強ければ、強いほどモテる
湯船の方へと行くと、そこには皆も、先に身体を洗い終わって浸かっていました。
「ディゼルトさん、全身傷だらけですね……痛々しいです」
「でも、戦士の傷って感じで、憧れちゃいます。ちょっとだけ、触っても良いですか?」
「わ、私は、尻尾に触ってみたいですっ」
「……あ、あぅ」
ディゼが、ダークエルフの女性たちに、囲まれています。闘技場で、戦った人も混じっている。ディゼは、そんな彼女たちに囲まれて、委縮しています。
だって、周りにいるダークエルフの女性たちは、全員裸で、ディゼも裸だからね。恥ずかしがり屋で、女の子の事が好きなディゼにとって、その状況は天国のようで、地獄です。今にも頭が沸騰してしまいそうなくらい、顔が真っ赤だよ。
「見事な、戦いぶりでした。私、貴女のファンになってしまいそうです」
「ラシィさんの方こそ、お見事でしたよ。最後の、あの拳の威力。あれには、驚かされました」
レンさんは、闘技場で戦った相手のラシィさんと、お湯に浸かりながら、楽しそうに談笑しています。
「……」
一方で、ロガフィさんの周りには、誰もいません。ダークエルフの女性たちは、遠巻きにロガフィさんを見るだけで、誰も近寄ろうともしていない。
別に、虐められている訳じゃないです。遠巻きにロガフィさんを見るダークエルフの女性たちは、遠慮しているんです。ロガフィさんは、彼女たちにとって、それだけ偉くて遠い存在な訳で、その裸体を目にして、目を回す人さえいます。
そんなロガフィさんに、イリスはいつも通り抱かれて一緒にお湯に浸かっていて、気持ちよさそうにしています。幼女を抱いて、気持ちよさそうにお湯に浸かるロガフィさんを見て、ダークエルフの女性たちは、更に感嘆の声を漏らしている。
イリスを抱く、ロガフィさん。可愛いからね。
「私たちも、入りましょうか」
「う、うん」
ユウリちゃんに手を引かれ、ユウリちゃんの後姿をなるべく見ないようにしながら、ボクはお湯の中へと足を入れました。お湯は、少し熱いくらいの温度で、だけど入れない程ではありません。ユウリちゃんと一緒に、少し奥の方まで歩んでいくと、中ほどにある飛び出た岩を背にして、そこで落ち着きました。
「はぁー……」
とても、気持ちが良いです。全身から、疲れが抜け出て行くような、そんな感覚にとらわれます。
白色のこの温泉は、疲労回復や、肩こりに、美肌の効果があるみたいです。それから、怪我の治りも早くなるとかで、ディゼの怪我も、早く治ればいいなと思います。
ただ、少し気になるのは、やっぱり周りのダークエルフの女性たちかな。目を向ければ、どこを向いても褐色の肌の、美しい女性たちで溢れている。
「……」
その上、そんなダークエルフの女性たちが、なんだかこちらを見ているような気がして、落ち着きません。というか、絶対に見ています。
ボクと目が合うと、慌てて背けるけど、ボクが目を伏せたらまるで獲物を見るような目で、こちらを見ている。一体、何なんだろう。
「先程の方もそうですが、お姉さまは狙われています……」
「ね、狙われ……?」
「はい。お姉さまのその美しい身体を、彼女たちは狙っているんですよ。私には、分かります。ですから、私から離れないようにしていてくださいね」
なんだかよく分からないけど、ボクはそう言われて怖くなり、ユウリちゃんとお湯の中で、手を繋ぎます。
「──この里じゃ、強ければ強いほど、モテるんだよ」
背後から、声が聞こえて来ました。でも、振り返っても、そこには岩があるだけで、誰もいません。
「上だよ」
言われて見上げてみると、岩の上から、顔を覗かせるダークエルフの女性がいました。その巨体と、筋肉質な身体は、すぐにガイチィさんだと分かります。
「特に、あんたみたいに華奢な身体を持っていて、それなのに闘技場を吹っ飛ばす程の力を見せられたりしたら、この里の女は皆、いちころさ。アタイだって、あんたが欲しいと思っちまった」
ガイチィさんはそう言うと、ボクの隣に座ってきます。大きなガイチィさんは、お湯に身体が入りきらず、色々と丸見えです。あと、せっかく傷の治りが早まる温泉なのに、肝心の傷が、全然お湯に浸かっていません。ロガフィさんとのたたかいでつけられた、痛々しい痣や、擦り傷は、それじゃあ治りが早くならないよ。
というか、本当に死にかけていたのに、もう動けるなんて、本当に丈夫なひとです。
「お姉さまは、私の物ですっ!だから、手を出すのは私の許可を得てからにしてください!」
「わ、わっ」
ユウリちゃんはガイチィさんをはじめとして、周囲にアピールするように、ボクの腕に抱き着いてきました。素っ裸同士なので、その感触はダイレクトに伝わって来て、ボクの頭の温度を、一気に上げて来ます。
「そりゃ、残念。だけど、周りをよく見てみな。どこを見ても、美人揃い。大きな胸に、小さな胸から、小さい身体から大きな身体に、筋肉質な身体。必ず、あんた好みの良い女が、この中にいる。そんな弱っちそうなメスはやめて、他の強いメスに鞍替えを考えてみても、良いんじゃないかい?アタイは、歓迎だよ」
「……」
ガイチィさんはそう言って、ボクに向かってウィンクをしてきます。ボクはそれに、苦笑いをしつつ、周りを見ます。
確かに、どこを見渡しも、美人揃いのダークエルフ達は、凄く魅力的です。だけど、そんなの見たって、何がおこったとしても、ボクの中の一番は、ユウリちゃんで揺らぎません。
「でへへ」
「……」
でも、そのユウリちゃんは、周りを見てやらしい笑みを浮かべていました。仕方ないね。ユウリちゃんの大好物の、美人の女の人が、たくさん素っ裸でいるんだから。




