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皆がついているから


 あまり長くは眠れなかったけど、ボクはその後、ユウリちゃんと一緒に眠りにつきました。久しぶりに、ユウリちゃんとイリスを横に置いての睡眠は、本当によく眠れました。ボクにとって、2人は最高の安眠アイテムなのかもしれません。


「──と、いう訳で、ボクは魔王を絶対に倒さないといけなくなりました」


 翌朝、眠りから覚めた皆の前で、ボクは昨夜のアスラとの約束を、皆に伝えました。別に、隠す必要もないからね。

 ぐるりと円を描いて置かれている木箱の上に、それぞれ座り、皆の視線がボクに集まっています。

 説明が下手なボクだけど、時間をかけ、一生懸命話して、ようやく理解してくれ始めた所です。


「ええと……つまりネモ様は、魔王さんに勝てば、今後はアスラ様に命を狙われる事無く、この世界で平和に暮らしていけると言う事ですよね」

「う、うん」


 レンさんが、寝起きで乱れた髪を整えながら尋ねてきて、ボクは頷いて答えます。


「……私が言うのもなんだが、それでは簡単すぎるのではないか?正直、竜をも凌ぐ力を持つというネモさんに勝てる者が、この世界にいるとは思えない」


 続いて、ディゼが言いました。こちらは、自分の尻尾を膝に置き、ブラシでとかしています。正直、ボクがやってあげたいけど、今は話をするのが先です。

 2人は、すっかり二日酔いが治り、元気になっています。朝起きて、そんな2人の様子を見たボクは、安心しました。元気になって、本当に良かったよ。


「その通りです!ネモ様に勝てる生き物は、この世界に存在しません!早く倒して、解放されたら、家に帰って式をあげましょう。ネモ様のウェディングドレス姿、とても美しいと思います。勿論、私も着ますからね」

「話を飛躍させないでください!どうしてレンさんとお姉さまが式を挙げなくてはいけないんですか!式をあげるなら、私も混ぜてください!それなら、許可します!」

「さ、三人で結婚するのか!?そ、それは……い、良いのか!?普通は、決まった一人とだけするものではないのか!?」

「愛があれば、関係ありません!」


 3人で式をあげると聞いたディゼが、興奮しています。ユウリちゃんはユウリちゃんで、声高に話を飛躍させた事を言い出し、早くも話が脱線し始めました。


「──結婚とか、そんな絵空事は、後にしなさい!」


 そう言い放ったのは、イリスです。イリスは珍しく、朝から目が覚めていて、皆を止めてくれました。昨日、たくさん眠ったからかな。こちらも、二日酔いはすっかり治っていて、元気なイリスとなっています。

 そのイリスが、ロガフィさんをイスのように扱い、偉そうに胸を逸らして座っています。ロガフィさんが招き、ロガフィさんの意思でイリスを乗せているので、ボクは何も言いません。

 昨日は、イリスをほとんどユウリちゃんに取られちゃってたからね。ユウリちゃんの、イリスと一日くっつく約束の効力は、一夜明けた事により、なくなりました。だからもう、ロガフィさんがユウリちゃんに遠慮して、イリスとくっつかない理由はありません。


「ディゼルト。貴女は先程、魔王を倒すのは簡単だと言いましたよね」

「あ、ああ……」

「相手がただの魔王なら、確かに簡単でしょう。ネモ程の力を持つ者を、私は知りませんから。だけど、女神の力を授かったと言うのなら、別です。女神の力とは、本来選ばれし勇者に与えられるべきものであり、世界の邪なる存在に与えられるべき物ではありません。竜ならまだしも……魔王に力を授けるなど、あり得ない事なのです」


 イリスはそう言うと、ボクを睨みつけて来ました。


「……?」

「はぁ……」


 首を傾げると、ため息を吐かれました。ボクは益々分からなくなって、更に首を傾げます。


「魔王に、女神の力を授ける。その場合に何が起こるのか、私には分かりません。敵の強さが、未知数すぎる。それなのに、そんな約束をして貴女はバカですよ。オマケに言うと、アスラがそんな約束を取り付けたという事は、自信があるという事です。この先に待つのは、絶対に、簡単な事ではない。それを、魔王を恨む竜の言葉に乗っかるなんて、どうかしています。負ける可能性だって……!」

「だ、大丈夫だよ。もし、万が一負けても、危ないのはボクだけ──」

「それが、ダメだと言っているんです!」


 イリスが、怒鳴りつけて来ました。本気で怒った様子で、思わず驚きました。

 そんなイリスを、ロガフィさんが頭を撫でて、落ち着かせようとしています。


「イリスの言いたい事も、分かります。勝手にそんな約束をして、危ないのは自分だけだから大丈夫だなんて、勝手すぎますよ。私たちには、お姉さまが必要なんです。それは、お姉さまの力の面の事ではありません。心の問題でもあります。勝手にそんな約束をして……本当は私も、僅かながらに怒っているんですからねっ」


 ユウリちゃんも、イリスに続いてため息を吐いてきました。他の皆も、ボクをじっと見て、呆れ果てた様子で、とても居心地が悪くなります。


「ご、ごめんなさい……」

「──大丈夫」


 謝ったボクに対し、そう声を掛けてくれたのは、ロガフィさんでした。


「大丈夫……?」

「ネモは、私のお兄ちゃんより、遥かに強い。例え女神様の力を授かったとしても、ネモには敵わない。と思う」

「ですから、魔王に女神の力を授けるなど初めての事で、何がおこるか分からないんです」

「それでも、ネモが勝つ。絶対に。私も、力を貸す。精霊を殺したお兄ちゃんは、もう止めるしかない。また同じ過ちを繰り返さないためにも……ネモに協力して、私も戦う。だから、勝つ」


 確かに、元魔王であるロガフィさんも協力してくれるのなら、これほど頼りになる存在はいない。ボクには、元女神に、元魔王がついているんだ。それにボクは、元勇者だ。負ける要素がどこにも見つかりません。


「……セレンも、力を貸すと言っています」

「当然、ボクもだよ!」


 オマケに、イリスと同体化している、精霊のセレンと、幽霊のアンリちゃんも、そう言ってくれました。セレンの言葉は、イリスが代弁して伝えてくれたよ。


「……」


 幼女の姿のぎゅーちゃんも、座っているボクの身体に抱き着いて来て、協力すると言ってくれています。

 周りを見渡せば、皆がいて、やっぱり負ける要素がどこにもないと思います。今のボクは、一人だった頃よりも格段に強くなっている。だから、例え女神の力を授かった魔王が相手だとしても、絶対に、絶対に負けたりはしません。


「約束してしまったものは、仕方がありません。ですが、勝ちなさい。何があっても、勝つのです」

「……うん。絶対に、勝つよ」

「なら、いいです。もう、何も言う事はありません」


 結局は、当初の目的通り、魔王を倒すだけです。先に待ち構える物がちょっとだけ変わったけど、ボク達ならきっと、目的を果たす事ができるはずです。だから、何も恐れる事はない。鞭をもったアスラに酷い仕打ちをされる自分の姿を想像してしまったけど、そんなの、想像する必要すらありませんでした。

 だって、ボクは勇者で、加えて頼りになる皆がついているから。


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