元気が出る料理
この世には、色々な食べ物があります。お肉に、魚に、野菜やキノコと、多種にわたった食べ物が存在しています。
中には、美味しい物や、ちょっと変わった味の物。それに、人が食べる物なのかと言うくらい、不味い物もあります。
それらは、それぞれの味覚の感じ方等により、味付け次第でどれでも美味しく食べられる物のはずです。
逆に、味付けで不味くなってしまう物も、あります。今、ボク達の目の前に置かれている、料理。それがそうです。
「──どうですか?元気、出ましたか?」
「……」
ニコやかに尋ねて来るティアンさんに、ボク達は沈黙します。
ボク達の目の前に置かれている、料理。そこには、一見すると、普通の野菜炒めが置かれています。でも、臭いからして変なんです。
甘いような、しょっぱいような、酸っぱいような……オマケに、苦そうな……そんな臭いが漂っていて、食欲を全くそそられません。
勇気を出して、それを口に運んだユウリちゃんは、ティアンさんの手料理に喜んでいた、当初の笑顔のまま固まりました。
ボクも、勇気を出して口の中に入れてみるけど、案外不味くはありませんでした。ただ、味付けがちょっと、濃すぎるかな。しょっぱくて、甘く苦く酸っぱいです。
「もぐもぐ……」
咀嚼して、飲み込んで、後味には辛味が強く出て来ました。
臭いで想像していたよりは、案外不味くはなかったけど、やっぱり不味いです。とてもではないけど、たくさん食べたいとは思えません。
ボクは、そっとフォークを置きました。
「どうでしたか、ネモさん!お口にあいましたか!?」
目を輝かせて聞いてくるティアンさんから、ボクは目を逸らしてユウリちゃんに助けを求めました。でも、ユウリちゃんは口にいれたまま固まって、動いていません。
それじゃあと思い、ボクは膝に抱いているイリスを期待します。イリスも、同じようにボクとフォークを持ち、お肉が来るのではないかと期待していたけど、いざやってきた野菜炒めを前にして、テンションが急激に下がった状態にあります。
「なんですか、コレは。とてもではありませんが、まともな生き物が食べる物には見えませんね。こんな物を客人に出すなんて、どういう了見ですか。それとも、私たちを毒殺しようとでもしているのですか?」
イリスは、容赦なくそう言い放ちました。物おじせず、ハッキリと物をいうイリスは、それが美点でありながら、弱点でもあります。
今回はそれが、仇となりました。
「ううっ」
ショックを受けた様子のティアンさんが、顔を手で覆って、涙を流しました。
「い、言いすぎだよ、イリス!見方を変えれば、一周回って美味しいかもしれないよ。だからとりあえず、食べてみよう!」
内心では、よく言ったと思いつつ、ボクはイリスに、とりあえずは食べるように勧めました。食べもしないのに、失礼な事を言うのは失礼だからね。ちゃんと食べてから、失礼な事を言おうね。
だからボクは、野菜炒めをフォークで取ると、イリスの口に押し付けます。
「んんー!」
イリスは口を閉じて拒否してるけど、力でボクに勝てる訳もなく、最終的には強制的に口を開かせる事に成功し、イリスはあえなく、野菜炒めを口の中に含みました。
「ん、んぐっ……ぷはっ。お、おええぇぇ!やっぱり、クソ不味いじゃないですか、なんですか、コレは!?どうしたら、こんなに不味くできるんですか!?」
「わーん!」
更にイリスにハッキリと言われたティアンさんが、更に大きな声をあげて泣き出してしまいました。
でも、吐き出さずに飲み込んだのは、イリスにしては偉いね。
「……ティアンさん、身体に良い物って聞くと、なんでも放り込んじゃうんです。例えそれが、甘い果物であっても、平気でお魚と組み合わせてしまうような、そんな人なんです。でも、食べる人の健康を願っての事なので、悪い人ではないんですよ?」
ルトラさんがそう言って、ティアンさんを庇うけど、この味は庇いようがないよ。なんでも入れちゃうから、こんな味になっちゃったていうのは分かったけど、それにしたって酷いです。ユウリちゃんなんて、未だに固まってるからね。
「分かりました。それじゃあ、貴女もコレを食べなさい」
「ええ!?嫌ですよ、そんなの!絶対に食べたくありません!」
「うわーん!」
イリスの提案を、ルトラさんはハッキリと拒否しました。それを聞いたティアンさんが、またショックを受けた様子で泣き出します。
「そんな物を、私たちが食べるまで黙って見ていた罰ですよ!食べなさい!」
「ぜーったいに嫌ですって!」
どうしても拒否するルトラさんと、どうしても食べさせたいイリスの戦いが始まるけど、両者一歩も譲りません。
「も、もう、いいです!私が食べます!」
目の前で、自分が一生懸命作った料理を押し付け合う2人を前にして、ティアンさんが怒ってしまいました。涙を流してショックを受けた様子のまま、お皿事取り上げたティアンさんは、フォークでそれを、口に向かってかきこんでいきます。
「う、ぐっ、おえええぇぇ!」
そして、ものの数秒で吐き出してしまいました。量が多かったからとかではなく、不味くて吐き出してしまったんです。
「あーあー。無茶するからですよ。大丈夫ですか、ティアンさん」
ルトラさんが、すぐにその背中をさすってあげるけど、吐いてしまった物を、これ以上食べる訳にはいきません。運良く、これ以上は食べずに済みそうです。
「う、うぅ。ごめんなさい、こんなに不味いだなんて、思わなくて……」
「これからは、もうちょっと自重しましょうね」
「……はい。次は、お砂糖をもう少し、控えますね。それなら、食べてくれますか?」
「嫌です」
ルトラさんは、ニッコリと笑い、拒否しました。




