だけど、イリスは斬られて、大怪我を負ってしまっているんだ。落下の衝撃をなんとかできたとしても、怪我が酷かったらと思うと、ボクは背筋が凍り付く思いです。

 ボクは、皆が心配でたまらなくて、壁を背に座って、うずくまります。暴れようとしたのは、レンさんに止められたし、事情を知っていそうなディゼ達とは別々に閉じ込められて、事情を聞く事ができません。

 本当に、ボクはどうすればいいのか……教えてくれる人は、いません。


「ぶわあぁ!」

「ひゃわああぁぁぁ!」


 そう思っていたら、唐突に、ボクの目の前に現れた人物がいました。ボクの目のまえに、逆さまになって現れたその人物は、アンリちゃんでした。

 いつも通り、ボクを驚かす体で現れて、ボクはまんまと驚き、甲高い声を上げてしまいます。


「どうやら、上手く侵入できたみたいだね。ご無事で何よりだよっ!」


 ニカっと笑って言ってくるアンリちゃんだけど、ボクは笑う気分にはなれません。アンリちゃんは、途中で離脱したから知らないかもしれないけど、イリスとユウリちゃんとロガフィさんが、崖から落ちて大変な事になってしまったんだ。しかも、イリスはジェノさんの斬られてしまったし、加えて、ボク達が変装していたのは、とっくにバレていて、全員捕まってしまった。

 とてもじゃないけど、上手く侵入できたとは言えないような状況です。


「ありゃ……」


 ボクは、再びうずくまり、顔を隠しました。

 皆が心配すぎて、アンリちゃんに構ってあげられる心の余裕がありません。


「……平気だよ、ネモさん。皆、生きてる」

「……」


 だから、構ってあげられる余裕は……と思って、一瞬無視しそうになったけど、よく考えなおすと、今アンリちゃんが何と言ったのか、それが気になり、顔をあげます。

 すると、アンリちゃんは目の前で、四つん這いになり、ボクと視線を合わせて、笑顔でそこにいました。


「もう一回、言って……」

「皆、生きてる。だから、元気出して」


 皆が、生きている。皆とは、イリスも含まれているに、違いない。ボクは、アンリちゃんからもたらされた情報に、希望が湧いてきました。


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