許容できません
ロガフィさんの仲良しのちゅーが炸裂した後、ボク達は話し合いの結果、一晩この集落でお世話になる事になりました。暑さに疲れ果てた上に、闘技場での件もあり、皆疲れているので、とてもありがたいです。
この場所は、周囲の森の中よりも涼しいからね。体力を回復させるのに、充分な環境だと思います。
そうと決まれば、ボクは早速、ユウリちゃんに会いに行く事にしました。ユウリちゃんは、話し合いをしていた暗い部屋の奥に連れていかれたので、ボクは気持ち速足で家の中を歩き、ユウリちゃんの下へと向かいます。案内は、カーヤさんがしてくれています。
ボクについてきたのはイリスだけで、あとの皆は、泊まる部屋へと直行です。きっと、疲れてるんだね。特にレンさんは、顔には出さないけど、マナの消費が激しく、辛そうでした。ディゼも、怪我をしている。ぎゅーちゃんはぴんぴんしてるけど、皆の護衛をお願いしておきました。頼りになります。
ボク達が泊まる客人用の部屋も、この家の中にあるようで、この広い家の中に全員いる事には変わりありません。ボクも、ユウリちゃんに報告したら、すぐに泊まらせてもらう部屋に行くつもりです。
「こっちだ」
話し合いをしていた部屋の奥には、長い廊下が続いていました。
木に沿うように、カーブになった廊下が続いていて、その途中で木の中に向かって扉が作られていて、それぞれ中に、部屋が作られているようです。下りになっている廊下は、下りはいいけど、上るのが大変そうだなと思いながら、カーヤさんについていきます。
「この中だ」
やがて、カーヤさんが一つの扉の前で止まりました。
「だ、ダメです……こんな事、いけません……」
「良いじゃないですか。減るもんじゃあるまいし、とっても気持ちよくなれるはずですよ。私、自信あるんです」
「で、ですが……あんっ」
「ほら、身体は正直ですね。可愛い」
その、扉の奥から聞こえてくるのは、何やらいかがわしい会話です。片方は、間違いなくユウリちゃんの声です。良いじゃないですか、とか言っている方が、ユウリちゃんです。
その声を聞いて、カーヤさんは扉を開くのを躊躇っています。その会話を聞いて、中で何が起きているのか、ボクと同じような事を想像しているんだと思う。少し、顔が赤くなっています。
ユウリちゃん、まさかとは思うけど、浮気してないよね……?いや、浮気と言うか、ボクとユウリちゃんはまだそこまで行ってないかもしれないけど、ユウリちゃんはボクの気持ちは知っていて、ユウリちゃんもボクが特別だと言ってくれている。
それなのに、見ず知らずのダークエルフの女性に手を出してたら……やっぱりそれは、浮気だよね?浮気という事で、良いんだよね?
仲間内の女の子に手を出すならともかく、見ず知らずの女の人に手を出すのまで、ボクは許容できません。
「退きなさい」
その扉を、カーヤさんをどかして勢いよく開け放ったのは、イリスだ。
「ゆ、ユウリちゃん!」
ボクは、扉を開いたイリスを抱いて、一緒に部屋の中に飛び込みます。そして、その光景を目の当たりにしました。
「お姉さま……イリス。どうしたんですか、そんなに慌てて」
「……」
そこにいたのは、間違いなくユウリちゃんでした。ダークエルフの女性も、一緒にいます。その、ベッドの上にうつ伏せになったダークエルフの女性に、馬乗りになって覆いかぶさるユウリちゃんが、ダークエルフの女性の腰を、マッサージしていました。
「あっ、そこぉ、とってもいいですぅ」
ユウリちゃんが強く指を押し込むと、マッサージをされているダークエルフの女性が、色っぽく声を上げます。
ボクは、力なく、抱いたイリスを床に降ろしました。
「何を想像したんですか?」
「……」
床に降り立ったイリスが、ニヤニヤと笑いながらボクに尋ねて来ます。ボクだけでなく、カーヤさんも恥ずかしそうに顔を赤くして部屋に入って来て、ユウリちゃんにマッサージをされているダークエルフの女性を睨みつけました。
「何をしているんだ。お前は、客人にマッサージをさせるように命じられたのか?」
「い、いえ、違います!あんっ」
カーヤさんに睨みつけられた女性が、慌てて否定して立ち上がろうとするけど、ユウリちゃんが再び腰を押した事で、色っぽい声をあげました。
「ユウリさん、もういいから、退いてください!」
「……私が好きでやらせてもらった事なので、怒らないで上げてくださいね」
ユウリちゃんは、カーヤさんに向かってそう言いながら、ダークエルフの女性の上から退きました。
それを確認して、寝そべっていた女性が慌てて起き上がると、カーヤさんに向かって背筋を正して立ち、気を付けをします。
「お姉さまー」
「わ」
ユウリちゃんが、ボクに向かって駆け寄って来て、胸に飛び込んできました。ユウリちゃんのいい匂いと温もりに包まれて、ボクは幸せです。
いや、それよりも、ユウリちゃんの顔色が、だいぶ良くなっています。足取りもしっかりとしているし、力も強い。すっかり元通りに見えます。
「ゆ、ユウリちゃん。元気になったんだね!」
「はい!おかげさまで、元気になりました。こちらの、ルトラさんが、私を看病してくれたおかげです!」
ユウリちゃんが嬉しそうに紹介してきたのは、先ほどまでユウリちゃんがマッサージを施していた、ダークエルフの女性です。ユウリちゃんを、おぶって連れて行ってくれた女性だね。名前だけは、聞いていました。
「い、いえ。私は、そんな大したことはしていません。私よりも……ティアンさん!こっちに来てください!」
「はーい」
ルトラさんがそう呼ぶと、部屋の奥からもう一人、ダークエルフの女性が姿を現わしました。薄いピンク色のエプロンを身に纏ったその姿は、まるで新婚さんのようです。ただ、エプロンの下が水着なので、裸エプロンのように見えて、凄く卑猥に見えます。
のんびりとした声で、ルトラさんに応えてやってきたその人は、カーヤさんに似ているけど、胸の大きさと、のんびりとした声で、別人だとすぐに分かります。
こちらは、カーヤさんと比べてかなり胸が大きいからね。
「あら。カーヤさん、いらしていたんですね。今、ユウリさんに、体力のつくご飯を作っていた所なんですよ」
「そうか……」
「ありがとうございます、ティアンさん。ティアンさんには、なんとかの実のジュースを作っていただいたり、果物の皮をむいていただいたり、添い寝をしていただいたり、とてもお世話になったんですよ」
「そ、そうなんだ。ありがとうござ……ん、添い寝?」
なんだか、とても気になるワードが出てきて、ボクはスルーしかけたけど、おかしな事に気づきました。
「他にも、あーんして果物を食べさせていただいたり、マッサージをしてもらったりもしました。ルトラさんには、身体の色んな所を触らせていただきましたし、もう本当に、天国のような時間を過ごしたんですよ」
嬉しそうに語るユウリちゃんに、ボクは固まりました。ボクが、ユウリちゃんを人質に取られたと聞いて、必死になっていた時に、ユウリちゃんはそんなに嬉しい事をしてもらっていたんだね。
そう思うと、ボクは心にもやがかかって、なんだかちょっと、嫌な感じです。




