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正当な戦い


 イリスはその身に、精霊のセレンを宿している。セレンの力を使えれば、それなりに強くなれるはずだけど、イリスは持ち前のマナの少なさから、しょぼい魔法しか使う事ができません。

 身体能力は、見た目の年齢以下。魔法も、ろくに使えない。そんな状況で、自分より遥かに体格の大きな相手を挑発し、対峙している。


「イリスさん、勝てるんでしょうか……」


 心配そうに、観客席から見つめるボク達をよそに、イリスは余裕たっぷりだ。


「あの様子、何かを隠しているのではないか?」

「ボクも、そう思うよ。あのイリスさんが、自分から戦いに出るなんて言い出した時から、何か変だと思ってたんだ。加えて、あの自信。絶対に、何かあるよ」

「……」


 ディゼとアンリちゃんが、それぞれ憶測を言います。

 でも、ボクは何もないと思う。だって、あのイリスだよ。いくら相手が、満身創痍のダークエルフだからと言って、勝てる見込みはないと思う。例え相手が、手負いのウサギだったとしても、無茶だよ。


「イリスは、私を信じてくれた。私も、イリスを信じる」


 でも、ロガフィさんまでイリスを信じているので、ボクは何も言えなくなってしまいます。

 いや、ボクも信じてるんだけどね。ある意味で。


「次の試合は、ダークエルフの戦士、ガイチィ対、エルフの少女イリス!試合を始めてください!」


 ボクの心配をよそに、試合が始まってしまいました。仕切り直しとなるため、ガイチィさんはその手に、斧を握り直しています。

 それでも、身体のダメージは、消す事ができない。全身血まみれで、鼻血も未だに止まっていないのに、凄い根性です。それもこれも、イリスに対する怒りが、彼女を突き動かしているのかもしれません。

 そんな頑丈なガイチィさんだからこそ、ロガフィさんを降伏させるための相手として、選ばれたんだね。


「行くぞ、エルフのクソガキィ!」


 ガイチィさんが、雄叫びをあげ、斧を振り上げました。対してイリスは、未だに腕を組んだままで、構えもしません。

 勝っても負けても、お願いだから、怪我だけはしないでほしいです。


「ふっ。降伏します!」

「……は?」


 ガイチィさんの、イリスに向かって振り上げられた斧が、むなしく下げられました。

 イリスの降伏宣言に、呆然としたのはボク達だけではありません。見学者や、目の前で降伏を宣言されたガイチィさんも、呆然としています。


「今……なんつった?」

「だから、降伏します。私の、負けです」

「なっ、なっ、何を言って……!ふざけるんじゃないよ!戦いな!降伏なんて、認めないよ!」


 ようやく、頭が追いついて来たガイチィさんが、激昂します。アレだけ挑発されておいて、いざ戦いの場になったら逃げるイリスに対し、怒る気持ちはよく分かります。


「貴女が認めなくとも、審判は認めるでしょう」

「しょ……勝者、ガイチィ!」

「ふざける、なあぁぁ……!?」


 審判が、そう宣言をした時でした。ガイチィさんが、糸が切れた人形みたいに、突然その場に倒れこみました。肉体へのダメージに加え、イリスに対するあまりの怒りが負担をかけてしまったみたいで、そこで限界が来たみたいです。

 でも、大丈夫。HPはまだ、5あります。ギリギリ、死んでいません。すぐに、救護のダークエルフが駆け寄って、治療を開始しているので、たぶん大丈夫。


「あ、ある意味、一人倒しましたね……」

「ああ。ある意味、凄いな……」


 レンさんと、ディゼが、呆然としながらも、自らの降伏と引き換えに、相手を一人倒したイリスを褒めています。凄く、複雑そうだけど、倒した事には関係ないという事で、良いんじゃないかな。


「あはは」


 ボクは、ある意味勝利を収めて、誇らし気なイリスの姿を見て、笑いました。イリスらしいと言えば、イリスらしい勝ち方です。相手を怒らせて勝つとか、そんな事できるの、イリスくらいだよ。

 イリスは、倒れたガイチィさんに目を向ける事もなく、ボク達の待つ観客席へと戻ってきました。


「おつかれさま、イリス」

「ええ、本当に疲れました。誰か、足を揉んでください。それから、肩も。言葉で私を労うのも大切ですが、本気でそう思うのなら言葉だけではなく、行動で示してください」


 出迎えたボクを尻目に、イリスはイスに座ると、靴を脱いで、素足を曝け出しました。大した運動はしていないのに、わざと疲れた様子を演出し、ボク達に対して、奉仕を要求してきます。

 ユウリちゃんがいたら、喜んで食いついていたと思う。イリスの身体を、イリスの許可を得て、触り放題だからね。そのユウリちゃんがいない今だからこそ、ここぞとばかりにそんな事を言ってきている。


「戦い方はどうあれ、イリスさんがガイチィさんと引き分けたのは、事実です。これで、相手のチームを、一人減らす事ができました。勝負はまだまだ、これからです」

「そうだねー。イリスさんの、卑怯なような、堂々としたような、よく分からない活躍で、あの頑丈そうな女の人を倒せたのは、大きいんじゃないかな。あの人、本当に死ぬまで止まらなそうだったし」


 イリスが座ったイスの下で、顔だけ出して笑いながら言うアンリちゃんは、ある意味で正しい。ロガフィさんが降伏して、ガイチィさんは勝ったけど、イリスに対しても同じように、止まる様子はなかった。ボク達の、イリス以外の誰かがまともに戦ってたら、ガイチィさんは本当に死んでしまっていたかもしれない。

 だから、イリスのおかげで、彼女の命を救う事ができたとも言えると思う。本人にその気は全くなかったと思うけど、結果としてそうなりました。


「卑怯ではありません。正当な戦いです。素直に私を褒めて、崇めなさい。そして、奉仕するのです。とりあえず、冷たい飲み物を持ってきなさい」

「ユウリさんがいないからといってあまり調子に乗ると、チクりますよ」

「……やっぱり、いいです」


 レンさんの警告に対し、イリスは一瞬にして、おとなしくなりました。ユウリちゃん効果、絶大です。


「……イリス」

「な、なんですか?」


 おとなしくなったイリスの前に、ロガフィさんが立ち、その名前を呼びました。そして、抱きしめます。力強く抱きしめてから、そしていつものように、自分の膝の上にイリスを乗せて、座りました。

 本当に、仲の良い2人です。今回の事で、また距離が縮まったんじゃないかなと、思います。


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