決着
ディゼとカーヤさんは、その後治療のため、どこかへと連れていかれ、姿を消しました。2人とも、切り傷がいくつか出来てるからね。傷跡が残らないように、治療してあげて欲しいです。特に、ディゼの身体はただでさえ、傷だらけだ。ただでさ痛々しい傷跡の数々になのに、これ以上、傷跡を増やしてほしくないです。
さて、気になる試合の結果は、引き分けと言う事で決着し、次の試合が行われる事になります。2人とも、自分の勝利を認めなかったので、審判が割って入り、そういう事で納得しました。
「負けだと言ってるんですから、そういう事にすればいいじゃないですか!何をしているんですか、ディゼルトは、アホですかっ!もがっ」
イリスは、せっかくの勝利を拾うチャンスを捨てたディゼに、ちょっと怒っています。確かに、あのまま自分の勝利を宣言したら、ディゼの勝利だったとは思う。だけど、それはディゼのプライドが、許さなかった。
ディゼは、互角の試合を繰り広げたカーヤさんに、最大限の敬意を払っている。対して、カーヤさんもディゼに対して敬意を払い、お互いの健闘を称え合った。
そこに、勝ちも負けもない。2人とも、凄かったし、見ている人を魅了する戦いでした。だから、コレで良かったと、ボクは思うよ。闘技場を去っていく2人は、凄く満足げだったしね。
それなのに、ディゼの事をアホ呼ばわりしたイリスの口を、ロガフィさんが塞ぎました。
「でも、コレでこっちはあと、ネモさんとぎゅーちゃん。相手も、残り二人の互角の勝負だよ。こっちにはネモさんがいるし、余裕だよ、余裕」
「アンリさんの言う通りですが……ここまできたら、ネモ様なしで勝ってみたい気もします。という訳で、ぎゅーちゃんさん。お願いできますか?」
「……」
レンさんにお願いをされたぎゅーちゃんは、強く頷いて答えました。お願いをされたぎゅーちゃんは、早速階段を降りて、闘技場に降り立ちます。
ぎゅーちゃんを見送ったレンさんは、それからボクの隣に戻ってきて、当たり前のように、膝の上に頭を乗せて来ました。
別に、良いんだけどね。ユウリちゃんにもよくやるし……。
そういえば、ユウリちゃんは大丈夫かな。暑さにだいぶ参っていたから、ちょっと心配です。そう思いながら、レンさんの頭を撫でます。
「むー!」
すると、レンさんが膝の上で、不機嫌そうに頬を膨らませました。
「ど、どうしたの?」
「ネモ様が、他の女の事を考えながら、私の頭を撫でています!」
「な、なんで分かったの……?」
「分かりますよ。ネモ様は、かなり分かりやすいですから。どうせ、ユウリさんを心配していたんですよね。大丈夫ですよ。ユウリさんは、暑さに負けるほどやわではありません。ダークエルフの方々に任せておけば、すぐに良くなるはずです。だから今は、私に集中してください。じゃないと私、いじけちゃいますからね!」
どうして頭を撫でただけで、ユウリちゃんの事を考えていたのが分かるのか、凄く気になります。分かりやすいとか、よく言われる事だけど、さすがにそこまで分かられると、不気味だよ。
でも、レンさんの言う通り。ダークエルフの人たちに任せて、ちょっと休めば、すぐに良くなるはずだ。
「……うん。分かった」
ユウリちゃんの事は一旦置いておき、レンさんの頭を、優しく撫でます。柔らかな髪の感触は、上質で、とてもきめ細かくて、ディゼの尻尾とはまた別の、触り心地です。
「……」
闘技場に現れたぎゅーちゃんに対し、観客からは、可愛いと言う声が飛び交います。黒髪おかっぱの、浴衣幼女……とてもではないけど、戦うようには見えないよね。手ぶらだし。
同じく闘技場に姿を現わした、槍を手にしている相手のダークエルフの女性が、戸惑っています。
「次の対戦は……ダークエルフの戦士、ヤーマル対、ぎゅ、ぎゅーちゃん?です。始めてください!」
戸惑う対戦相手のダークエルフをよそに、審判が試合開始の合図を出しました。観客も含めて、その場にいる誰もが、ぎゅーちゃんが本当に戦うのかどうか、固唾をのんで見守っています。
「くっ。ほ、本当に、戦って良いのか、コレは……」
「……?」
相手が襲い掛かってこないので、痺れを切らしたぎゅーちゃんが、仕掛けました。
「ぼはっ……!」
ぎゅーちゃんの手が、対戦相手の女性のみぞおちに、深くめり込みました。その衝撃に、相手の女性は空を飛び、柵に当たって止まります。完全に気絶して倒れた相手の女性は、そのまま地面に、おかしな体勢で倒れこみました。生きてはいるけど、あまりのダメージにしばらくは起きないと思います。
それを見ていた場の人たちが、静まり返りました。闘技場に降り立った、一人の幼女の化け物じみた戦いに、観客は戦慄しています。
「しょ、勝者……ぎゅーちゃん……!」
それまで堂々と結果を発表していた審判ですら、声に戸惑いを感じます。
結局、次の試合も呆気なく勝ってしまったぎゅーちゃんのおかげで、ボク達の勝利が確定しました。レンさんの言っていた通り、ボク抜きで勝ってしまって、皆凄いと思います。
勝負が終わると、観客の人たちはぎゅーちゃんに戸惑いつつも、拍手を送ってくれました。それは、負けてしまった自分たちの代表者と、勝者であるボク達両方に向けられた拍手です。聞いていて、とても気持ちの良い物でした。
よく考えたら、こんなに大勢の観客の前で戦うとか、ボクにはハードルが高すぎるので、助かったよ。皆には、感謝しないといけないね。
「……」
そんな中で、ふと立ち上がったヘレネさんに、皆の注目が集まります。




