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強くて、優しくて、可愛い


 突如として、立ち上がったボクに、皆の視線が集まります。それを見て一瞬、座りなおそうかとも思ったけど、そうはいきません。


「ろ、ロガフィさんは、ボク達の大切な仲間です。ロガフィさんが、弱いと言うなら、それを仲間のボク達がフォローして、支えます。だから、ロガフィさんは勝てます」

「ロガフィ様の仲間だという貴女の言葉こそ、私が信じる要素が、何一つありません。大体にして、貴女達は人。私たちは魔族。この関係性がある以上、信頼する事ができない。……ですが、ロガフィ様を匿っていただいた事は、事実。また、ロガフィ様と貴女達の関係性は、とても良好なご様子。ならばどうか、お帰りください。ロガフィ様が無事であるなら、私はそれでいいの。それ以上の事は、ロガフィ様には荷が重すぎます。だからどうか……帰って、安寧にお過ごしください」


 そうお願いをされて、ボクはハッキリとした事が分かりました。


「……貴女の方こそ、ロガフィさんを信じていないじゃないですか」


 ヘレネさんが、ロガフィさんを大切に想っている事は、分かる。だけど、ロガフィさんに荷が重すぎるとか、ロガフィさんには出来ないとか、この人の言葉には、ロガフィさんに対する信頼がない。

 過去に一度、何をされても怒らない、抵抗しないロガフィさんを見ての影響かもしれないけど、それでも、ロガフィさんに対する信頼がなさすぎる。


「信じています」

「いいえ、信じていません。貴女は、ロガフィさんの言う事を全て否定して、何も信頼していません。だから、ロガフィさんの決意を無視して、帰れだなんて言えるんです。あと、言っておきますけど、ロガフィさんは貴女が想うほど、弱くなんてありません!凄く強くて、優しいんです!あと、可愛いです!強くて、優しくて、可愛いなんて、それこそ最強です!」

「な……何を言っているんだ?」

「……滅茶苦茶ですね。でも──」


 ボクが言い切ると、カーヤさんが呆然とし、ヘレネさんも呆然とします。


「ネモさんが、ロガフィ様を大切に想ってくれている。その事は、よく伝わったわ」

「じゃ、じゃあ……」

「それでも、信じる事はできない。ロガフィ様は負けるだろうし、人間である貴女の言葉を聞き入れる事もできないわ」


 ヘレネさんには、もう何を言っても、通じない気がしてきました。ボクの言葉は、ボクが人間である限り、彼女が聞き入れてくれる事はない。それでは、何を話したところで、無駄になってしまうだけだ。レンさんのお父さんを説得した時より、遥かに難易度が高いです。

 だけどよく考えたら、別にヘレネさんに認めてもらう必要はない。今回は、連れて行くとか、連れて行かないとかという話ではないし、信じてもらえないなら、それで良いです。

 ロガフィさんの言葉を信じてもらえないのは、ちょっと悔しいけど、信じてくれないのなら、実証すればいいだけの事だからね。


「──黙って聞いていれば、随分と生意気な小娘だことですね」


 そう呟いたのは、イリスだ。ロガフィさんの膝の上に腰かけ、威風堂々とした口調で、話し出します。


「小娘とは、私の事?」


 ヘレネさんが、そんなイリスに向かって、首を傾げながら尋ねました。展開的に、それ以外ない。分かっている上で、わざとそう尋ねた。


「エルフの小娘に、小娘と言われる筋合いはないのだけれど」

「たかだが数百年生きただけの小娘は、小娘以外に何と言えばいいのか、私には分かりません。が、今は小娘の定義に関して言いたい訳ではないので、ヘレネと呼ばせていただきます。いいですね、ヘレネ」

「貴様!族長様に対して、失礼だぞ!」


 そんな、生意気な口調なイリスに対して怒ったのは、カーヤさんだ。怒鳴って立ち上がり、イリスを睨みつけます。

 でも、そのイリスは、彼女たちが慕う、ロガフィさんの膝の上にいる。だから、下手に手を出す事は出来ず、その場で立ち上がっただけにとどまります。


「いいわ、カーヤ」

「ですが……!」

「それで、イリスさんは私に、何が言いたいのかしら」

「できるとか、できないとか、そんなの関係ありません。私たちは、やるんです」

「……もしやとは思いますが、貴女達はロガフィ様を利用して、ただ魔王様を倒す事だけを目的としているのでは?」

「そんな事はありません!」


 そう言われ、怒ったのはレンさんだ。怒って立ち上がろうとしたけど、それをディゼが止めました。


「私は、人間からは忌み嫌われる、汚れた血の流れる亜人種だ」


 レンさんを止めたうえで、静かに話し出します。また、自分の事を汚れたとか言い出した事により、レンさんの眉毛がピクリと動いて、ちょっと怒っています。


「はい。人間の、亜人種に対する差別を、私たちはよく知っています」

「そんな、忌み嫌われる私を、この人たちは差別するどころか、奴隷身分だった私を解放し、仲間に迎え入れてくれた。そこには、差別など何もない。本当に、普通に……家族のように迎え入れてくれたんだ。信じるとか、信じないとかは、別に良い。それは、貴女の勝手だ。しかし、亜人種である私を優しく迎え入れてくれた、この人たちを貶めるような発言は、看過できない。先ほどカーヤさんが、イリスさんにレオヘレネさんが軽口を叩かれて怒ったのと、同じ事を私も感じる。だから、今の発言は取り消してほしい」

「……残念ながら、それはできません。先程は、人間だから信頼できないと言いましたが、アレは詭弁です。本当は、ちゃんとした理由があり、貴女方を信頼できないのよ」

「その理由とは?」

「年端もいかないエルフの少女と、うら若き乙女を奴隷として使役する者を、どうして信頼できると言うのかしら」


 そんな酷い人は、ボク達の中にはいない。ヘレネさんは、何かを勘違いしている。そう思って反論しようとしたけど、皆の視線がボクに集まっていて、思い出しました。

 ボクは、ユウリちゃんとイリスに、奴隷紋を刻んでいて、身分上はボクの奴隷という事になっている。ただでさえ、人間に対して悪いイメージを持っていそうなヘレネさんのイメージを、更に悪くするような事実だ。


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