配送代
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ドルチェットは、イリスを睨みつけると、イスから立ち上がり、イリスに歩み寄りました。そして、目の前に立ち、イリスを見下ろします。
ヘレネさんには、目立たないようにと念を押されていたのに、コレだよ……。
「手柄を、奪う?この私が、貴様たち小汚い、ダークエルフから?」
「貴方のしようとしている事は、そう取られても仕方がないのでは?だって、そうでしょう。手柄の証拠である、この人間だけを連れて行こうとするだなんて、正に泥棒と同じですよ」
「この私を、コソ泥扱いするのか……!?」
相手を怒らせるような言い回ししかできない、イリスの悪い癖が出ました。目の前にいるのは、とても強大な力を持つ、リッチだ。それに対して臆さないのは凄い事だと思うけど、少しは作戦の事を、考えて欲しいです。
ここでイリスが、ダークエルフじゃないという事がバレたら、ボク達はこの骸骨たちと、戦う事になっちゃうんだからね。そうなったら、魔王の下に、なんの苦労もなく送り届けてもらうどころか、ロガフィさんの望まない戦いが、この場でおきてしまう。
「……ドルチェット様。この者の言う事は、正しいです。もしここで、貴方がこの人間だけを連れて行くと言うのであれば、私はそれを、お断りしなければいけません。貴方の協力などなくとも、私たちだけで送り届ける事は、可能です。ただ、他の魔族達の妨害等がなければ、ですけどね。もし、強硬派から嫌われている私たちに対し、妨害等があるようであれば、この人間は私たちの手には負えません。妨害してきた魔族達のせいで、この者を取り逃がしてしまうかもしれませんね。私はその事を、魔王様に事後報告する事になるでしょう」
「……」
ドルチェットは、イリスを睨みつけつつ、黙り込みます。ヘレネさんの言葉は届いていたと思うけど、固まってしまいました。
あと、どうでもいいけど、檻がドルチェットの魔法によって壊されたから、檻の外に出る事ができてしまいます。顔を出してみたけど、カーヤさんがボクに向かい、首を振って出るなと訴えて来ました。なので、おとなしく檻の中へ戻ります。
「──確かに、小汚いダークエルフの通行など、他の種族の者達が許さぬ可能性がある。そうなれば、この異常な人間を、魔王様の下へ送り届けるどころか、逃がす可能性すら考えられる。その事態を回避したいという貴様の考えは、よく分かった。それで、我々に協力を求めたのであるな」
「その通りです……」
「良いだろう。この人間を魔王様に連れて行く際に、貴様の同行も許可してやる」
「あ、ありがとうございます。ご協力、感謝します」
「貴様に協力するのではない。魔王様にとって、脅威になり得る人間の利用方法を、考えるためだ。全ては、魔王様のため。魔王様に対する忠義を、貴様も忘れるな」
「……」
その問いに対して、ヘレネさんが答える事はありませんでした。黙り込んで、答えを濁そうとします。
ヘレネさんの気持ちはもう、魔王への反抗で、定まっている。そこにはもう、迷いはない。両親の仇をうつべき相手に、忠誠心もへったくれもありません。
「……だが、タダで貴様らダークエルフを運んでやると言うのも、癪なものである。そこで、提案だ。この娘を、私に寄越すのである」
「へ?」
ドルチェットがそう言って指さしたのは、目の前にいるイリスです。
「この者が、二度と私に対して生意気な口がきけぬように拷問してから、二度とまともに口もきけぬようになるまで、知性なき獣の苗床にでもしてやる。なに、一生とは言わぬ。ダークエルフは、貴重な存在であるからな。五年、私に預けるが良い。その間、命は保証をする。頭は、保証しないがな。貴様たちの配送代としては、安いものであろう」
「お、お断りします。私たちダークエルフは、仲間をそのような事にされるのが分かって、差し出す事はありません」
「逆らうのか?コレは、魔王様の絶対なる信頼をおかれる、我らリッチに与えられた正当な権利である。抵抗は、余計な争いをうむこととなるぞ。たかがダークエルフのメスガキ一匹が、たったの五年間、私の玩具になるだけある。それで全てが丸く収まるのだ。悪い話ではなかろう」
何が、悪い話ではない、だ。五年も、こんな化け物の玩具になるなんて、そんなの皆嫌に決まっている。
ドルチェットは、その薄汚い手を、イリスに向かって伸ばします。ボクはもう、いてもたってもいられなくなりました。ヘレネさんの作戦とか、もうどうでもいいです。今すぐ、このドルチェットをぶっ飛ばして、イリスを守る。ボクは、そう決心をして、檻から出ようとしました。
でも、そんなドルチェットの行動を許せないのは、何もボクだけではありませんでした。
「……何をする。邪魔をするつもりであるか?」
「……」
イリスに近づいたドルチェットの骨の手を、イリスの隣にいる、ヘレネさんと同じ顔を隠した格好をしたロガフィさんが、掴みました。
ドルチェットの手は、それによって、その場からピクリとも動かせなくなります。
「な、何……?」
その事に狼狽えるドルチェットだけど、ロガフィさんは、その手を掴んだまま、全く動かず、離しません。むしろ、その手にこめられた力は、どんどん強くなっていき、ドルチェットの骨が悲鳴をあげはじめます。
「なっ……よ、よせ!離せ!離さぬか!か、軽い冗談である!このようなガキはいらん!タダで、送り届けてやる!だから、離すのだ!た、頼む……!」
「……」
ドルチェットは、地に膝をつき、それでも手を離してくれないロガフィさんに、必死になって許しを請いました。
それからややあって、ようやくロガフィさんがドルチェットの手を離すと、ドルチェットは地面に倒れこみ、そのままの体勢で、地面を這いずってイリスとロガフィさんから距離を取ります。
大きな身体のリッチが、自分よりも遥かに小さなロガフィさんを怖がり、地面を這うその姿は、とても情けなく見えます。辺りの骸骨たちも、さすがにちょっと引いてるよ。
まぁそれは、彼らはロガフィさんの力の強さを知らないからであって、知ったら同じようになるだろうけどね。
「ドルチェット様。我が、ダークエルフの戦士が失礼しました。お怪我はありませんか?」
「なっ、ない……!あるはずが、なかろう。この、リッチの王たる私が、たかだがダークエルフの小娘に腕を掴まれただけで、なんだと言う……!」
ヘレネさんに心配され、気丈にも、すぐに立ち上がったドルチェットだけど、その慌てっぷりは、無理をしているのが明らかです。
さすがは、ロガフィさん。ボクは、ロガフィさんに向かい、親指をたてて称えます。それに対して、ロガフィさんも親指をたてて、応えてくれました。
「ふあ……」
ちなみに、助けられた本人であるイリスは、呑気にあくびをしています。まるで、助けられて当然のようにしているけど、一歩間違えたら、ボク達の置かれている運命的に、連れていかれて、本当に酷い目にあっていたかもしれないんだよ。
でもまぁ、いっか。おかげで少し、スッキリしたしね。
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