ずるいと思います
ボク達は、眼鏡の男の人。オルクルさんに、今起きた事を全て包み隠さず、話した。オルクルさんは、ボク達の言う事を疑うことなく聞き入れてくれて、あの神父さんを厳罰に処すと、約束してくれた。
「しかし、あの男だけではありませんよ。恐らく、協力者がいます。だから、男はダメなんです。女性を性欲の捌け口としか見ていない、獣です。男は、全て排除すべきです。男はいりません。女性だけの組織にしたらどうですか」
改めて、用意されたお茶を飲むユウリちゃんは、ノリノリだ。オルクルさんに、そんな事を訴えるけど、オルクルさんは男だし、ボクも元男で肩身が狭い。
「そこは、私の一存ではどうにも……すみません」
「大体にして──」
ユウリちゃんの、男イラナイトークは続く。
ボクは、そんな2人の会話をよそに、ボクの膝上に頭をのせ、気持ち良さそうに眠っている、イリスの頬や耳を触り、楽しんでいる所だ。薬で眠らされているイリスは、起きる気配がない。どこでも、どんな場所でも、触り放題である。
髪、サラサラだし、気持ちいい。頬は柔らかくて、気持ちいい。耳もこりこりさらさらで、気持ちいい。どこを触っても、気持ち良いです。
「んー……ネモ……」
寝言で、ボクの名前を呟いたイリス。それが、破壊的に可愛くて、ボクの心は射抜かれてしまった。
「ですから、男はこの地上から消すべきで──」
「わ、分かりました!この話は、この辺でやめておいて、本題のクエストに関してですが、依頼書にサインをしておきました」
ユウリちゃんの話を遮ったオルクルさんは、依頼書を机の上に置いた。そこには確かにオルクルさんのサインがあり、コレでクエストは終了。あとは、ギルドに戻って報告して、お金を受け取って、ようやく家に帰れる。
ただのお手紙の配達クエストなのに、長い道のりでした。
「……はい、確かに。では、お姉さま。暗くならない内に、帰りましょう」
「お待ちください」
立ち上がったユウリちゃんを、オルクルさんが呼び止めた。
「何ですか?今言ったように、暗くならないうちに帰りたいので、時間がないんですけど」
「お時間は、取らせません。よければ、我がラスタナ教会に、入りませんか?」
「──お断りします」
ユウリちゃんは、即答した。それも、凄く冷たい目で、オルクルさんを睨みつけながら。
「相手にする事はありません。行きましょう、お姉さま」
「え?ユウリちゃん?」
そう言って、ユウリちゃんは去っていってしまう。慌てて追いかけようと、ボクはイリスを抱き起こし、立ち上がる。その際に、イリスの頭を机にぶつけてしまったけど、起きる気配はなくて安心した。
「良ければ、コレを一緒に、お持ちください。何かの時に、お役に立つかもしれません」
机の上には、依頼書も置きっぱなし。その依頼書の上に、オルクルさんが小さな紙を置いた。そこには、オルクルさんの名前と住所みたいな物が書かれていて、多分名刺なのかな。
ボクは依頼書と、その名刺と、ついでにイリスを抱きしめて持つと、ユウリちゃんを追いかけて走り出した。
「まるで、猛獣使いだな」
去り際に、部屋の中からそんな呟きが聞こえてきたのを、ボクは聞き逃さない。でも、大して気にする事もなく、ボクは教会を飛び出した。
教会を出て、すぐそこにある銅像の前に、ユウリちゃんはいた。ボク達を、そこで待っていたみたい。
「ユウリちゃん!ダメだよ、一人で行っちゃ!」
「ご、ごめんなさい、お姉さま」
駆け寄ったボクに怒られて、しょんぼりとするユウリちゃんだけど、何もないならそれで良い。
なので、俯いて撫でやすくなったその頭を、ボクは撫でた。
「大丈夫だよ。帰ろう」
「……はい。お姉さま、愛しています!」
突然の、ユウリちゃんの告白。そして、腕にしがみついて来る。ボクは、片方の腕はイリスを抱いていて、もう片方の手はユウリちゃんに支配されてしまった。自由のなさに窮屈さを感じながらも、嫌な感情は一切わいてこない。むしろ、ユウリちゃんの胸の感触を腕に感じて、天国です。
「ひゃ!?」
だけど、どさくさに紛れたユウリちゃんの手が、ボクのお尻をやらしい手つきで撫でてきたのは、見逃せない。
「ぐへへ……お姉さまのお尻、可愛い」
「ゆ、ユウリちゃん?」
「ふふ。大丈夫。お姉さまが感じられるよう、私頑張りますから」
更にやらしい手つきになったユウリちゃんの手は、ボクの太ももをなで、スカートの中にまで入り込もうとしてくる。確かに、ちょっと心地良い……けど、こんな公衆の面前で、こんな事をされても困るだけ。
「ユウリちゃん。お尻に、触らないで」
ボクは、ユウリちゃんの奴隷紋に、そう命令した。その瞬間、ユウリちゃんの腕が、あらぬ方向へ飛んでいく。
「あだ、あだだだだ!折れる!折れる!」
ユウリちゃんの訴えに、ボクは慌てて命令を解除。どうにか、腕は無事のようだけど、ユウリちゃんはとても痛そうだった。腕を庇うようにして、息を荒くしている。
「ゆ、ユウリちゃん、大丈夫……?」
「はぁ……はぁ……ご褒美、ありがとうございます、お姉さま。ユウリはやっぱり、攻めるよりも攻められる方が好きです。もっと、いたぶってください」
「あ、うん……」
何故か、興奮した様子のユウリちゃんに、ボクはドン引きです。
でも、ユウリちゃんらしいと言えば、ユウリちゃんらしい。突然、教会を飛び出してしまって心配していたけど、そんないつもと変わらない、ちょっと変態なユウリちゃんに、安心した。
「ネモお姉さま、私が疲れていると思って、教会で休憩をしていく事にしました?」
「あ……う、うん。そうかな、と思って……」
「やっぱり。お姉さまが、自分の意思でそんな事言い出す事あるはずないと思うので、そうだと思いました。お気遣い、ありがとうございます。実は、ちょっぴり疲れていましたので、助かりました」
「やっぱり、そうだったんだ」
ほとんど勘みたいな物だったけど、合っていた事が嬉しかった。
ただ、さっさと帰っていれば、無用なトラブルを回避できた気がしないでもない。わざわざ教会で休憩しなくても、他の場所で休憩すればよかったなと、今考えればそう思う。
「おかげさまで、体力回復です。張り切って、帰りましょう!」
そう言って歩き出すユウリちゃんに、ボクも続いて歩き出す。
「ネモお姉さま」
歩き出したユウリちゃんが、すぐに立ち止まり、振り返った。ボクは名前を呼ばれて、首を傾げると、ユウリちゃんは頬をわずかに染めて、恥ずかしそうに口を開く。
「……お尻はもう触らないので、帰りは手を繋いで行ってもいいですか?」
そんな美少女からのお誘いを、断れるはずがないです。
ボクは、服で手を軽く拭ってから、手を差し出した。その手を見て、ユウリちゃんは太陽のように輝くような笑顔を浮かべ、握ってくる。
いつも、断りもなくセクハラしてくるのに、こういう時に限って許可を取ってくるのは、ずるいと思います。
でも、ユウリちゃんの小さくて柔らかな手と、温かい体温は、控えめに言って最高だ。
ボクは、幸せを感じながら、帰りの道につきました。




