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全てが終わったら


 黒い、巨大な門の向こうは、魔界の都市……。つまり、これからボク達は、敵の総本山へと乗り込むことになります。

 セレンの力によって、ショートカットをしてからは、長いようで、あっという間でした。それもこれも、セレンや、ヘレネさん。旅先で出会った人たちの、おかげです。

 本当は、ちょっと緊張してきて、ユウリちゃんと手を握って励ましてもらいたい所だけど、ボクは今、牢屋に閉じ込められ、皆とは隔離された状態です。それは、叶いません。

 そんなボクの気持ちを無視して、馬車は進みます。門の中へと、ガタガタと揺られながら、ゆっくりと進み、ボクが乗せられている馬車や、他のリッチ達が入ってから、再びゆっくりと閉じられて行きます。


「へい、らっしゃい、ドルチェットの旦那!良い魔法具が入荷してやすぜ!」

「ドルチェット様ー!また、素敵なそのお骨を、磨かせてくださいな。もちろん、配下の方々もご一緒に、ね」


 魔界の都市は、魔族達の住む、総本山で、闇に囚われた残虐な魔族の住む場所のはずです。

 ところが、どうだろう。ボクの目の前に広がった、門の中の光景は、イメージとはかけ離れています。

 周囲には、まだ夜だと言うのに、灯りのついたお店が立ち並び、大勢の人々で賑わっています。石でできた建物は、ディンガランなどとは違い、独特な作りです。一番目立つのは、四角の上に、もう一つ小さな四角が乗って、その上にとんがった帽子の形の物が乗っている感じの作りの物です。他にも、それをアレンジして、一番上の帽子が2つあったり、四角が2つ乗っかってたりと、基本的な作りはそんな感じだけど、それぞれで個性があります。


「また今度、伺わせてもらうのである」


 ゾンビの馬に乗るドルチェットは、大人気でした。

 周囲の、頭に角の生えた、青い肌の魔族達から、熱烈な声を掛けられています。大体、お店に誘う声だから、ただの商売かもしれないけど、だけど皆がドルチェットの名前を知っていて、集まってくる姿は、まるで人気者の芸能人だよ。

 それにしても、本当に凄い賑わいです。

 皆活気に満ちていて、地面はしっかりと石畳に舗装されているので、馬車が大きく揺れる事もありません。人間と、なんら変わらない、平和な風景が、そこには広がっていました。


「……」


 小さな穴から見える、そんな風景は、ボクの価値観を、少しだけ変えてくれた気がします。

 結局、人間だからとか、魔族だからとか、そんなの関係ないんだ。皆、それぞれ、自分たちの生活のために生きているだけで、そんな生活の中では、人も、魔族も関係ない。同じように、平和な時間を、楽しんでいるだけなんです。


「んぁ!ドルチェットの旦那、そいつはまさか、人間ですか……!?」


 ドルチェットを、自分の武器屋に誘おうとした魔族の男が、穴から外を覗いているボクに気がついて、ドルチェットに尋ねました。

 慌てて引っ込んだけど、もう遅かったです。


「む。何故……穴が開いているではないか!さては貴様、あの頭突きで穴を開けたのであるな!?」


 ドルチェットが、馬車の中に人間がいる事に気づかれたのを不思議になって見て来たのか、気づかれてしまいました。

 馬車の中で、丸くなるボクに向かい、外でドルチェットが怒鳴ってきています。でも、ボクはその穴から顔を出す事はありません。関係ないのを装って、隠れます。


「くっ……この、我の魔力で保護された馬車に風穴を開けるとは……!」

「修理なら、うちにお任せください。しっかりと、元通りにしてやりますよ」

「検討しておく……!たく、この馬車の修理に、一体いくらかかると思っているのだ……!」


 小声で、ドルチェットがけち臭い事を言っているのが、穴のすぐ外から聞こえて来ました。


「やはり一度、拷問させてもらう必要がある……」

「え?」


 ドルチェットが、不気味にそう囁くと、馬車が再び進みだします。

 気になる事を言われて、ボクは不安になってきました。拷問って、なんだろう。痛いのとか、恥ずかしいのとか……いや、ボクは元男だよ。そんな事、絶対にダメです。それに、この身体はユウリちゃんの物であり、他の人に色々と奪わせる訳にはいかないよ。

 それからまたしばらく、馬車は進みます。辺りの活気な様子は、道を進むにつれて、収まっていきました。やがて、夜らしく、静かな道へと辿り着きます。周囲の家々は、暗く、窓を閉ざされて、人通りもまばらです。門から入ったばかりの騒ぎが、嘘のようだ。


「この周辺は、繁華街とは違い、夜は騒ぎが禁止されているんだ。魔族の中には、夜が活発な者達も多いので、あちらはあちら。こちらはこちらで、生活のリズムが別れている。昼になったら、今度は逆に、あちらが静かになる、といった具合だ」


 窓の外から、不思議にそう見ているボク達に、カーヤさんが説明をしてくれました。


「こちらも、お昼になったら、凄く活気あふれる姿に変わるのよ。見せてあげたいけど……」

「ヘレネ様。それは、全てが終わってからのお楽しみにしておきましょう」


 言葉を詰まらせたヘレネさんの手を、ラシィさんが握って、励ましました。全てが終わったら……それは、魔王を倒して、ロガフィさんが魔王になってから、という事だね。


「ええ、その通りね」

「そ、その時は、ヘレネさんと手を繋いで、ご案内をお願いできますか?きっと疲れてしまうので、途中でホテルに入って休憩をはさんだりとか、いかがでしょう」

「ほ、ホテル?別に、構わないけれど……」


 ヘレネさんは、その意味が全く分かっていません。ユウリちゃんが言っているのは、ホテルでやらしい事をしようと言う誘いです。ボクは意味が分かっているので、鉄格子を掴んで頬を膨らませ、ユウリちゃんを睨みつけます。

 見張りの骸骨が変な目で見てくるけど、構いません。


「な、なんて、冗談ですよ。普通に、皆で楽しみましょうね!」


 ユウリちゃんが、ボクに気づいて、慌てて言いなおしました。まったく、ユウリちゃんは油断も隙もあったもんじゃないよ。


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