思い出して欲しいです
「なるほど。Gランクマスターのせいで、クエストが。確かに、残ってるのはカスみたいな報酬のクエストだけのようだな」
ボク達は、世間話がてら、メイヤさんに事情を説明した。Gランクマスターのせいで、良いクエストを全て独占されてしまった、と。別に、何かして欲しいわけじゃなくて、本当に、ただの話の話題程度に話しただけ。
「なら、一緒に来るか?」
突然のメイヤさんの提案に、ボク達3人は、首を傾げた。
「どこへ、ですか?」
「緊急クエストの、禁断の森への迷子探しだ」
「ダメですよ、メイヤ様!彼女達はまだ、冒険者になりたての素人で、武器も持っていないんですよ!?」
イオさんは、慌てた様子でメイヤさんを止めにはいる。
確かに、先程の話を聞く限り、冒険者になりたての素人が、行ってもいいような場所じゃない気がする。特に、ボク達はレベルで見れば、まだ1。それが、ぎゅーちゃんのようなレベル79のモンスターが出るような場所に行ってみてよ。ゲームの世界なら、敵と1回でもエンカウントしたら、それでゲームオーバーだ。そう考えると、メイヤさんの言ってることは、かなり無茶な事に聞こえる。
「私の傍にいれば、問題ない。思ったよりも、人手が少なそうでな。来たければ、来てもらって構わない。報酬も、きちんと支払う。クエストに成功したら、ランクも二つ上げてやる。来るなら、集合場所である、東門前の広場に来い。なるべく急げ。では、失礼する」
メイヤさんは、そういい残して足早に去っていった。どうやら急いでいたようで、歩いていった先で待っていた人が、早く来るように促している。
「行きましょう、ネモ!そして、今日もお肉を!」
イリスが、メイヤさんが去っていくのを確認して、そう叫んだ。
「……確かに、良い条件ですね。ランクが二つ上がって、参加するだけで高額な報酬まで貰えて……このチャンスを逃すのは、とても惜しい気がします」
ユウリちゃんも、乗り気だ。けど、森の中の探索は、それこそ手紙の配達なんか比べ物にならないくらいの、体力を使うはず。そんな所に、ユウリちゃんとイリスを連れて行っていいものなのだろうか。
……ユウリちゃんは、無理をしそうだし、イリスは自分で歩くはずがないので、ボクが担ぐ事になるね。まぁ別に、イリスを担ぐくらいなんともないんだけど、もしも戦いになった時、ユウリちゃんを守るのに邪魔になる可能性がある。ボク1人なら、どうって事ないんだけど、そうなった時、どうすればいいんだろうか。ずっと1人でいたので、そういう時どうすればいいのか、そしてどうなるのかが、全く分かりません。
「うーん……うーん……」
「お姉さま」
「ネモ」
頭を抱えて悩むボクの手を、ユウリちゃんとイリスがそれぞれ握って、声を掛けてきた。
「行きましょう、お姉さま!」
「お肉!」
2人はもう、すっかり行く気満々だ。
ま、いっか。いざとなったら、2人とも抱えて逃げればいいだけだし。
「じゃ、行こうか」
「ダメですよ、絶対に!」
ボク達3人の意見はまとまったけど、それにイオさんは反対みたい。
「無茶なクエストを軽い気持ちで受けて、死んで行った人を、私は何人も知っています!貴女達にはそんな目には合ってほしくないんです!絶対に、やめてください!」
「……ありがとうございます、イオさん。でも、私達は莫大な借金を背負う身。多少の無茶は承知で、やるしかないのです。でも、貴女の優しい気持ちは、確かに受け取りました」
「ユウリさん……?」
ユウリちゃんは、決意の覚悟をもった目で、イオさんにそう言った。そして、正面からイオさんを抱きしめて、イオさんの豊かな胸に、顔をうずめる。
「どうかここで、無事に私達が帰ってくるのを、祈っていてください。そして無事に帰ってきたその時は、またこうして抱きしめ合いましょう」
「あ、あの……ユウリさん、お尻に、手が……?」
戸惑うイオさんの発言に、ボクはイオさんの背後に回ってみた。すると、ユウリちゃんの手が、イオさんのお尻をまさぐっているのを確認。
ボクや、イリスなら身内なのでまだいい。けど、他人に対するセクハラ行為は、さすがにダメだよ、ユウリちゃん。
ボクは、ユウリちゃんの頭に、ちょっと強めにチョップ。それから、イオさんから引き剥がして、立たせた。
「と、言う訳ですので、私達は行きます」
「あ……えと、いってらっしゃい……?」
どういう訳かは分からないけど、頭にたんこぶを作ったユウリちゃんが頭をさすりながらそう言うと、イオさんもそう返した。ユウリちゃんのセクハラのせいで、イオさんも訳が分からなくなってるみたい。だけど、丁度良い。
ボク達は、イオさんが正気を取り戻す前に、足早にギルドを後にした。
「お、お姉さま、ちょっと強くやりすぎじゃないですか?頭、まだ痛いです」
ギルドを出て歩き出したところで、ユウリちゃんからそんなクレームが出た。けど、そんなのは自業自得です。セクハラをする方が悪いんだから、これにこりたら止めてほしい。
「そういえば私も、昨日から何故か頭が痛いんですよね。ぶつけた覚えもないのに……」
ユウリちゃんが頭をさするのを見て、イリスも頭をさすってそんな事を言った。
イリスに覚えがないのも、無理はない。それは昨日、眠っているイリスを抱えるときに、机にぶつけてしまったヤツだ。
知られたら面倒なので、ボクは視線を流して、シラを切る。
「まぁ私は、お姉さまにいただく痛みなら、どんな事でも受け入れますけどね。そうだ!次からは、もしも私が粗相したら、鞭で叩く、とかどうでしょうか!」
「いりません」
「ちぇ」
唇を尖らせていじけるユウリちゃんは、可愛かったです。
「それにしても、参加するだけで10万Gって、一人10万ですよね!?」
「ん。まぁそうなるんですかね。という事は、私達3人で、30万Gですか」
「毎日高級ステーキ食べ放題……夢のセレブ生活が、待ってるって訳ですね!?」
「ダメですよ。稼ぎの大半は、借金返済にまわします。特にイリスのお金は、基本的に全て借金返済です」
「そんな!?」
たかだかそれくらい稼いだだけじゃ、セレブ生活なんて夢のまた夢だ。何より、ボクが借金を負ってしまった理由を、思い出して欲しいです。
でも、このクエストをこなせれば、その夢のセレブ生活への足がかりになる可能性はある。冒険者ランクが2あがるということは、今のGランクから、Eランクに上がれるという事。Eランクには数万Gのクエストがちょくちょくあるので、安定した収入になる事間違いなし。
ボクは、胸の前で小さく拳を作って、気合をいれました。




