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お肉


「初クエスト達成、おめでとうございまーす!」


 ギルドに帰ってきたボク達を、イオさんは盛大に祝ってくれた。けど、たかだかお手紙の配達でここまで祝われると、とても恥ずかしい。


「では、クエスト報酬の980Gになります。どうぞー!」


 ボクは、封筒に入れられたお金を受け取って、それでクエストは本当に終了。イオさんは、拍手で、お金を受け取るボクを盛り立ててくれた。


「お。初クエスト達成か。これからよろしくな、嬢ちゃん!」

「初クエスト、おめでとさん!」


 それに触発されてか、周りの冒険者の人たちも、お祝いの言葉と、拍手を送ってきてくれた。ボクは恥ずかしくなるけど、頭を下げて、お礼。それから、ユウリちゃんの後ろに隠れた。


「お腹が空きました。そのお金で、ご飯を食べていきましょう!」


 道中ほとんどボクが運んであげたのに、イリスが偉そうにそう言い出す。

 イリスは、ギルドに着く直前くらいで目が覚めた。それまでは寝言を言いながら、健やかな寝息をたてて眠っていて、行きの時もそうだけど、よくあんな体勢で眠っていられるなと、感心させられてしまいました。


「ご飯でしたら、下のレストランがありますけど……980Gでは、1人分のご飯にしかなりませんね」

「私の分があれば、十分です」

「ダメですよ。ご飯代は、節約のために自炊です。ただでさえ、お昼にいっぱい食べたんだから、我慢してください」

「で、でも、私だって頑張ったんですから、分け前をきっちりください!」

「ほとんどお姉さまに運ばれて、何もしていないでしょう。とにかく、ご飯は家に帰ってからです」

「そんなー……」


 イリスは、がっくりと肩を落とした。

 そもそも、お金を節約しなくてはいけないのは、イリスのせいなんだから、それくらいは我慢してもらわないと。


「それではイオさん。私達はお家に帰ります。明日また来るかもしれませんが、よろしくお願いしますね」

「はい、お待ちしていますね。おつかれさまでしたー」


 手を振って見送ってくれるイオさんに、ボク達も手を振ってギルドを出た。

 今は、丁度夕暮れ時。2階のギルドカウンターから、1階の食べ物屋さんを通り抜けての外への道は、いい匂いのする誘惑の道でした。特に、お肉を焼く匂いが、充満している。その間イリスの涎は、ノンストップ。しかも、匂いに誘われるがまま歩いてどこかへ行こうとするので、ここでもボクは、イリスを担いで連れて出て行った。


「ああー……ステーキ!お肉、お肉!」


 手を伸ばすイリスだけど、その手はお肉に届かない。

 チラっとお値段を見たけど、ステーキ定食は安くても2000G。今日の稼ぎの、倍のお値段だ。そんな物を食べていたら、お金は絶対にたまりません。

 ボク達は、足早にその場を去った。


「2人には黙っていましたが、私はステーキを食べないと死んでしまう身体なのです。今すぐ戻って、お肉を食べましょう。さすれば、必ずや貴方達に、幸運が舞い降りるはず」


 しばらくして、イリスはボクの腕から離れ、自分で歩いている。

 そして、まるで女神のような優しげな表情で、ボクとユウリちゃんの行く手を阻み、そんな事を言い出した。それを見て、道端のご老人が、ありがたそうに手を合わせてお祈りを捧げたりしてるけど、ボクとユウリちゃんはスルー。


「今日のご飯は、どうするの?」

「そうですねー。野菜を少し、買って帰りましょうか。それで、野菜炒めでも作って、それから──」

「無視ですか!そうですか、無視ですか!そっちがそのつもりなら、私もう他の家の子になっちゃいますからね!」

「よ、良かったら、おじちゃんのお家に来るかい?お肉、あるよ」


 大きな声で、そんな事を宣言したイリスに、小汚いおじさんが声をかけた。どうやら話を聞いていたようで、イリスをお肉で釣ろうとしている。

 余計な事を言うから、余計なイベントが発生してしまったのだ。ここで選択肢を間違えれば、イリスはBADEND一直線になるだろう。


「……いえ、遠慮しておきます」


 イリスは、急に冷めた目になり、おじさんを避けてボク達に駆け寄ってきた。そして、ボクの服の裾をしっかりと握り、身体を密着させてくる。 


「お肉、食べさせてくれるみたいですけど、いいんですか?」

「……」


 嫌味っぽくいうユウリちゃんを、イリスは忌々しげに睨み付ける。

 いくら子供っぽいイリスでも、アレにお肉で釣られてついていくほど、バカではないみたいで、ちょっと安心した。


「だ、大丈夫。おじさんは、何もしない。だから、ほら。おいで、こわくなーいよ」


 おじさんはまだ諦めていなくて、イリスを追いかけ、満面の笑みを浮かべ、ボク達に近寄ってきた。

 ボクは、軽く地面を踏み鳴らすと、おじさんの足が止まる。ちょっと地面にヒビが入って、大きな音がしたことにより、おじさんに対する警告になった。


「ぐ……」


 そして、おじさんは慌てて去っていく。

 去り際に、地面に唾を吐いて行ったのが、ちょっとムカっと来ました。


「もう、余計な事をして、お姉さまのお手を煩わせないでください」

「う、うるさい。しょうがないでしょう、前は毎日高級ステーキ三昧だったんですから……禁断症状が出てきているんです」

「女神が毎日高級ステーキとか、どういう設定なんですか、女神って……」


 ユウリちゃんの気持ちは、よく分かる。イリスを見ていると、女神という、人間から見たら崇高な存在のイメージが、どんどん破壊されていく。

 まぁ、だから女神をクビになって、こんな所にいるんだろうけど。


「はぁ……仕方ないので、お肉屋さんに寄って帰りましょうか。いいですか、お姉さま?」

「うん。ボクは、いいよ」


 節約はしないといけないんだろうけど、とりあえずの資金は、まだ潤沢だ。たまになら、いいんじゃないかなと思う。


「本当!?お肉、食べれるんですか!?」

「今日は初クエスト達成のお祝いもかねて、特別です。ただし、買うのは安いお肉ですからね」

「お肉ー!そうと決まれば、早く帰りましょう!私はもう、空腹で死にそうです!」


 急に元気になったイリスが、ボクとユウリちゃんの腕を引っ張って、早く歩くように促してくる。ボクは、そんなイリスに苦笑い。


「そんなに急かさないでください」


 なんやかんやで、イリスに甘いユウリちゃんも、ボクと同じで苦笑い。ただ、はしゃぐイリスは可愛くて、とても癒される。

 ボク達は、イリスに引っ張られるがままに、お肉屋さんを目指しました。


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