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最弱の魔王


 ロガフィさんが生き延びたいきさつを、知っている限りの事を話し、ヘレネさんは頷きました。勿論、説明をしてくれたのはボクではなく、レンさんとロガフィさんが中心となり、話しました。ボクはその間、黙って聞いていただけです。

 それから、これからの目標も、ロガフィさんは構うことなく、伝えました。これからの目標……つまり、今の魔王を倒すと言う事だね。

 そちらに関しては、話すのにちょっとリスクがあると思う。でも、ヘレネさんは特に驚く様子もなく、聞き入れていました。


「──私たちはロガフィさんに協力し、魔王を倒すため、この地へと辿り着いたんです」


 レンさんがそう締めくくり、話は終わりました。けっこう時間はかかったけど、できるだけ細かく話せたと思います。


「……話は、分かりました。ロガフィ様が生きていたという事実は、私たち穏健派にとって、とても喜ばしき事。本当に、どんな形であれ、生きていてくれて良かった……」


 ヘレネさんは、ロガフィさんの身に降りかかった事を、涙ながらに聞いていました。カーヤさんも、同じです。ロガフィさんは、本当に辛い思いをしたと思う。

 それでも今、立ち上がり、自分のお兄さんを倒す決意を見せている。


「──ですが、今の魔王様。ザルフィ様を倒すなどという行為は、看過できません」


 まさか、ヘレネさんがそう言うとは思いませんでした。ボクは、てっきり喜んで協力してくれると思っていたのに、予想外です。


「どうして、でしょうか。今の魔王さんは、ロガフィさんにとても酷いことをしました。ロガフィさんが生きていた事を、喜んでくれる貴女達にとって、許しがたい存在のはずです」

「確かに、ザルフィ様はロガフィ様に、酷いことをしました。それは、とてもではありませんが、赦す事の出来ない、深き罪です。だからと言って、ロガフィ様を、ザルフィ様の下に行かせる訳にはいきません」

「何故。私は、お兄ちゃんに会って、倒す」

「……ロガフィ様。貴女では、ザルフィ様に勝つ事はできません。だからどうか、諦めてください」


 ズーカウの話を聞く限り、ロガフィさんは、今の魔王よりも強いはずだ。

 でもそれは、アスラの力を授かる前の話であり、もしかしたらヘレネさんは、今の魔王が女神の力を授かった事を、知っているのかもしれません。


「勝てる」

「勝てません。勝利とは、ザルフィ様が死んで、そこで初めて勝利と言えます。しかし貴女が、身内であるザルフィ様を殺める事は、不可能です。殺せなければ、再び同じ事がおこるだけ。それなのに、貴女を行かせる訳にはいきません」

「……出来る。私は、お兄ちゃんを止めるため……殺せる」

「……無理です」


 そう言い切るヘレネさんは、確信めいた物を持っているようです。

 確かに、ロガフィさんは、優しすぎる。本当に、自分の実のお兄さんを前にして、本気で戦えるのか疑問です。でも、ここまで言っているのだから、ちょっとくらい信じてあげてもいいと思う。

 でも、ちょっとじゃダメなんだ。絶対じゃなきゃ、ヘレネさんの懸念を振り払う事はできない。


「でも、やらないと、ジェノスを助ける事が出来ない。精霊も……お兄ちゃんに殺されて、怒っている。これ以上は、もうダメ。お兄ちゃんは、止めなければいけない。じゃないと、世界中の人たちが、不幸になる。だから、やる」


 無理だと言い切るヘレネさんに対して、ロガフィさんは静かに反論をしました。その言葉には、ロガフィさんの精一杯の想いが籠められている。本当は、ロガフィさんだって、実のお兄さんを殺したくなんて、ない。でも、向こうがロガフィさんの大切な人を不幸にしたり、精霊のセレンの故郷を攻撃したりして、その愚行は留まる事をしらない。

 今、何かを起こそうとしている魔王を、止めなければいけない。加えてボクの事情を知って、ロガフィさんは更にやる気を出して、魔王討伐に協力してくれると言ってくれました。

 ボクは、そんなロガフィさんを信じています。


「……無理です、ロガフィ様。貴女がいくら、やると言っても、貴女にはできません」

「……どうして?」

「だって貴女は、貴女の大切な方々をザルフィ様に殺されて、それで怒るどころか、全てを諦めてしまったではないですか。更に、ザルフィ様は貴女に対し、筆舌に尽くしがたい苦痛を与えました。それでも貴女は、怒らなかった。ザルフィ様に対し、無抵抗を貫き、平和を訴えた。あの時、怒ればよかったのに……あの時、抵抗すればよかったのに……それでも貴女は……実の兄であるザルフィ様に対し、拳を突き出す事ができなかった……。貴女が、心優しき魔王だという事は、よく理解しています。ですが、貴女は優しすぎるのです。平和を訴えるだけでは、平和は訪れない。誰も、守れない。時には力の行使も必要なのに、それを極端に嫌う。貴女は最強の魔王であると同時に、最弱の魔王でもあったのです」

「……」


 ロガフィさんは、最弱の魔王と言われ、その目を元気なく伏せました。何も、反論をしようとはしません。

 ヘレネさんは、お兄さんに反抗を起こさなかったロガフィさんを、暗に批判している。あの時戦えなかったロガフィさんが、今頃になって戦うと言って、魔王討伐に乗り出したところで、全てが遅すぎる。また、あの時戦えなかったロガフィさんが、今更になって戦うと言って意気込んだ所で、同じ事の繰り返しになる。そういう事だ。


 でも、そんなの関係ない。昔は確かに、ちょっと頼りない魔王だったかもしれない。でも今は、違う。大切な人が、不幸になると聞いて、ボク達の制止も聞かずに、飛び出して追いかけようとした。今のロガフィさんは、守るためには、何をすべきか分かっている。ヘレネさんには、昔のロガフィさんではなく、今のロガフィさんを見てもらいたいです。

 だから、ボクは立ち上がりました。勢いよく立ち上がり、ロガフィさんの代わりに、言います。


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