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リッチの王


 ボクは、捕まりました。両手には、重厚な鉄の手錠をかけられて、その上で足にも鉄球に鎖で繋がった枷をつけられています。

 そんな状態で、鉄格子の檻の中に、放り込まれています。檻は、集落の広場のど真ん中に置かれていて、周囲には武装したダークエルフの女性たちが、大勢います。まるで、見世物みたいだよ。


「こ、拘束された、ネモ様……。ふ、ふひ、ふひひひ」


 どこからともなく、レンさんの怪しい笑い声が聞こえて来ました。

 レンさんは、檻の傍にたっていました。その服装は、ヘレネさんと同じように、顔を布で覆い隠した姿です。更に、肌が露出しないよう、手には手袋をつけて、完全に露出した部分がなくなるようにしています。

 暑そうだけど、その格好でないと、作戦は上手くいきません。

 そんなレンさんの周りには、同じように変装をした、皆がいます。背の違いから、どれが誰のなのかハッキリ分かります。一番高いのがディゼで、一番小さいのが、ぎゅーちゃんだね。


「本来であれば、私が拘束されて、お姉さまに踏まれたりすべきなんでしょうけど、ごめんなさい。少しの間、辛抱してくださいね。後で、私が踏まれてあげますので。もしくは、お尻ぺんぺんでも、なんでも受け入れますよ」


 同じく全身を隠したユウリちゃんは、羨まし気にそう言ってくるけど、ボクはそんな事しません。絶対に、しません。


「しかし、本当に上手くいくんですか、こんな事?」


 イリスが、マスクを取っ払い、顔を露出した状態で、ヘレネさんに訴えかけました。

 ヘレネさんの作戦は、こうだ。

 聖なる光を放った犯人のボクを、拘束して、捕まえる事に成功した。かなりの危険人物で、魔王にこの者の処罰をどうすべきか、指示を仰ぎたいと、リッチに訴える。その際に、ヘレネさんも同行する事にして、その護衛に、ヘレネさんと同じ格好をしたボクの仲間が、ヘレネさんと共についてくる。そして、何の苦労もなく、気づけば魔王の下についている、という訳です。

 完璧です。完璧すぎて、怖いです。


「ええ、きっと、上手く行くわ。リッチ達は、確かに強く、頭も良く、勘も鋭いですが、この作戦ならば上手くいく」

「さすがは、族長様だ」

「……」


 カーヤさんが、ヘレネさんを褒めたたえるけど、イリスは不安げです。

 ボクは、上手くいくと思うけど、何がそんなに不安なんだろう。その答えを聞く間は、ありませんでした。


「──人の気配である」


 その声は、とても不気味な、老人の声でした。低く、しゃがれたその声は、闇夜の向こう側から聞こえて来ました。

 森が、一気にざわめきます。空気も、また一段と下がり、冷たくなった気がします。ヘレネさんが放っている冷気と、この空気とで、昼間の暑さが、全て嘘だったかのように感じさせられます。


「……まさか、ドルチェット様自らやってきてくださるとは、光栄です」


 声のした方向に、ヘレネさんが声をかけると、その人物が姿を現わしました。

 骸骨が、ゆっくりと、静かに歩き、やってきました。人の骸骨ではあるけど、その背は2メートルはありそうな程、大きいです。ただ、猫背で、本当はもうちょっと背が大きいんだろうけど、そのせいで2メートル程に収まっている感じです。その身体には、紫色のローブを羽織っていて、だけど前側で紐を軽く固定しているだけなので、その中身はほぼ見えています。右目には、赤色の宝石を。左目には、黒色の石を嵌めこんでいて、頭の上には宝石が散りばめられた、王冠をのせています。手には木の杖を持っていて、こちらは飾り気のない、本当にただの、木です。

 彼の背後から、更に骸骨が姿を現わします。武装した骸骨たちは、手に剣を持った者や、弓を持った者。盾を持った者や、杖を持った者など、バラエティに富んでいる。彼らのサイズは、普通です。最初に姿を現わした、異質な姿のリッチが大きすぎて、小さく見えるけどね。


「ああ。ダークエルフの長、レオヘレネ様が迎えてくれるとは、何かがあったようである」


 大きな骸骨が、そう言いながらヘレネさんに歩み寄ります。

 同時に、他の骸骨たちも、ボクの周囲にいるダークエルフ達に近づいて、まるで取り囲むようにして配置につきます。でも、そんな彼らの行動に、ダークエルフ達は微動だにしません。さも当然のように受け入れて、全員その場から動こうとはしません。

 そういえば、幽霊が苦手なディゼは、大丈夫かな。心配になって目を向けると、ディゼは普通に、そこに立っていました。でも、足が震えています。あと、隣に並び立つレンさんと手を繋いで、必死に平静を装うとしているけど、ダメそうです。


「人間を、捕らえました」

「ほう。人間」


 興味深そうに言うと、ヘレネさんの横を通り過ぎた骸骨が、檻の中に閉じ込められいているボクを、覗き込んできました。


「どうして、人間がこの地にいる。人間の地から、直接ここへやってくる事は、できる。不可能ではない。しかし、この地へ辿り着くには、いくつもの山々を超えなければならん。その上、辿り着いた場所は、灼熱の大地。人間が生きて行ける環境ではないはずである。逆も、またしかり。平地からこの魔界へと入り込んだとしても、険しい道をたどり、わざわざこの地へと赴く理由がない。答えるが良い、人間よ。この、リッチの王であるドルチェットが、お前に答える権利を与えてやるのである」


 じっと覗き込んでくる、ドルチェットと名乗ったリッチの赤い瞳が、怪しく光って尋ねて来ます。答えたいけど、どうやって答えるべきか、ボクは迷います。助けを求めるように、イリス達の方へと目を向けたけど、そこで気づきました。イリスが、顔を出したままで、マスクで顔を隠していません。


「は、はわわわ……」


 慌てふためいて、ボクは身振り手振りで、イリスに合図を出します。

 でも、イリスは気づいてくれません。首を傾げるだけで、しかもあくびまでして、ボクの意図を汲み取ろうとしている気すら感じません。

 ちょっとだけでいいから、考えてもらいたいです。


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