疲れを癒やす方法
この里では、女の子同士の恋愛が普通の事だと言う事を知ったら、ディゼも喜ぶだろうな。ディゼの好みのタイプは、レンさんみたいな女の子だからね。
そう思いながら、ボクは元気になったユウリちゃんと、イリスと共に、今夜泊めてもらう予定の、自分たちの部屋を訪れました。
「……」
そこには、皆がいました。いたんだけど、全員机に突っ伏したり、ベッドに横になっていたり、とても疲れた様子を見せています。
道中の暑さと、闘技場での戦いにより、疲れがピークに達したのかな。エーファちゃんの村を出てから、野宿に次ぐ野宿で、全く休まる暇がなかったからね。
「皆さん、お疲れさまでした」
「本当に、少し疲れましたよ……」
ユウリちゃんの労いの言葉に答えたのは、レンさんです。疲れてベッドに横になっていたけど、身体を起こして、元気そうなレンさんを見て、笑顔になりました。
「お姉さまから、聞きましたよ。レンさん、大活躍だったみたいですね」
「……結局は、負けてしまいましたけどね。それでも、ネモ様抜きで、勝つ事ができたんですよ。ほとんど、ぎゅーちゃんさんのおかげですけどね」
「ぎゅ」
床に寝転がっているぎゅーちゃんは、目を閉じて眠っています。人間のぎゅーちゃんは寝ているけど、指先から伸びてきた触手が、答えました。
本体は眠ったまま、触手だけ喋れるなんて、器用だな……。
「ディゼさんは、お怪我の方大丈夫ですか?」
「平気だ。ユウリさんも、元気になったみたいで何よりだ」
ディゼは、イスに座って机に伏せていたけど、こちらも元気そうなユウリちゃんを見て、笑顔になりました。
でも、ディゼ自身の方が、大きな怪我を負っています。包帯を、腕や肩に巻いて、頬には絆創膏も張っている。だけど、全部痕にはならない傷みたいです。一応は、安心しました。ディゼの身体には、これ以上傷をつけたくはないからね。
「おかげさまで、もうすっかり元気です」
「……ユウリ」
「わっ。ロガフィさん。い、いきなりハグをしてくるなんて、それってつまり、愛の告白ですか!?」
「違う」
否定しながらも、ロガフィさんはユウリちゃんに抱き着き、迎え入れます。無表情で、よく分からなかったけど、ユウリちゃんを一番心配していたのは、実はロガフィさんなのかもしれません。
「……ご心配をおかけしました。もう、大丈夫ですよ。私、運だけは良いので、そう簡単に死んだりなんかしませんので、安心してください」
確かに、今思えば、ユウリちゃんの体調が悪くなったのは運が悪いとしても、偶然味方してくれるダークエルフの里に辿り着いたのは、運が良かったと言えるかもしれません。それもこれも、全部、ユウリちゃんの持つ幸運の加護のおかげかもしれない。
「おー、仲いいねぇ。ボクも、誰かの温もりってやつを、たまには感じてみたいなぁ」
そんな2人の様子を、アンリちゃんが羨まし気に、周りを飛んで見ています。幽霊のアンリちゃんにとって、人に触れる事は、難しい。ボクは勿論、ユウリちゃんも誰も、アンリちゃんに触れる事はできません。
「……良ければ、抱きしめてみますか?感じだけでも」
ロガフィさんの抱擁を嬉しそうに受けていたユウリちゃんが、アンリちゃんにそう提案をしました。
ボクは、その発言に驚きます。レンさんも、イリスも驚いて、目を見張っています。
だって、あの男嫌いのユウリちゃんが、可愛いけど男のアンリちゃんに、抱擁を許可したんだよ。あり得ないよ。
「い、いいの……?」
「はい」
提案されたアンリちゃんも、驚いています。遠慮がちに目を伏せて尋ねるけど、ユウリちゃんの意思は変わりません。
「じゃあ……」
アンリちゃんが、ロガフィさんに代わり、遠慮がちにユウリちゃんに抱き着きました。両手で、正面からユウリちゃんの背中に手を回し、ユウリちゃんも抱き返すように、アンリちゃんの背中に手を回します。
一見すれば、しっかりと抱き合っているようにも見えるけど、アンリちゃんの手や体が、ユウリちゃんの身体に透けて入り込んでいます。
「……ありうがとう、ユウリさん」
「良いですよ。アンリ君はもう、私にとっても、なくてはならない仲間です。見た目は完全に可愛い女の子ですし、多少の事なら目を瞑りますよ」
「ああ……凄く、嬉しいよ。ボク、本当に幸せだなぁ。消えてなくなっちゃいそうなくらい、幸せだよ」
そういうアンリちゃんの身体が、光り輝き始めました。そして、ゆっくりと全身が消えながら、空へと吸い込まれるように上がっていきます。
「わ、わー!アンリちゃん、戻って!本当に消えてるよ!成仏しかかってるよ!」
「戻ってください、アンリ君!これって、私がアンリ君を殺しちゃった事になるんですか!?」
ボクとユウリちゃんは、慌ててアンリちゃんを引き戻そうとするけど、その手はアンリちゃんをすり抜けて、空を切ります。
「何をしているんですか、まったく……よっと」
代わりに、ジャンプをしてアンリちゃんの手を掴み取ってくれたのは、イリスです。イリスの小さな手に引っ張られる形で、アンリちゃんは戻ってくる事ができました。
「あ、あれ!?ボクもしかして今、消えかかってた!?」
「そうですよ。私が、助けてあげあたんです。感謝し──」
「ありがとう、イリスさん!イリスさんは、最高だよ!大好き!」
イリスは、女神としての力を、こういう時だけ発揮してくれます。幽霊に触る事ができるなんて、そんな事できるの、イリスだけだよ。
そんなイリスに、アンリちゃんは抱き着いて、その感触を楽しんでいるようです。ユウリちゃんを抱き着いた時には感じる事の出来なかった感触を、代わりにイリスで感じてるのかな。
「ふ、ふふん。そうでしょう、最高でしょう。あ……コレ、ひんやりしてて気持ち良いですね」
アンリちゃん、冷たいんだ。その感覚は、幽霊に触れる事の出来る、イリスにしか分かりません。でも、気持ちよさそうなイリスを見ていると、ちょっと羨ましいです。
「はぁー……あまり、心配させないでください。で、話は変わるんですが、皆さんそんなに疲れているなら、温泉に行きませんか?」
「温泉?」
ボク達は、ユウリちゃんの唐突な提案に、声を揃えて聞き返しました。




