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暑いときに食べるアイス


 そんなしょぼい魔法も、今この場では、凄く役に立つ魔法に思えます。ドヤ顔を決めて言い放ったイリスが、女神様のように見えて来ました。実際、元女神だけど。

 ボクは、イリスの手を自分の頬にあてて、ひんやりとしたその感触を確かめます。本当に冷たくて、気持ちが良い。いつまでも、こうしていたいです。

 ロガフィさんも、夢中になってイリスの頬に、手を挟んで頬ずりし、気持ちよさそうにしています。


「つ、冷たいんですか……?」

「私にも……ください」


 抱き合っているユウリちゃんとレンさんが、涼を求めて近寄ってきました。その足取りはとても重く、声に覇気がありません。本当に、この2人大丈夫かな。ちょっと心配になるけど、ステータスを開いてみると、HPはまだ90以上あるから、たぶん平気だ。


「は、はい。どうぞ」


 ボクは、イリスの手を、ユウリちゃんに渡しました。ユウリちゃんがその手を握った瞬間、喜々として頬ずりをしました。もう片方の手も、ロガフィさんがレンさんに明け渡し、その手を頬ずりします。ひんやりとしたその手の感触に、2人とも本当に気持ちが良さそうに、目を細めます。


「私の手を、何だと思っているんですか、貴女は……!」


 勝手にユウリちゃんに手を渡されたイリスが、ボクを睨みつけて来ました。そんな事言われても、ユウリちゃんが可愛そうだから、仕方ないじゃないか。それに、ロガフィさんには何で怒らないのさ。そんなの、不公平だよ。差別だよ。


「て、それより、いつまで私の手を拘束するつもりですか!私が暑いんですけど!」

「イリスの手、本当にひんやりしてて、最高です……」

「はい。イリスさんが仲間で、私は良かったと思います。さすがは、女神様だと感心させられてしまいますね」

「そうですね。コレはもう、イリス様と崇められる日が、近いんじゃないでしょうか」

「……し、仕方ないですねぇ。今までの無礼な態度を改めると言うのなら、もうしばらく、この美しい手を貸してあげましょう」


 ユウリちゃんとレンさんに、口々に褒められたイリスは、鼻を高くして、その手の所有権を認めました。

 イリス、相変わらずちょろいなぁ。でも、そういう所も可愛いと、ボクは思うよ。ただ、悪い人にだけは騙されないよう、気を付けてね。このちょろさは、少し心配になるちょろさだからね。


「はむ」

「ひん!?何をしているんですか、ユウリ!」

「冷たくて、おいひいでふ……ちゅっ」


 ユウリちゃんが、突然イリスの指を口に咥え、イリスが声を上げました。ユウリちゃんは、構わずにイリスの指を咥えたまま、思うように嘗め回し、恍惚とした表情を浮かべています。

 ユウリちゃんからしてみれば、アイスを舐めているような感触と、同じなのかもしれません。暑い時に食べるアイス、最高だよね。


「人様の指を舐めるとか、何を考えているんですか!や、やめ……やめなさい……!」


 顔を赤くしたイリスが、時折身体を震わせて、必死に訴えます。


「では、私も」

「ひうぅ!?」


 反対側の手も、レンさんが咥えてしまいました。2人でイリスの指を咥えて、ぴちゃぴちゃと音をたて、美味しそうにイリスの指を咀嚼しています。

 冷たくて、気持ちが良いのだろうけど、イリスの様子がおかしいし、絵面もまずくなってきたので、そこまでです。


「えーっと……コレは、どういう状況だ?」


 そこへ、先行して偵察に出ていたディゼが戻って来て、その光景を目の当たりにし、戸惑っています。戻ってきたら、幼女の指を、2人の美少女が舐めているんだから、驚くよね。


「ディゼさんも、どうですか?イリスさんの指、冷たくてとても美味しいです」

「冷たい?」

「魔法です。イリスの魔法によって、イリスの手が冷たくなって、美味しいんですよ」

「魔法で……ごく。いや、それよりも、この先に建物があるのを見つけたんだ。恐らくは、魔族が住む集落だと思われる」


 レンさんとユウリちゃんに誘われて、ディゼは一瞬、喉をならして羨ましそうにしました。2人の唾液により、イリスの手はぐちょぐちょです。そんな指を見たからか、それとも手が冷たいからと聞いたからか、ディゼは本当に一瞬だけ、悩みました。

 でも、そんな誘惑を振り払い、本題に入ります。


「し、集落って言う事は、魔族が住んでいるっていう事だよね……」


 それは、敵側の人たちとの、邂逅を意味します。ここまでは、ただ森を進んできただけで、誰とも出会う事はありませんでした。魔物も、おとなしいタイプばかりで、襲われる事もなかったんです。

 

「発見されないよう、遠目に確認しただけだが、明らかに住んでいる気配はあった。火を使って煙があがっていたし、食べ物の匂いもした。その姿は確認できなかったが……どうする?」

「うーん……」


 どうするとは、接触を試みるか、それとも避けるか、という意味だよね。

 ボクとしては、避けていいと思う。接触して、無駄なトラブルに発展したら、無駄な争いになって、無駄な血が流れてしまうかもしれない。

 だけどね、ディゼ。ボク達は今、恐らくはディゼが見つけた集落の人たちに、囲まれています。だからもう、避ける事はできないみたいです。


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