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 再び距離をとったラシィさんに、レンさんは悔し気にしています。

 ボクは、紋章魔法に関しての知識は、全くない。でも、レンさんがラシィさんを攻撃できなかったのには、明らかな理由があると分かります。


「バレましたね。紋章魔法は、一度に発動させる事ができるのは、基本的に一つまでです。紋章魔法に関して知識がないうちに、やってしまえば良かったものを……レンは、案外バカですね」


 そう言ったイリスの口を、ロガフィさんが塞ぎました。

 レンさんを、バカよわばりしたイリスが気に入らなかったみたいだ。ユウリちゃんだったら、殴ってるよ。そこにいるのが、ロガフィさんで良かったねと思います。

 でも、紋章魔法が、一度に一つしか発動させる事ができないとか、知らなかったな。それを、一瞬にして見破ったラシィさんは、やはり戦いなれているんだなと思います。

 ただ、一つ不思議に思ったのは、どうしてレンさんと再び距離を取ったのかな。あのままレンさんに突っ込めば、紋章魔法を発動できないレンさんの、懐に入り込むことができたかもしれない。

 あえて再び距離を取ったのは、無意味に思えます。


「……どうして、距離を取ったんですか?」

「せっかくですから、もっと色々な紋章魔法を見せて欲しいと思いまして」

「ふふ……。貴女も、甘い方のようですね」

「気付いちゃいました?実は、そうなんです。でも、甘いのはお互い、ここまでにしましょう。次からが、本番です」

「……はい」


 レンさんは、懐から新たな紋章魔法の描かれた、紙を取り出しました。それを天に掲げると、レンさんの頭上に紋章が出現しました。その紋章は、燃えるような赤色に光り輝いていて、レンさんの身体も、その赤色に包まれます。

 今までに、見た事のない紋章魔法です。光に包まれるレンさん自体が、雰囲気が変わったように見えます。


「……」


 そんなレンさんの様子に警戒しつつ、ラシィさんはレンさんの周りを歩いて、背後に回ります。レンさんは、そんなラシィさんの動きに合わせる事もなく、その場でじっとして、待ち構えるだけです。

 レンさんの周囲には、まだ先程バラまいた、紙が残っている。それらは、今現在レンさんが発動させている紋章魔法を消さない限り、発動させる事はできない。その魔法が発動している限り、足元の紙は、脅威にはなりません。

 そう判断して、ラシィさんが背後から、レンさんに向かって突撃しました。できるだけ、紙を踏んで破りながら、地面を蹴り、猛然と突っ込んでいきます。


「……ウェスタトニス」


 背後から襲い掛かった来たラシィさんに反応するように、レンさんが纏っていた赤い光が、一層激しく赤い光を放ちだします。やがてその光は、本物の炎へと姿を変えて、レンさんの周囲に放たれました。

 炎は、自在に動き回ると、ラシィさんへと襲い掛かります。襲い来る炎を、ラシィさんは拳で防ぐと、炎の攻撃は一旦攻撃は止みました。

 そして再びレンさんへ目を向けると、ラシィさんの目の前に現れたのは、炎を身に纏い、炎の翼を背にはやし、炎の剣を手に持った、レンさんの姿です。その姿は、控えめに言って、とてもカッコイイです。


「勇ましい姿ですが、その炎を纏っている間、貴女は別の魔法を発動させる事はできない。つまり、どこからでも、攻撃を仕掛け放題という事になりますねっ!」


 ラシィさんは、そう叫んで、再び地面に拳をぶつけました。すると、地面が隆起し、レンさんから自分の姿が確認できないよう、壁を作ります。その間に、ラシィさんは壁を利用し、レンさんに見つからないよう、その姿を隠します。

 ラシィさんの位置を、レンさんに教える事は、上から見ているボク達にとって、簡単です。でも、ボク達は誰も、教えたりはしませんでした。それは、2人の勝負の邪魔をしたくないというのと、今のレンさんなら、なんとなく負けたりはしないような気がしたからです。

 それでもボクは、心配でディゼの尻尾を握る手に、思わず力が入ります。

 尻尾はもふもふで、心地良いです。


「……」


 レンさんが、ゆったりとした動きで、炎の剣を空に掲げました。すると、レンさんが身に纏っていた炎が、空に舞い上がり、そして雨のように地面に降り注ぎます。

 突然の上空からの攻撃に、ラシィさんは自分の身を守るため、先程自分が隆起させた地面に拳をぶつけ、その形を変えさせました。隆起した地面は、先端が割れて、傘のような形に変化しました。それにより、降り注ぐ炎から身を守る事に成功したラシィさんだけど、ラシィさんの位置は、それによってレンさんに伝わりました。

 レンさんは、そんなラシィさんに向けて、炎の剣の先端を向けます。


「トニスラース」


 次の瞬間、レンさんの炎の剣が、とても巨大な、竜の姿をした炎へと姿を変えて、ラシィさんに向かって襲い掛かります。竜の姿の炎は、大迫力で、大地を震わせるほどの威力です。その迫力に、観客は歓声と悲鳴をあげ、逃げ惑う程です。


「……スゥ」


 迫りくる竜の炎を前に、ラシィさんは逃げる訳でも、隠れる訳でもなく、息を整えながら、静かに、キレイな構えを見せました。一見すると、無謀にも見えます。それは、わりと小柄なラシィさんの見た目のせいかもしれません。だけど、忘れちゃいけないのが、ラシィさんもダークエルフの戦士で、レベル50という、高レベルの人だと言う事です。


「──グランド、スラム!」


 ラシィさんが突き出した拳が、レンさんの炎とぶつかりあいました。ラシィさんが、拳を突き出すために踏み込んだ足が、地面にめり込んで、地面にヒビをはやしています。両者の、力と力のぶつかり合いは、衝撃波となって周囲に広がります。


「……くっ」


 最初は、互角に見えたぶつかり合いだけど、地の力で、レンさんはかなり不利だ。放たれた炎は、段々とその勢いを失っていくと、それを好機と見たラシィさんの拳により、砕かれてしまいました。振りぬかれた拳の衝撃は、炎全体にその威力を通し、炎を放っていたレンさんにまで向かって行くと、レンさんの身体が後方に弾き飛ばされました。

 地面を滑り、転がっていくレンさんは、その身に宿していた炎も消え去ってしまい、とても痛そうです。


「レンさん!」


 思わず身を乗り出そうとするボクだけど、ディゼが手を繋いできて、落ち着くようにと目と手で訴えて来ます。それを見て、ボクは乗り出しかけた身体を、座り直しました。


「コレで、終わりですね!」


 地面を転がり、未だに倒れているレンさんに向かい、ラシィさんが駆けだします。それでも、レンさんは倒れたままです。

 勝負は、決したかと思われたけど、レンさんに襲い掛かろうとしたラシィさんの足が、突然止まりました。そして、倒れているレンさんを睨みつけて、ややあってからため息を吐きつつ、手を挙げます。


「……あたしの、負けです」


 突然の、敗北宣言でした。

 よく見れば、ラシィさんの足元に、レンさんが描いた紋章の刻まれた、紙が落ちています。その紙は、何かの魔法を発動させる直前だったのか、僅かながらに光を帯びていたけど、敗北宣言を受けて光が消え去りました。


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