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デカ


 無機物となったボクを乗せた馬車は、ガタガタと揺れながら、どこかへ向かって走っています。その間に、メイヤさんが注意事項等を話しているけど、ボクの耳には届かない。だってボク、無機物ですから。


「お姉さま。そろそろ、イリスを離してあげましょう。イリスの顔色が悪くなってきています。死んでしまいそうです」


 隣に座っているユウリちゃんにそう促されて、ボクは渋々、イリスを手放した。フラフラとした様子のイリスは、ユウリちゃんとボクの間に割って入り、ユウリちゃんの膝の上に倒れこんだ。

 イリスのおかげで、一応は大分落ち着いてきている。突然のイベントに、ちょっとしたパニックを起こしてしまい、反省です。


「大丈夫ですか、イリス……?」


 倒れこんできたイリスの頭を、ユウリちゃんが優しく撫でて介抱してあげて、心地良さそう。


「し、死ぬかと思いました……」


 念のため、ステータス画面を開いてイリスのHPを確認してみると、30もあるから大丈夫。大袈裟な事を言うイリスに、ボクは内心笑った。


「い、いいな……可愛いな、イリス……私の、膝の上に来ないか!?」


 メイヤさんは、ユウリちゃんの膝の上で寛ぐイリスを見て、自分の膝を払った。それから、手を広げて、ボク達と対面している座席で構えるけど、イリスはそんなメイヤさんに目も向けない。

 たぶん、メイヤさんが変態だから避けているんだろうけど、心の中でイリスに言っておくよ。ユウリちゃんも、変態だ。イリスは知らないだろうけど、イリスは寝ぼけている間に、ユウリちゃんに色々な事をされている。それこそ、何かの条例に引っかかりそうな事を。でも、ボクは何も言うまい。知らないほうが良い事だって、この世界にはあるのだから。


「つきました。禁断の森の、入り口です」


 そこからしばらく時間が経過して、イリスのHPが満タンに差し掛かった頃、馬車が止まり、運転手さんがそう声をかけてきた。

 イリスは、すっかりリラックスモードで、出されたお水をちびちびと飲んで復活している。ユウリちゃんは、馬車に揺られながら少しだけ居眠りしていて、可愛かったです。


「うむ。今降りる」


 メイヤさんは報告を受けると、すぐに扉を開き、先に馬車を飛び降りて、下で手を広げて降りるように促してくる。ユウリちゃんは、迷わずに飛び降りて、メイヤさんに身体をキャッチされて、喜んでいる。次は、イリスだけど……凄く嫌そうな顔をして、ボクに擦り寄って来る。仕方ないので、ボクはイリスの身体を抱いて、反対側の扉を開いて飛び降りた。ボクも、メイヤさんにキャッチされるのが嫌だったので、ついでだ。

 馬車から降りたボク達の目の前に広がっていたのは、ビルのように高く太い木々。こんな近くから見ても分からないけど、コレがとんでもなく遠くまで続いている。


「デカ!見て、ネモ!デカ!」


 そんな木を見上げ、はしゃいだ様子のイリスがそう言った。


「お姉さま。凄いですね。十階建てのビルくらいあるでしょうか」

「うん。あるかも」


 ユウリちゃんも、その木の高さに圧倒されている。木のてっぺんに登ると、更に凄い景色が広がっているんだよ。是非とも、見せてあげたい。


「すぅー……皆、集まっているな!」


 メイヤさんが、森の入り口に集合していた冒険者達に向かって、声を張り上げた。

 大きな、大きな声だ。でも、Gランクマスターのような、嫌な声じゃない。聞きやすくて、とても澄んで響く、キレイな声だ。


「禁断の森になれている者もいるだろうが、今回の目的はあくまで、貴族であるヘンケル氏のご長女、レンファエル様の探索にある!戦闘は極力避けて、探索に力を注げ!キャンプ地は、ここ!問題が起きた場合の集合場所も、この場所とする!日没までを期限とし、探索に励んでくれ!以上!」


 メイヤさんのそんな声を聞き、馬車から降りた冒険者達の中には、早速森の中へと入っていく人がいる。もしも、見つければ100万G。それを狙って、競争するように駆けて行く冒険者は、皆高レベルの冒険者だ。一方で、低レベルの人達は、班別に分かれて整列し、メイヤさんと同じような、和風の鎧姿の人が、それぞれの班の先頭に立っている。鎧姿の人は、ギルドの人なのかな。どうやら彼らは、徒党を組んでいくみたい。高レベルの冒険者は自由に行動して、低レベルの冒険者は、ギルドの人が先頭にたって徒党を組んで行動。実に合理的なんじゃないかと思います。


「私と、お前達は同じ班だ。絶対に、何があっても私から離れないようにしろ。辺りに異変があれば、すぐに私に知らせるのだ。勝手な行動はとるなよ」

「はい!」


 ユウリちゃんは、元気に返事をして、ボクは頷いて応えた。


「メイヤ様。準備できてます。号令があれば、すぐに出発可能です」

「分かった」


 報告をしにきた、鎧姿のお兄さん。

 メイヤさんはそう答えると、颯爽と歩き出し、ボク達は慌ててその後に続く。森へと続く道の途中で、ボク達メイヤさんの班に、他の冒険者も10名ほど加わる事になり、帰りたくなりました。

 メイヤさんとならともかく、他にこんなにたくさんの人とも一緒に行動しないといけないとか、どんな罰ゲーム?聞いてないです。こんな事なら、ボク達3人は別行動すると言えば良かったけど、今更そんな事言い出せない。仕方ないので、グッと気持ちを堪える。ボクは、我慢できる子です。


「出発だ!それぞれの班から一定間隔を開け、警戒しながら進むぞ!」


 メイヤさんの指示に、ギルドの人達はてきぱきと支持を飛ばし、森の入り口へと入ってく。ついに、森の中へと踏み込む時が来た。

 緊張した面持ちの冒険者達のせいで、こちらまで緊張してしまう。けど、確かに森の中は薄暗く、不気味で、オバケが出そうで、緊張してしまう理由もよく分かる。


「行くぞ!遅れるなよ!」


 そんなボク達の様子を察してか、メイヤさんはそう声を掛けてから、森の中へ足を踏み入れた。それに続いて、冒険者達も次々と足を踏み入れていく。


「お姉さま」

「ん」

「……うん。行こう」


 ボクは、隣にいるユウリちゃんと、ついでにイリスと手を繋いで、メイヤさんの後を追って、森の中へと足を踏み入れた。


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