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恋人同士


 ユウリちゃんと仲直りし、イリスがユウリちゃんのいない間の出来事を報告してくれて、ボクはスッキリしました。ユウリちゃんはすっかり元気になっていたし、それ以上に嬉しい事はありません。

 やっぱり、ユウリちゃんを引き合いに出したヘレネさんの言葉は、ただのハッタリだったみたいです。最初から、ユウリちゃんを傷つけるつもりはなく、弱ったユウリちゃんをしっかりお世話してもらって、今では感謝の念しかありません。

 ダークエルフの人たちは、皆美人で親切で、ロガフィさんが言っていた通り、優しい人たちでした。


「──皆さんに、大きな怪我がないようで、良かったです。お姉さまも、頑張ったんですね。偉い偉い」

「えへへ」


 話を聞き終わったユウリちゃんが、ボクの頭を撫でて労ってくれました。凄く、嬉しいです。


「……ところで、ずっと気になっていたんですが、ここには女しかいないんですか?」


 ふと、イリスがそんな事を聞きました。正面に座るカーヤさんとティアンさんは、当然とも言えるイリスの疑問に、ちょっと言いにくそうにしています。

 ボクも、それは気になってたんだよね。どこを見ても女の人だけで、目の保養にはなるけど、女の人だけでは、普通に考えればいつかは滅んでしまう。


「別に、いいじゃないですか。男がいない。その事実だけが、重要なんですよ」


 男嫌いのユウリちゃんにとっては、気にもならない事のようです。ニコやかにそう言って、目を輝かせています。

 でも、そういう問題じゃありません。ボクも、イリスと同じ疑問を抱いていて、気になるから是非とも聞きたいです。


「……その通り、私たちダークエルフには、女性しか存在しない」

「ではどうやって、種を残すんですか」

「ダークエルフには、族長様にのみ、子を孕む権利が与えられる。その際に、女しかいないダークエルフは、他種族の男と結婚した末に、子をもうけるんだ。例えば、先代の……今の族長様のご両親は、ダークエルフと、ミノタウルス族の夫婦だった」

「ミノ……」


 というと、牛の顔に、人間の身体をもった、巨人が思い浮かびます。モンスタフラッシュのゲームの中で出て来たけど、身体は大きく、知能は低い、けっこうな化け物でした。この世界に来て、初めて出会ったオークに近い化け物です。区分的には、オークは魔物だけど、ミノタウルスは魔物じゃなくて、魔族と言うカテゴリなのかな。その辺は、よく分かりません。

 そして例えばだけど、そんなミノタウルスと、今の族長である、ヘレネさんが結婚したとします。2人を並べると……うん。絶対にダメだと思います。


「前の族長様は、少し変わっている所があったから、そうなっただけだ。普通は、男と結婚だなんて、嫌がるんだ。私たちも、男ではなく普通に同性が好きだし、族長様には悪いが、私たちの中に男が一人混ざっている状況は、少し落ち着かなかったな」

「……普通?」


 ルトラさんの台詞に、イリスが眉をピクリと動かし、反応しました。ボクも、一瞬分からなかったけど、よく考えたら、女の子が好きなのが普通とか、ちょっと変だね。

 でも、ダークエルフに女の子しかいないということは、自然とそうなるのが普通と言えるのかもしれません。


「何か、変な事を言ったか?」

「貴女は、女が好きなんですか」

「そ、そうだが……変か?」

「普通ですよね。例えばカーヤさんとティアンさんは恋人同士だし、一緒に暮らしています。身体を重ねてる所に、遭遇した事もありますよ」

「むぐ……!けほっ、けほっ」

「げほっ!」


 ルトラさんが持ってきてくれた、おかわりのジュースを口に運んで聞いていたイリスが、むせました。ボクも、口に含んでいたんだけど、同じようにむせます。

 ルトラさんは、当たり前のように言ったけど、身体を重ねているとか、そういう具体的な事まで、彼女たちは当たり前のようにして過ごしているんだね。女の子しかいないから、そうなるんだろうけど、あまりにも普通の事のように言われると、さすがに驚きます。


「やっぱり!皆さんからは、美味しそうな女の子の香りしかしないから、そうだと思っていました。皆さん、普通に女の子が好きな方々だったんですね。納得です。天国ですか、ここは!?」


 ユウリちゃんにとっては、そうだね。ボクにとっても、水着姿のダークエルフの皆は、目の保養になるので、天国気分なのには同意です。


「ティアン。そういう事は、あまり言わないでくれ……」

「いいじゃないですか、カーヤさん。減る物ではないですし……それに、普段は戦士だのとお堅い事を言うカーヤさんは、ベッドの上ではとても可愛いんですよ。昨夜なんて──」

「よ、よせ、ティアン!この話は、ここまでだ!話を戻そう、そうしよう!な!」


 慌ててティアンさんを止めたカーヤさんは、恥ずかしそうに顔が真っ赤に染まっています。ティアンさんの暴露は、聞いているこっちまで、恥ずかしくなってしまいます。

 ユウリちゃんは、続きを聞きたそうに、耳をたてて続きを待っているけど、さすがにカーヤさんが嫌がっているのをみて、続きを言う事はありませんでした。


「私たちダークエルフは、とても長寿だから、そんな事をしなくたって、数はそうそう減る物ではないんですよ。だから、滅多に子を産む族長様はいません。でも、先代の族長様は違いました。本当にお相手の男性を愛して、そして今の族長様。レオヘレネ様を産んだんです。見ていて、憧れてしまう程に仲が良いご両親だったんですよ。私もいつか、あんな風に女性とお付き合いしたいと思っています」


 そう言って、目を輝かせるルトラさんだけど、相手は女の人なんだね。

 ユウリちゃんは、うんうん頷いて、嬉しそうにしています。


「……男女の間に、本物の愛があるかどうか……それは置いておいて。そんな愛する者同士の間に生まれたヘレネさんは、ご両親を殺されて、さぞかし辛かったのではないでしょうか」

「……泣いていたよ。ずっと、な。でも、一日泣いて、それ以来涙を見る事はなくなった。涙を隠し、私たちを守るために、本当は憎くてたまらない新たな魔王に服従を誓い、私たちは安寧の日々を手に入れる事ができた。死んでもいいから、ザルフィ様を打ち取り、ロガフィ様の仇をうとうという戦士たちの意思を、族長様は止めてまで、守ったんだ」


 それを聞いて、ボク達は目を伏せます。ヘレネさんは、この里のダークエルフ達の、命を背負っている存在なのだと、改めて理解しました。


「──暗いお話は、ここまでにしましょう!私、ユウリさんのために、体力のつくご飯を作ったんですよ。皆さんも、ご一緒にどうですか?」

「すまない。私は、アレだ。用事があるから、またにする。では、な」


 ティアンさんがそう話を切り出すと、カーヤさんは素早く立ち上がり、不自然なくらいあっという間に、部屋を出て行ってしまいました。


「是非、いただきます!ティアンさんの手料理、楽しみです!」


 ユウリちゃんは、それに何も疑問を持たずに言ったけど、ルトラさんまで不安げな様子を見せていて、ボクは嫌な予感しかしません。


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