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下手な芝居


 それからまたしばらくして、馬車が止まりました。例によって穴から外を覗くと、そこはお城へと繋がる、橋の前でした。大きな橋の先に、闇夜にうっすらと浮かぶ、大きく巨大な、黒いお城がそびえたっていて、ボク達を待ち構えるようにしてそこにあります。

 間違いない……。このお城は、魔王城だ。魔王は、どこの世界も、黒いお城に住んでいる。お城から溢れ出る不気味な気配は、自らの存在を主張しているかのようにすら見えます。

 魔王城の周りは、高い崖となっています。崖の中の岩に、寄生するように建てられたそのお城へは、橋を渡るか、空を飛んでいくかの、選択を迫られます。


「ほう。軍に復帰したと聞いてはいたが、噂は本当であったか……」


 その橋の入り口に立つ人物を見て、馬から降りると、ドルチェットが呟きました。

 馬車の中からは見えないけど、その相手は、ずっしりと重厚な鎧を見にまとい、大きな人だという事が分かります。


「……戯言はいい。何の用だ、ドルチェット」


 その声に、ボクは聞き覚えがありました。皆も聞き覚えがあるみたいで、ピクリと反応しました。特に、ロガフィさんが大きく反応します。寝ているイリスを丁寧に膝の上からどかし、立ち上がろうとするけど、その行動を、ユウリちゃんが押さえました。


「ふ……まぁいいだろう。実は、魔王様に是非、みていただきたい人間を連れて来たのである。ダークエルフの里に迷い込んだのを、ダークエルフが捕らえた。我も色々と試してみたが、非常に頑丈で、私の魔法すらきかない、不気味な人間だ」

「貴様程の実力者の魔法が、効かない?そんな人間が、いてたまるものか」

「褒めていただくのは結構だが、コレは由々しき事態である。もしやこの者は、聖なる力を持つ、勇者と呼ばれる存在かもしれんのだからな……」

「勇者、だと?そんな物がいて、たまるものか。……見せてみろ」

「良いだろう」


 ドルチェットが、杖で馬車を叩きました。それに呼応して、外にいた骸骨が、馬車の扉を開きます。同時に、ボクを閉じ込めている檻の鍵も、開かれました。そして、骸骨が手錠に繋がった鎖を引いて、ボクを馬車の外へと引き摺りだしてきます。


「あ……」


 外に出たボクの目の前にいたのは、ドルチェットです。そのドルチェットと対峙していた人物が、目に入りました。

 でも、知らない人でした。髪の毛を逆立たせた、凛々しい顔つきの男の人です。2本の、ヤギを思わせるような立派な角を、頭から生やしています。髪色は黒く、体格は大きいし、目つきも声も似ている気がしたので、もしかしたらジェノスさんがいるのかと期待したけど、違いました。


「ネッ──……!う、ううん」


 でも、相手の方は、ボクの顔を見て、何かを言おうとしてやめて、咳ばらいをして誤魔化しました。

 その仕草を見て、ボクはジェノスさんを思い出しました。髪の長さとか、全然違うから別人なんだけど、何故か被ります。体格とか、声とか、まんまジェノスさんだからね。それに今、ネッて言ったよね。ボクの名前を呼ぼうとしたのではないかと、推測ができます。

 それで、更に彼の顔をよく見て、ようやく気付きました。そこにいたのは、間違いなくジェノスさんです。髪が短くなったのは切ったからで、それで別人のように見えてしまっただけのようです。


「はっ。ジェ──!」


 ジェノスさんの名前を呼ぼうとした時でした。ボクの顔に、ジェノスさんの拳がぶつかっていました。手加減のない、かなり強い一撃です。ボクの手錠を引いていた骸骨が、驚いて、思わず転んでしまうような一撃でした。

 でも、ボクは特に何事もなかったかのように、その場に立ち尽くしています。拳越しに、ジェノスさんを見ると、密かに唇の前で人差し指をたてて、何も言わないようにというジェスチャーをしています。

 ボクはそれを見て、ハッとしました。ここでジェノスさんの名前を呼んだら、ボクとジェノスさんの関係性を、ドルチェットに疑われてしまいます。ここでそうなるのは、自分たちにとって、たぶん不利益になってしまいます。ヘレネさんの作戦的に、魔王と遭遇するまでは、そういう事態は避けるべきだよね。


「わ、わー……イタイヨー。涙が、デチャウナー。血は……出てないけど、イタイヨー」


 だからボクは、ジェノスさんに殴られて、痛がるフリをする事にしました。その場にうずくまり、顔を抑えて、泣きわめきます。


「わ、わたしの攻撃は、効くようだな」

「……何をしている。下手な芝居をして、今更柔いフリをしたところで、無駄である。立て、化け物め」


 ドルチェットが、芝居をするボクのお尻を、杖で軽くたたいてきました。どうやら、痛がっているのが芝居だと、バレているみたいです。迫真の演技だったのに、どうして……。


「……」


 仕方がないので、ボクは演技をやめて、言われた通りに立ち上がります。ジェノスさんと目があったら、ジェノスさんの名前を呼んでしまいそうなので、なるべく合わせないでおきます。


「た、確かに、わたしの攻撃が、全く効いていないようだ。異常だな」

「だから、連れて来たのだ」

「……この人間は、ダークエルフの里で捕らえたのか?」

「その通りだ。何故、どうやって、その地にやってきたのかは、分からん。まぁそれは、これからじっくりと、吐かせるつもりであるが」

「捕らえたのは、一匹だけか」

「そうだ。ダークエルフによると、単独でやってきたらしい。場所が場所であるから、大人数で訪れるのは不可能であろうから、恐らくその通りだと私も思う」


 ジェノスさんは、ドルチェットと会話をしながらも、馬車の中を気にした様子です。その先には、扉が開かれて、ユウリちゃんに押さえられてイスに座っている、ロガフィさんがいます。ロガフィさんは、現在全身を隠した状態にあるけど、ジェノスさんならきっと、気づいたはずです。

 ロガフィさんは、ジェノスさんを助けるために、このお城へやってきたんだよ。


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